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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
25/47

第25話.謎の少女VS魔王

 


 ラド程の大男、それも重い鎧に身を包んだ〈重装剣士(ガーディアン)〉を蹴り飛ばすなど並ではなかったが、それを行った犯人はレーンよりはるかに小さい女の子。


 その女の子も、面は着けていないものの先ほどの者たちと同じように黒いフードのついた装束を纏っていた。違う点といえばフードに耳のようなものがついているくらいか。


 レーンは驚きながらも少女に対峙する。



「くっふふふ! よくあの人数から逃げたものじゃなあ! 見事な采配と地形を利用した戦術よのう!」



 と、女の子が突然レーンに向けてにかっと笑って話しかけてくる。



「それにあの術式の複製。易々とできるものではない。およそ初級魔術に限られるじゃろうが……術式を一から新しく編み上げるのではなく同じ術式を複製し詠唱なしで連発可能。ふむ、たぶん別の魔術ですら、完成直前までを複製して改変すれば応用が利きそうじゃな」



「なに……?」



 レーンの術式の複製はとっておきの得意技だった。少女の言う通り初級魔術に限るが魔力を多く消費するものの詠唱なしで連発が可能。それは先ほど見せた〈風羽の音(フュアロ)〉で使ったもの。


 しかしこの少女はもう一つの得意技である複製後の改変すら看破した。養成学校でもあまり人に見せなかった技であったのに。この子は何者なんだ。



「で、だ。わしはお前に用がある」


「さっきの人たちに僕たちを襲わせたのも君か!?」


「ご名答。必要な事じゃった。ちと気になったものでな」



 女の子は笑うとレーンの……影に向かって笑いながら言う。



「わしはお前と、お前の契約しているという使い魔に用があるんじゃ。そう……()()()()()()()


「ッ!」



 レーンが目を見開いて驚く。


 そして驚く視界の中に、レーンの影から姿を現すカルナの背を捉えていた。



「カルナ……!」


「ご指名とあっては影に潜んで傍観ばかりしているわけにもいくまい?」



 カルナはにやりと笑いながらレーンの前に立つ。


 対する謎の少女も歯を見せて笑いながらカルナを見ていた。



「おおう、おいでなすったか! 先ほどまでてんで姿を現さないものだから、わしが直接出てきたわけだが……その甲斐はあったようじゃな」


「あのような連中に我が主とその親友が脅かされるとは思わなかったからね。騒ぎの喧騒も吾輩の眠りを妨げるほどではなかったさ」


「流石の胆力じゃなあ! いや、術士への信用が故か? しかして結局、わし相手では寝ている場合ではないと察したわけじゃ。うんうん、賢明賢明!」



 レーンはカルナと少女が対峙する光景に何かできることは、情報はと頭を巡らせる。


 そしてまた、カルナの背に立つ自分に気づいて嫌になる。


 それはカルナがレーンを守るように前に立った行為故であったが、レーンはカルナの隣に立つと少女に問いかける。



「僕らに用があるって、どういうことなんだ。それに、カルナが魔王だって言ったな。……君は何者なんだ」


「わしか? わしの事はいいじゃろ。実はお忍びでな」



 そうウィンクする少女にレーンは拳を握り締める。



「遊びじゃないんだぞ! ラドを蹴っておいて!」


「くはは! ああでもしないとお前の魔王は顔を出さんかったじゃろう」



 レーンがラドの突っ込んだ樽の残骸を見る。カルナもその視線を追ってラドを見る。完全に残骸に埋もれているがかろうじてその右足が残骸から出ている。


 カルナは眉根を寄せると爪を噛み、レーンに口だけ笑みを浮かべて言った。



「レーン、殺さない程度に痛めつけてやろう。(しつけ)、あるいは仕置きというやつだよ」


「何? カルナ、待っ」


「分かっているなら話が早いからね。魔王の仲間に手を出しておいて、ただで帰れるとは思わないことだよ」


「くふ! もとより此方(こちら)もその腹積もりよ!」



 カルナと少女は同時に地を蹴る。地を蹴った際の衝撃波に舞い上がる風と土埃に思わず腕で目を守るレーン。涙目を拭って見た光景は恐ろしい勢いで互いに向かい疾駆するカルナと少女。


