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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
24/47

第24話.襲撃者

 



 レーン達がエトセトラにやってきてから早10日が経った頃。


 レーン達はオルフェオンの中央からはやや外れた通りを歩いていた。


 今日までレーン達は採取系や気性の荒い草食の魔物等の討伐クエストをこなしていた。


 初クエストであった件のあの日以来、幸いか大樹イノシシのようなイレギュラーは発生しておらず、順調にコツコツとシーカーとしての仕事に勤しむことができていた。


 という感じで今日も今日とて午前中で採取クエストを終えて早帰りしてきたところである。


 というのも……



「……うん、ちょっとお金にも余裕が出てきたから、今日は装備品を見て回れそうだね」


「っし! この時を待ってたぜ……装備更新……新しい道具の仕入れ……男が憧れるロマンイベントに俺ついに至れり!」


「大げさだなあ……」



 あれから毎日クエストをこなしていたことと、レバンらに分けてもらった大樹イノシシ討伐ボーナス報酬を合わせた貯蓄に余裕ができてきたので新しい装備や道具でも見に行こうという話になっていたのだ。


 現在の装備に不満があるわけでもないし、目立って更新する必要性はないのだが、せっかくだし見るだけ見てみよう程度のノリから始まり、なんだかんだで気分が高揚した二人はとりあえずオルフェオン指折りの装備品店に行ってみようという話になったのだ。


 見るだけ見て、いいものがあったらお財布と相談して買ってみよう。高すぎたりめぼしいものがなければ去る。連日のクエストで張った気を休める休息も兼ての買い物計画というわけだ。



「っていうかレーンよう」


「何、ラド」



 ラドが通りを歩きながら、両腕を頭の後ろで組んだまま若干聞きにくそうに尋ねる。



「……お前、カルナと何かあったか?」


「えッ! な、なにもないよ!」


「そうかあ……?」



 ラドが訝しむ。


 レーンはラドの言葉が胸に刺さるが、それには理由もあった。


 レーンとカルナは、あの日以来一見すると何かが変わったという様子はない。


 しかしカルナはクエスト中はともかくオルフェオンに着くなり影に入り、イ・シャールに帰るまでは外に出てこなくなった。


 来たばかりのころはあれほどオルフェオンの町に目を輝かせていたのにとラドは語る。


 レーンはうつむいて押し黙ることしかできない。カルナはレーンに気を使っているのだ。自分が表立って出ることがないように。


 そしてレーンは恥ずかしながら、そんなカルナへの向き合い方をいまだに固められずにいた。


 ちらりと自分の影を見るレーン。影は沈黙するただの影だ。うんともすんとも言わない。こちらの視線を感じられるのかは不明だが、カルナはおとなしくしている。


 もちろん、呼んだり有事の際にはすぐに出てきてくれるのだが……。



(あの日の騒ぎと……上手に……じゃなくて、しっかりとカルナの事を周囲に説明できずに居た事……。僕自身彼女が魔王だなんだっていう言葉に向き合わずに曖昧でいたから、彼女はそれでいいって言ったんだ。だけど……)



 レーンは影を見ながら唇を噛む。



(なんだか、この感じは……嫌だな)



 この問題の解決……それはやはり彼女を知ることだ。その上で、レーン自身が思った考えを固めるしかない。


 魔王かもしれない。恐ろしい魔人族だと本人は言う。それを裏付けるに足りうる強さを彼女は持つ。だが、人間にしか見えない。女の子にしか見えないから信じきれない。


 そして、信じきれないから……彼女のことを真に信用できずに、周囲には隠してしまう。腫物を扱っている気分だ。


 彼女が味方であったことは事実なので、このレーン自身の考えは今のままではただの罪悪感として圧し掛かるだけであり、関係の正しい改善にはならないだろう。


 実のところレーンは今回の買い物のついでに歴史書をもう一度読み直そうと考えていた。


 魔王に関する文献は、どこもかしこもおとぎ話ばかりで、ほんの100年前は人間として扱われていた魔人族に関する記述さえほとんど残っていない。


 意図的に消されていたと考えるのが妥当であり、理由も魔物に情けでもかけないよう、人であった事実を隠蔽しそれこそ化け物のような容姿をしていると世間には教え込んだのかもしれない。


