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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
23/47

第23話.初クエストを終えて

 


 結局シーカーズギルドはレーン達を中心としたお祭り騒ぎとなり、騒ぎ立てた群衆に解放されたのは大分時刻が遅くなってからだった。


 カルナは周囲の反応に気をよくしたのか合わせて盛り上がっていたし。


 容姿も相まってちょっとしたアイドル状態であった。


 彼女が周囲と馴染むのはレーンとしては好ましい事ではあるが、それとこれとは最早話が別次元であり、巻き込まれた形のレーンは完全に憔悴しきっていた。


 帰り道でレーンは疲れ切った顔で、隣を何食わぬ顔で歩くカルナを見た。



「カルナ……なんだよさっきのは。すっごい注目されたじゃないか。君が目立たないようにあらかじめ釘を刺したのに……」


「いいんだよあれで。あのくらい突飛な方向に目立っていたほうが本質のカモフラージュになるってものさ」


「突飛すぎるよ!」


「ま、まあレーン。いいじゃねーか。ルリリさんたちもとりあえずは謎の使い魔で納得してくれたんだし」


「あれは納得じゃなくてそっとしておこう、みたいな目だったよ……もう、こんな変な目立ち方したくなかったのに……」


「お前本当人付き合いダメだな! 根暗なところは変わんねーもんなー」


「放っといてくれ……」



 レーンの人付き合いの下手さは折り紙付きである。もちろん本人も改善の意志はあるのだが。


 実際喧騒の渦中でレーンは随分と話しかけられたがその回答のすべてがしどろもどろであった。


 ルリリ達は途中から喧騒の輪から外れて執務に戻っていったが、あの別れ際の3人の表情は何とも言えないものであったのも悲しい。



 そんなこんなで疲弊した足取りでイ・シャールへと帰還する。予定よりだいぶ遅い帰りだ。


 夜更けに入り口の明かりに照らされて、煙草を吹かすトビが一行に気づく。



「よう、お疲れさん。……大分やつれてンなあ。”外”で揉まれたか?」


「トビさん……ただいまです。これはちょっとギルドで……」


「ギルドだ? ……まあいい。さっさと中に入ってやんな。ナコが待ちぼうけだ」



 トビが顎で扉を指し、レーン達は扉をくぐる。


 中に入るとすぐに、ロビーのソファに腰かけて本を読んでいたナコがぱぁっと顔を輝かせる。



「レーンさん、ラドさん、カルナさん! お帰りなさい! お疲れ様なのです!」


「ナコさん、ただいま。ごめんね遅くなっちゃって」


「いいのです! シーカーさんはお仕事ですから! お腹は空かれていますか? お外でなにか既に食べられましたですか?」


「ううん。お腹ぺこぺこ。ナコさんが料理を作ってくれるって聞いて朝からみんな楽しみにしていたよ。ね?」



 レーンは同意を求める視線をラドとカルナに回す。


 二人もうんうんと頷き肯定。ラドに至ってはさっきからずっとお腹の虫がうるさい程。


 先日の食事は持ち込みの弁当であったし、今日の朝と昼の食事はアイリッサ・ロウで仕入れた簡素な携帯食料であったから、ナコの作る食事が実質的にエトセトラ由来の初食事となる。


 何より朝早くから買い出しに出ていたナコの好意は無碍にはできないし、カルナが朝言ったようにレーンも楽しみにしていたのだ。


 ナコはレーンの言葉に嬉しそうに尻尾を振りながら両手を上げて笑った。



「わあ、よかったです! すぐにご用意しますから、お席についていてくださいですー!」



 そういって耳と尻尾をぴょこぴょこと振りながらぽてぽてと奥の食堂へ走っていった。


 その後ろ姿を満足げに眺めていたレーンをカルナが腕で小突く。



「子供の扱いは上手いじゃないか」


「そんなんじゃないよ。可哀そうじゃないか、せっかく作ってくれるのに」



 カルナのにまにまとした顔からぷいっと目を背け、照れたレーンにラドが思わず苦笑。



「そういえばハイゼリンにいたころも、レーンの奴子供と老人にはウケがよかったんだよな! よく色々貰ってたよな? あ、あとは年上の女性か。そこは恨めしかったぜ」


「そんなんじゃないってば!」



 レーンはラドの言葉に拗ね、ナコを追って食堂へ向かった。


 レーンはウケの良さを自分の纏う雰囲気が弱弱しいから、それで接しやすいのだろうというマイナスイメージで考えていたためである。



「ありゃりゃ、拗ねちまった」


「そのようだね」



 カルナとラドも笑いながらそのあとに続いた。



 ♢



 ナコが用意してくれた食事は一行が見た事のない食材の豊富に使われた庶民的だが温かな料理。


 野菜のタップリ入ったスープが空腹の体に染み渡る。


 色とりどりの野菜が華やかなサラダと、同じく口に含み咀嚼してみればシャキシャキと新鮮な触感が小気味よく、挟まれた炙りベーコンが味にアクセントと満足感をもたらすサンド。


 主菜には〈三又角牛(トライブル)〉というエトセトラに生息する食用魔物の肉を、あっさりとしたソテーにしたもの。脂身を落とすひと手間加えてあるのか、重すぎずに疲れた体でももりもりと食べられる。


