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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
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第26話.ギルドマスターと依頼

 

「いやあ、まずはすまんと言っておこう」



 そういって笑いながら頭を下げるのは、シーカーズギルドのギルドマスターであり竜人族のスオウ。


 傍らに控えるセナナがじっとりとした目を向けている。


 この枝分かれした2本の角を持ち逞しい尻尾をゆらゆらと振るスオウは、セナナの視線にまるで宿題を母に見張られている子供のごとく居心地の悪さを感じているらしい。


 実際目付け役なのだろうと思った。



 レーンとカルナ、そしてラドの3名は、昼のスオウからの襲撃の後、彼女らにそのまま連れられシーカーズギルドのギルドマスター室に足を運んでいた。


 件の黒い服の者たちはスオウが普段オルフェオンの街に忍ばせている諜報員だたそうだ。


 大きな椅子に胡坐で座るスオウは、レーン達を案内してすぐに謝罪の意を示したのだ。



「どうしてもその力をこの目で見ておきたくてなあ。ここ数日部下を監視に付けていたが、先の大樹イノシシとの闘い以降はまるで戦闘が起きていなかったもので……いや、強硬手段を取ってしまった」


「はぁ……」


「ラドと言ったの。蹴って悪かったな」


「まったくだぜ……子供のくせに盾の上からなんつー威力だっての……骨折れたかと思ったぞ」



 スオウはにまーっと笑うとどっかと足を組みなおす。



「くふふ! 子供じゃって〜わしはラドの数倍は生きとるんじゃがなあ~。やっぱりお肌のつやかのう? のうセナナ、まだ若く見えるじゃろ?」


「外見詐欺」


「ひどいのぅ……」



 若く見られ(子供にしか見えないが)くねくねと喜んでいたスオウはセナナのバッサリと切り捨てる発言によよよと泣き顔になる。


 確かに竜人族は天人族や魔人族のようにレーンら真人族と比べて大変長寿でるから、あの外見でも実年齢は大分いっているのだろうか。


 レーンはそんなスオウを眺めながらやはり疑問が捨てきれなかった。



「ギルドマスターが竜人族だったなんて……全然知らなかった……」



 レーンの呟きにスオウが反応する。



「くふん。以外か? 竜人族がこのような大国連盟の管理職についているのが」


「そ、それはもう。僕も初めて竜人族にお会いしましたし……知る限りでは竜人族は世間に出ることを嫌う閉鎖的な種族だと……」


「吾輩としても気になるね。なんせ100年前の戦いですら中立を保っていた程だと言うからね」



 カルナはじっとスオウを見ながらそう言った。レーンはカルナの口から出た100年前の戦い……すなわち当時の魔王が世界を征服しようと魔人族を率いて連合と戦った戦いの事に、妙な生々しさを覚えた。


 カルナの発言にスオウがにまっと笑うと、椅子から降りて歩きながら言う。



「その通り。だからこそシーカー連盟の重鎮という役目は返って都合がいいんじゃよ」



 スオウは部屋をのんびり歩きながら面々に向けて語る。



「知っての通り、世界には72の神々がそれぞれ加護を与え作り出したとされる様々な種族がおる。中でも強大と言われておるのが、まず真人族、天人族。そして……魔人族。加えて我ら竜人族じゃ」



 スオウはカルナをちらりと見やって言う。カルナは何を気にした様子でもなくじっと腕を組んでスオウを見ていた。



「そして真人族の大国である帝政ヴァンドール、天人族の導く神聖ユーライア皇国、そしてかつての戦いで魔王を倒した勇者達を輩出し未だにその栄光あるベルベチカ王国が主だって連合の主幹となり、設立されたシーカー連盟じゃ」



 シーカー連盟に参画している国は多い。しかし主導となっているのはスオウの語る3国であり、列強たるこれらは連盟の中では絶対の権力を誇る。



「じゃからこそシーカー連盟という組織はエトセトラという資源に対し完全中立を謳い設立されたものじゃから、だれをその組織の重鎮に置くかで問題が起きたわけじゃ。各国はもちろん自国の人間を置きたがったが、それでは別の国から抗議の声も上がる。エトセトラという共通資源を自国に有利になる様に贔屓するのでは、とな」