 もしそうであればカルナの言うことの信ぴょう性は増すし、そうでなければカルナが嘘を言っているだけだ。どちらにせよ正しい情報が欲しかった。



「なに辛気臭い顔してんだよ。喧嘩したなら仲直りすりゃいいじゃねーか」


「いや、喧嘩ってほどじゃないんだけど……さ」


「よくわかんねーが、仲良くしろよなー。お前ら、召喚士と使い魔。言っちまえば相棒。んで一心同体。どっちかがやられればもう片方もやられる。そういう関係だろ」



 ラドの言う通りだ。


 こと戦いにおいては使い魔が滅びれば術士だけではまず助からない相手ということだし、術士が死ねば魔力が供給できずに使い魔は霧散する。


 そう。カルナは……レーンが死んだらどうなってしまうのだろうか。



 そんなことを考えながら歩いていた時である。


 周囲の路地のいたるところから黒いフードローブ姿の者達が次々と現れた。


 そして、レーンとラドの前に立ちはだかる。



「な、なんだ……? この人たち……」



 黒い装束の者たちはフードの下に皆一様に文様の書かれていないのっぺらとした白い仮面を付けている。


 シーカーではない。オルフェオンの自警団でもない。



「すみません、僕達に何か用ですか?」



 レーンの問いに黒い者たちは答えない。


 ただじりじりと進路をふさぐように動く、左右にもゆっくりと動き、包囲しようとするかの動きだ。



「おいおい、穏やかじゃないぜ」



 ラドの声にレーンは後ろを振り返ってみると、背後にもいつのまにかその黒い者たちがおり、退路もふさぐ形となっている。


 ラドがゆっくりと背中に背負った盾に手を伸ばす。



「ちょっとラド……剣はだめだよ」


「わかってる」



 と、レーンとラドのその会話を合図としたか、黒い者たちのうちの一人が姿勢を低く構えたかと思うと、腕を大きく救い上げるようにして大きく振った。


 刹那、銀色のきらめきを見たラドが盾を取り出し、投擲されたナイフを何とか弾き防ぐ。



「嘘だろッ……!?」



 ラドははじいたナイフを見やり唖然。


 と、今の初手に続くように黒い者たちは次々にナイフや剣、弓や杖を構え始める。



「問答無用!? こんな街中でッ……!」



 レーンは驚きながら周囲を見る。


 近くにいた通行人たちは慌てふためいて逃げるようにする者、何事かと野次馬しに来るもの等。


 なんにせよこんな場所で戦いなど正気ではない。



「ラド、君なにか襲われるようなことした!?」


「皆目見当つかないぜ!」


「とりあえず逃げよう……ここじゃまずい。人もいる。何より不利だ」


「おうよ……!」



 レーンはちらりとラドに目配せすると、ラドの頷きを見て右手の指を組む。


 と、黒い服の者の一人が杖を掲げ属性魔術を詠唱する。描かれた方陣は一重紋。


 中空に石の弾丸が生成され、勢いよく放たれる。


 レーンは容赦のなさに驚きながらもあわてて対抗術式を練る。



一重紋魔術式(シングルスペル)……! 大気の吐息をここに……〈風羽の音(フュアロ)〉!」



 レーンの組んだ指。その伸ばされた人差し指と中指の先に生じた魔法陣に空気が圧縮された球が生成される。


 初級魔術、〈風羽の音(フュアロ)〉。大気を操るだけの初級魔術。しかして圧縮された空気は炸裂した際になかなかの衝撃力を持つ。


 レーンは空気球を撃ち放ち、飛来する石の弾丸を相殺する。



「術式複製……!!」



 レーンが言葉を紡ぐと、今撃ちだしたばかりの空気の球が再びレーンの指先に生成されている。



「バカな……詠唱はしていなかったはず……」



 石の弾丸を放った黒い服の魔術師が驚きの声を上げる。


 同時にレーンが指を縦一文字に切り、指先の空気球を地面へと叩きつける。


 圧縮された空気玉の炸裂により周囲に瞬間的に強烈な一陣の風が吹き流れた。


 黒い服の者たちは驚いたように強烈な風に意識を一瞬奪われる。



 その隙にレーンとラドは包囲が薄い合間を縫って細い路地に駆け込んだ。



 レーンが先、ラドが盾を背負って後ろという構図で細い路地を駆け抜けていく。迷路状の路地を右へ左へ。