 シーカーの事を考えて作られたであろうことがつぶさに伝わる品々だった。




 食事を終えて食休みをする面々を、ナコがうれしそうに見つめている。



「ごちそうさま。ナコさん、とてもおいしかったです」


「おう! まだまだ食えそうなくらいだぜ!」


「うん、同意だよ! 吾輩はナコの料理が好きになった。また異なる品目も食べてみたいところだね」


「えへへ、お粗末様です! 明日の朝ごはんも期待していてくださいですよー! お弁当もつくるです!」



 誉めの言葉に得意げに胸を張るナコ。


 小さい彼女が背伸びして頑張る姿は何とも愛らしいものだった。



「では、明日の準備をするので! あ、今度お仕事が忙しくないときに、冒険のお話聞かせてくださいです!」


「うん、約束する」


「えへへへ、では!」



 ナコはそう言ってイ・シャールの裏口から外へ出て行った。確か、貯蔵庫があるんだったか。


 と、ナコと入れ替わりでトビが食堂へやって来た。



「ん、ナコは?」


「裏手に行きましたよ。明日の準備をするって」


「ああ」



 トビは食卓に並べられた料理皿を眺める。すべて綺麗に平らげられている皿を一瞥すると、重ねて回収し流しへと置く。



「手伝いますよ」


「いや、いい。お前さんらは寝ろ。片づけは俺がやっておく」



 レーンの申し出を断ったトビは、黙々と皿を片付け始める。


 ラドなんかは満腹感に眠気が来たのだろう。欠伸をしている。


 やがて先立って席を立つと、おやすみと残して部屋へ戻った。


 レーンもカルナを伴って部屋に戻ろうとして、トビに呼び止められる。


「ナコに優しくしてやってくれて助かる」


「トビさん?」


 トビは淡々と流しで皿を洗う手を止めずに語る。


「俺ぁ昔から不良でな。ダメ亭主ってやつだよ。自分のことばっかりで家族や仲間を連れまわして、結局女房に逃げられてやっとこさ地に足付けようと思いなおした。んで、ぼろ屋だったここを買い取って宿をやり始めたわけだが……ナコはそんな俺にもついてきてくれてな。本当は母親についていきたかっただろうに」



 レーンとカルナは足を止め、トビを振り返って話を聞く。



「いいじゃないか。キミを慕ってついてきてくれた彼女の顔に後悔はないように見えるよ」


「はは、嬉しいことを言う使い魔だ」



 トビはカルナの言葉に笑った。



「ナコはずっと俺みたいな大人に交じって生きて来た。ひもじい思いもさせたし、同年代の友達なんかもいねえ。だから無駄にしゃんと育ちやがったが……お前らが相手してくれる時のあいつは楽しそうだ。たまに相手してやってくれ」


「……もちろんです。これからもお世話になります」


「彼女にはおいしい食事をまた作って頂きたいからね」


「ナコには言うなよ」


「はは、善処します」


 トビは片手をひらひらさせて答えた。


 レーンとカルナは部屋へと戻り、休む事とした。明日も早くにギルドへ行こう。


 父の足取りを追うためにも、功績を挙げてランクを上げなくては。より深い未踏は地域に踏み入るために必要な事だ。


 ベッドに入り眠ろうとしたときに、ふいにカルナが声をかけてきた。



「なあ、レーン」


「ん?」


「レーン、キミはやっぱり魔王を、魔人族を悪いものだと思うだろう?」



 レーンはその言葉に思わず体を起こした。急に何を言い出すんだ?



「いやなに、今の時代に伝わる歴史については吾輩も少しは読み知ったからね。あれでは魔王は悪者で当然だ。だが……いや」


「ちょっとまってカルナ!」



 レーンが慌てて話を止め、カルナを見る



「ちょっとちょっと、どうしたんだよ急に。もしかしてさっきの事か? 僕が誤魔化そうとしたから気にしているのか?」


「ふふん、まあね。いや、キミが随分吾輩に……気を揉んでいるようだからさ。だから、吾輩も身分は隠そう。迷惑はかけない。それを改めて言っておこうと思ってね」



 カルナを見ればシーツを口元まで被って天井を眺めていた。


 目元しか見えないその表情は細やかにうかがい知ることができない。



「いや、僕は別にそんな……」


「隠さなくていい。いいんだよレーン。吾輩は魔人族の王。だが、君が望むのなら謎の美少女でいるさ」



 レーンの言葉を切る様にカルナは優しい声色で言う。


 そんな、そんな寂しそうな声色で優しいことを言うものだから。レーンは胸に突っかかりを覚えてしまう。



「……なんだよもう……何も教えてくれないのに……」


「それでいいのさ。吾輩はレーンの使い魔だからね。……おやすみ、我が主」



 カルナはレーンに背を向けるように体の向きを変えると、押し黙った。


 レーンはしばらくカルナの背を見ていたが、話す気がもうないと悟るともやもやした気持ちのままベッドに潜った。



(なんで急に……いや……違う。これは、僕のせいだ。僕が、曖昧なままだから……)



 レーンはシーツを頭まで被ると、枕を覆うシーツを握りしめた。


 ……彼女は味方だ。だからこそ、自分も向き合い方は固めねばならない。


 レーンはそう思案しつつも、ぐるぐるとした思考の中で眠りに落ちていく。



 そして……レーンは、ナコにベッドの柵を付けてもらうよう頼み忘れたことを後悔するのだった。


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