「自分の国に有利になる様にズルをするってことか」



 ラドが顎に手を当て呟くと、スオウがラドの前にやってきて背伸びしながらその胸をつついた。



「正確にはズルをするじゃろうと言いがかり他国をけん制する口げんかが始まったわけじゃ。やるだろうするだろうという憶測合戦がのう」


「エトセトラでの主権をより有利にしたいから……ふふ、中立が聞いてあきれるじゃないか」



 カルナが苦笑するとスオウはにっこり笑って両手を広げた。



「そう。じゃからこそ竜人族にそのお役目が回ってきたわけじゃ。竜人族は世間より隠れ、他国はおろか世界に干渉しない中立そのもの。そんな竜人族ならば公平じゃろうとな」



 スオウが語るが、やはりレーンは疑問を覚えていた。



「でも、これまでずっと中立を貫いて俗世から隠匿した独自の文化を持つ竜人族が、大国の都合でそんな役目を受け入れたのですか?」



 偏屈で他種族とのかかわりを持ちたがらず、誇り高い文化を持つという竜人族が面倒ごとを押し付けられるとは思えなかった。


 まして精強さでは随一の竜人族だ。都合よく自分たちの楔になってくれなどという大国の要請に応えるものだろうか。



「そこはほらのう……わしだったわけじゃよ」



 スオウはレーンの問いに笑いながら答える。



「わし面白そうなこと大好きじゃし」



 笑うスオウに一同は気抜けする。セナナも心なしかジト目がいつもより閉じ気味でいる。



「ギルドマスター、竜人族の中でも変人」


「直球じゃなあセナナは。まあ連盟から連絡を受けた時、わし以外は誰もやりたがらなかったからのう」



 話に聞けばまるでふざけた理由だが、スオウの人柄を見るに本当に興味心だけで引き受けたのではないかと納得してしまう。


 ルリリ達の様子も様子だったし、三人はだいぶ苦労しているのではないかとレーンは思う。


 と、カルナがスオウに面と向かうと、その額を指で小突いた。



「ぁだッ」



 スオウが短い悲鳴を上げる。なんて事を。


 ギルドマスターの頭を小突いたカルナにレーンは顔面蒼白になるが、カルナはすました顔のまま言う。



「お話はもういいよ。吾輩達にあそこまでしたんだ。本題とやらに入ったらどうかな」



 頭を小突かれたスオウはにやあと笑った。



「そう急くものでもないじゃろ魔人の王。しかし頃合いじゃから……もうすぐ来るじゃろう」


「うん?」



 カルナが疑問符を浮かべていると、ギルドマスター室の扉がノックされる。



「くふ、来た来た。おーう入れ入れ」



 スオウが言うと扉が開かれ、男女三名が入室してきた。


 そして先頭にいた男がレーンを見るなり嬉しそうに声をかけて来たのだ。



「よう、ルーキー! 元気だったか?」


「レバンさん!」



 入って来たのはレバンらのパーティ。レーンを見るや否や近寄ってきてその頭をわしゃわしゃと撫でる。



「わぶ……撫でないでくれますか……レバンさんもうお体はいいんですか? うぐ、撫で……撫でないでくれると」


「この前は世話んなったな! もうピンピンだぜ!」



 撫でる手をレーンに振り払われながらレバンは笑う。


 フランタックとユルネアもスオウに軽く挨拶をしてレーン達に並んだ。



「言ったでしょうすぐに治るから心配ないと。レバンは回復力が常人離れしているのです」


「そーそー。死にかけたのも初めてじゃないしねー」


「おうよ。俺は不死身だ」



 フランタックとユルネアが呆れる。レバンはにやにや笑いながらレーン達の横に並び立つ。



「あの、レバンさんたちも来たことと関係が?」



 レーンの問いにスオウが答える。



「その通りじゃ。レーン、お前たちの力を試したのはほかでもない。とあるクエストのためなのじゃ」


「クエスト?」



 レーンの疑問に、レバンが事の次第を説明し始める。



「実はな、少し前に俺たちが戦った大樹イノシシだが……俺たちが見つけた時には既に手負いだったんだ。様子も何かから逃げているようだった」


「え?」



 その言葉にレーンは酷く驚く。父の手記によればオルフェオン近郊では大樹イノシシが最も危険な魔物であるし、その発生は異常成長の果てであるから発生率も高くない。そんな大樹イノシシを手負いにできる魔物はあの森にはいない筈なのだ。


 そんな疑問を浮かべるレーンの心を読んだようにスオウが話を続ける。



「疑問に思うのも無理はない。わしとてフランタックから報告を受けた時は驚いた。大樹イノシシを越える魔物が現れたのではないかとな。故にわしも独自に依頼を出してここ数日は森を再調査してもらっていたんじゃ」



 再調査クエスト。そんな依頼は掲示板には張り出されていなかった。


 おそらくスオウ自身がシーカーに声をかけて回った……指名クエストというものだろう。



「それで調査した結果、先日森の中の一角にぽっかりと遺跡の入り口が発見されたのじゃ。もちろん、探索しつくされたと思っていた森じゃ。おそらく最近突然出現したと思われる」


「遺跡が突然出現なんてそんな事あんのか?」



 ラドが疑問を浮かべるが、スオウは尻尾を振りながら笑って答えた。



「ラドよ。ここはエトセトラじゃぞ?」


「う……」



 そう。この地は謎の大陸。エトセトラ自体が前触れなく突然出現したのだ。遺跡の一つや二つが急に現れたとておかしくはないのだろう。



「続けるぞ。その遺跡をレバンが軽く下見してくれてのう。どうやら魔物の巣窟になっているようじゃ。森に出てくる気配はないが、いつ出て来るとも限らん。何より……」



「大樹イノシシを手負いにできる何かがいる……」



 レーンが呟くように言葉をこぼす。スオウはそれに大きく頷いた。



「その通り。あの森はオルフェオンも近い。シーカーを預かるギルドマスターとしてこれには対処する義務がある。そこでじゃ」



 スオウは一列に並ぶ面々を一人一人眺めた後、真剣な表情で言った。



「お前たちにわしからの指名クエストとして、この遺跡の調査、および遺跡に潜むと思しき危険な()()の討伐を頼みたい」

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