 背後からは黒い服の者たちが追ってきているのを感じる。いったいどこまで追ってくるつもりなのか。自分たちが追われる理由もわからないまま逃げ続ける。



「これじゃあまずいな……!」


「あいつらなんなんだよ!」


「わからないけど、逃げ続けるのは限界があるね……やるしかないよ、ラド!」


「仰せのままに!」



 レーンは走りながらラドに指示を出す。ラドが親指を立てて承諾すると、レーンは目を閉じ魔術を詠唱し始めた。




 黒い服の者たちは路地を曲がり、曲がり、追撃をかわそうとするレーンとラドをずっと追いかけていた。


 角を曲がり一瞬視界から消えるものの、引き離されることはなくずっとラドの大きな鎧姿と背負った盾を補足している。


 と、突然ラドが立ち止まる。まがり道がしばらくない直線路地のど真ん中。観念したのかと黒い服の者たちはここぞとばかりに加速をかけて直線路地になだれ込む。


 そしてあわやラドまであと5mといったところで、振り向いたラドの姿がぼやけ、レーンへとその姿を変える。


 黒い服の者たちははっとして気づく。



「幻影魔術……!!」



 気づいた時にはレーンはすでに術式を詠唱し終えていて、指を縦一文字に切り地面に魔力を走らせた。


 途端にレーンと黒い者たちの間に立ちふさがるように地面が隆起し、地面に敷き詰められたレンガでできた壁が出現する。土石を操る初級操霊術、〈石壁(ウォルロック)〉。


 進路をふさがれた黒い者たちは慌てて一同周囲を見渡す。直線路の正面をふさがれては下がるしかない。そして皆が背後を振り返った時、そこには大盾を構える〈重装剣士(ガーディアン)〉の姿。



 ラドは盾を前面に構え猛スピードで突進した。



「一網打尽だぜッ! 〈シールドチャージ〉ッ!!」




 ラドは武術技(スキル)を使用する。魔術などが不得手な近接ジョブなどが己の体内霊素を利用して繰り出す様々な技。


 武術技(スキル)を発動したラドの構える大盾は輝くオーラを纏い、その大きさを一回り増した輝く盾となる。そしてその盾を構えたままダッシュの勢いそのままに黒い服の者たちめがけて突っ込んだ。


 黒い服の者たちはラドの〈シールドチャージ〉とレーンが生成した〈石壁(ウォルロック)〉に挟みつぶされるような形となり、むぎゅ、という声とともに全員まとめて気絶する。



 ラドが背後を走っていたことで正面にいるレーンの姿は黒い服の者たちにはその図体で隠れ、見えなかった。だから途中でラドが直線路の手前で身を隠し、レーンが自分に幻影魔術を施しても、黒い者たちには二人一緒に逃げていると思い込ませることができた。


 ラドの前にはレーンがいると思い込ませるため、最初から一列でレーンを前にして走っていたのだ。


 そしてラドが途中で身を隠し実は背後で機を伺っていることを悟られずに直線路に追い込み、挟み撃ちで一人も逃がさず無力化することに成功した、というわけだ。



 〈石壁(ウォルロック)〉を解除したレーンにラドが駆け寄るとハイタッチをかわす。



「っへへ、うまくいったな! さすがは策士様!」


「いつ僕が策士になったんだよ」



 二人は気絶した者たちが起きる前に逃げようと、直線路を駆ける。


 そして路地を抜けた先で拓けた広場のような場所に出た。レーンはそこで安堵のため息をつく。


 他に追っ手もいないようだしこのまま……


 帰るなりギルドに行くなりしよう、とレーンがラドに言おうとした瞬間。


 レーンをかばうように盾を構えたラドが目に入り、次の瞬間には構えた盾ごと強烈な蹴りをもらって派手に吹っ飛んでいった。



「うおおおあ!!」


「ラド!?」



 吹っ飛んだラドは積み上げられていた樽に突っ込み、破壊しながらその残骸に埋もれた。


 レーンははっとしてラドを蹴っ飛ばした相手を見る。そして目を丸くして驚いたのだ。


 ラドを蹴っ飛ばし派手に吹き飛ばすような一撃を放った犯人はレーンの目の前で腕組みをしてにやりと笑っている。


 その姿に思わずレーンは声をあげてしまうのだった。



「こっ、()()!?」



 ラドを一蹴した犯人は、身の丈130cmほどしかない小さな子供。


 それも、()()()だったのだ。



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