 そして両者の繰り出した蹴りで足同士が交錯した。



「……っ!?」



 カルナの蹴り足を少女は蹴りで受け止めたのだ。


 カルナが勝手に飛び出したのも驚いたが、それよりも加減こそあろうが大樹イノシシの大顎を中空に蹴り上げる威力のカルナの膂力に拮抗するあの少女にこそ驚いた。


 両者高めの蹴り足がぶつかりあったままの姿勢で笑いあう。



「なるほど、足がじんじんするのう! すさまじい身体能力……じゃが、本来のものには及ぶまい?」


「キミ、何者だい?」


「もう少し遊んでくれたら答えてやろうさ!」


「ああ、いいだろう。遊んであげるよ」



 カルナは飛び下がり、魔術詠唱を開始する。魔法陣の方円は二重紋を描いている。


 同時に少女は両掌を合わせ、同じく何かの構えをとる。


 カルナは魔術を撃つ気だ。人に向けてカルナの中級魔術なぞ撃たせるわけにはいかないとレーンはカルナを止めようとするが、カルナの詠唱は早かった。


 両腕を交差させて頭上に掲げ、伸ばされた腕先に魔法陣と黒い電を纏う球体が発生する。


 その球体を見て笑う少女。足を大きく前後に開き、両掌をぴんと張ったまま左右に腕を伸ばす構え。



「その無礼の清算だよ……!〈黒闇雷球(スカージ)〉!」



 カルナの詠唱完了と同時に膨れ上がった黒球を撃ちだすカルナ。中級の闇魔術だがその威力はカルナが詠唱し撃ち出したという一点で一般的なものとは一線を画す。


 同時に深く腰を下げて構えた少女は黒球に正面から向かい合う。



「まずい......だめだ、避けろ!」



 冷や汗を流しながらのレーンの叫びをも意に介さず、少女はにかっと笑った。



秘奥竜武(ドラゴンズコード)……〈蹴撃(キック)〉!!」



 そして体を大きくひねり、黒球へ向けて蹴り込んだのだ。


 少女の蹴り足と黒球が接触した瞬間、黒球は弾け、黒い光が広場を覆った。


 あたりにぱちぱちと電流の残滓が残り、着弾した少女は煙で見えない。


 レーンの顔から血の気が引いていく。や、やってしまった、と。



「か、カルナ! 何してるんだよ! もっと手加減を……!」



 焦ったレーンの言葉を、しかしてカルナは冷静な声色で切り捨てる。



「キミこそ何言ってるんだよレーン。よく見たまえよ。手加減はした。最も、加減の必要はなかったらしいがね」



 レーンはいまだ爪を噛み、鋭い目をしたままのカルナの様子に、煙立ち上る先を見やる。


 そして煙が晴れた時には、にこにこと笑っている少女が目に映った。



「無傷……!? 蹴りで、カルナの魔術を打ち消した……!?」



 確かにレーンは少女がカルナの魔術に蹴りを打ち込んだのを見ていた。


 少女は蹴りの姿勢そのままに片足立ちで、そこに居たのだ。



「く、くふふ……いやあ加減とはよくも言ってくれたものじゃな……? 中級魔術でこの威力とは……わしでなければどうなっていたか……うぉぉ、足が痺れる……」



 上げたままの足がプルプルと電流に震えているが、確かに打ち消して見せたのだろう。そしてもう一つ。レーンが驚いたのは、衝撃でまくれあがったフードのせいであらわとなった少女の頭頂部。


 そこには二本の、途中で枝分かれした角が生えていたのだ。



「まさか……竜人族だって……!?」



 少女は竜人族の特徴を確かに備えていたのだ。文献や歴史書でしか聞いたことのない希少種族である竜人族の特徴的な角。そしてよくよく見ればローブの下から覗くのは太く逞しい尻尾ではないか。


 カルナの魔術をおそらく武術技(スキル)であろうが体一つで打ち消す力も()()竜人族ならば納得できる。


 だが、だからこそ存在に謎が深まるばかり。


 そんな少女がどうして自分たちを……!


 レーンは改めて眼前の少女を子ども扱いなどできる相手ではないと認識し構える。


 カルナも再び魔術を撃ち込むべく詠唱を開始する。



 と、そこへ素っ頓狂な声。



「あうあうあ~! ストップ! ストップですう~~!」



 見るとノララが叫びながら広場に走ってきている。ノララだけではない、その後ろからルリリとセナナも走ってきていた。3人ともこんなところへ来るなんて、受付仕事はどうしたのか。



「ルリリさん達!?」


「とにかくストップ! レーンもカルナを止めて!」



 ルリリが叫んで少女とレーン達の間に入る。ノララはレーンに駆け寄ってくると、すぐに酷くやられてないか怪我はないかと聞いてくる。


 セナナは一直線に残骸に埋もれるラドのところへ。手当箱を持っているのが見える。


 ルリリたちの登場にどういうことかと傍観していると、ルリリが少女に詰め寄っていく。



「もう! 勝手にこんなことをして! 目を付けているとは思っていましたけどこんなことまで……する人でしたね貴女は! ええする人でした!」


「……別にー……よいではないかルリリ。怒らんでくれよう……ほんの興味心なんじゃ……」


「や、怒りますから! やりすぎなんですよ大体! 興味心で街中で傷害事件とかたまったもんじゃありませんよ! スオウ様!」



 ノララが苦笑しながらその光景を見ている現状。


 レーンは、そしてカルナですら状況が呑み込めずに目をぱちくりさせている。


 そこへルリリとスオウと呼ばれた少女がレーン達のところへ近づいてくる。



「レーン、すまなかったね。この人遊び感覚で気に入った相手の力を計りにくるから……私たちも気を付けていたんだけど抜け出されちゃってね……」


「あ、あの……その子はルリリさんたちのお知り合い……?」


「知り合いも何も……」



 ルリリが困ったように言葉を紡ごうとしたところで、腕を抑えるラドと、それを支えるセナナが戻ってくる。


 そしてセナナがスオウを見ながら言うのだった。



「その人、シーカーズギルドのギルドマスター」


「「えぇええ!?」」



 驚くレーンとラドに、ギルドマスターであるというスオウは、くふっと笑うのだった。

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