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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
22/47

第22話.初報酬と注目

 




 シーカーズギルドに帰還したレーン達は、まず自分たちのクエストの報告を行っていた。


 ラドが抱えた籠一杯の薬草を見て、セナナが少しだけ目を見開いた……ように見えた。



「凄いね。量も種類も」


「へっへー! 俺たちにかかればちょろいのなんの、だぜ!」



 ラドが得意げに鼻先をこするが、レーンの持つ手帳のおかげなのは言うまでもない。



「初めてのクエスト、お疲れ様。報酬、勘定するから待っていて」



 セナナが籠を一度奥へ運びこんで精査をしている間、レーン達は待つこととなった。


 ギルドに置かれているテーブルに一度荷物を置いたレーンは周囲を見回す。


 時刻は夕方も過ぎている。多くのシーカーがその日のクエストの達成報告にやってきており、人の数はとても多い。


 カルナは案の定といった具合にレーンの影に入っている。



「今回はレーンが持ってきた親父さんの手帳のおかげで大収穫……とはいえ、俺が昼寝しちまってる間にえらいことになってたんだなあ」


「大分びっくりしたけど、なんとかなったよ。カルナのおかげでね」


「俺もカルナが蹴っ飛ばすとこ見たかったなー!」


「なんでさ?」



 レーンが聞くと、ラドはレーンの影をちらりと見た後にレーンに寄ると、小声で耳打ちをする。



「……だってよ、あの服装で蹴り上げたんだろ……? そんなもんお前……見えるだろ」


「何がだよ?」


「おぱんつだよ……!」



 ラドがにやにやしながら言う。レーンは顔を真っ赤にして椅子から立つと、キッとラドを睨んだ。



「ラド! このスケベ!」


「んなっはははは! その通りだぜ!」



 ラドが笑う。


 と、そこへやってくる二人の影。



「やあ、楽しそうですね」


「元気があっていいわね!」



 見るとフランタックとユルネアがレーン達に手を振りながら声をかけたのだった。



「レーンくん……でしたよね。これを受け取ってください」



 フランタックはそういうとレーン達のテーブルに革袋を置く。


 革袋が置かれた時にじゃらりとした重々しい硬貨の音がしたことから、相当な量の金銭が詰められているという事を察する。


 レーンは慌ててフランタックに手を振る。



「いえ、受け取れませんよこんな! そもそも、どうして……!」


「どうして、とはまた」


「レーン坊ちゃんは遠慮しいだねえ」



 フランタックとユルネアは二人して笑った。



「先ほど我々のクエストの成果報告をしました。そしてついでに、突然現れた大樹イノシシ討伐分でだいぶ報酬が上乗せされまして」


「大樹イノシシ討伐分の報酬は、半分をあんたたちに渡してやってくれって言うレバンのお願いでね。おとなしく受け取ってやって」


「そ、そうだとしても……」



 尚も受け取り渋るレーンにフランタックが苦笑する。



「正当な仕事には正当な対価。それがシーカーという物です。受け取るのも仕事、と言えるでしょう。最も、これに関してはレバンの信条という事にはなりますが」



 フランタックの言葉に、レーンは少し考えた後口を開いた。



「わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」



 ここで突っ返すのも礼節を欠くだろうし、好意を以て送られたものなのだからとレーンは受け取ることに決める。


 先輩との付き合いも広げておきたいという打算的な考えもなくはなかったが、受け取り渋った理由が理由であったから、ここは黙って受け取るべきだと思ったのだ。


 つまりは、レーンはカルナこそが功労者であり、自分は大したことをしていないという負い目を持っていた。


 とはいえ周りから見ればカルナは使い魔であり、術士のレーンこそ功績者なのだ。レーンが賞賛されるのも無理なき事ではある。


 レーンの受け取るというその言葉を聞いたフランタックとユルネアはうんうんと頷いた。



「よしよし。突っ返されたらどうしようって思ったよ。レバンの奴も安心するだろうさ」



 ユルネアが笑う。



「レバンさんは?」


「ああ、あいつは病院に放り込んできたよ。体のあちこちを結構やられてたからね。ま、おかげであたしは軽傷で済んだんだけどさ」


「彼はよく無茶をして病院に担ぎ込まれるので心配は無用ですよ」


「あ、あはは……」



 苦笑するレーン。


 どうせなら見舞いにでも行くべきかと思ったが、フランタックが必要ないと笑う。どうせすぐ元気になるからと。



「そういえば、しっかりと自己紹介はしていませんでした。私はフランタック。ジョブはお分かりの通り、レーン君と同じ〈召喚士(サモナー)〉です」


「あたしはユルネア。ジョブは〈魔導士(ソーサラー)〉よ。得意なのは火と水の属性魔術。よろしくね」



 二人が名乗る。その胸にはレバンと同じ金の記章。


 レーンは改めて大先輩に向き直る。



「僕はレーン。改めて……〈召喚士(サモナー)〉です。そして彼が……」


「俺はラドっす! ジョブは〈重装剣士(ガーディアン)〉っす! レーンとは幼馴染で、親友っす! 宜しくお願いします、ユルネア姐さん!」



 ラドが露骨にユルネアに元気よく挨拶をするもので、レーンは眉間に指をあてた。


 ラドの熱烈なアピールに、ユルネアは大人の余裕なのかウィンクで応えた。そんなことをしたものだからラドは目をハート形にして鼻の下を伸ばしている。


 と、そこへルリリとセナナがやってくる。ノララは……受付であわただしく仕事をしていた。


 セナナがレーンに革袋を手渡す。



「精査、終わった。いい仕事したね。報酬、いっぱい」


「わ、ありがとうございます。こんなにたくさん……!」



 レーンが受け取った革袋は、フランタックから受け取ったものよりは大分軽いが、それでも十分な大金だった。


 自分たちで稼いだ初めてのお金に目を輝かせるレーンを見て、セナナがふんすと鼻を鳴らした。誉めてくれているのだろうか。



「それより聞いたよ! 大樹イノシシを倒したのはレーンたちだって?」



 と、ルリリがテーブルに身を乗り出して目をキラキラさせながら言う。



「フランタック達……ああ、レバンのパーティは結構有名でね、もう噂が立ってるよ! すごいルーキーがレバンパーティを助けて大樹イノシシをぶっ倒したってさ!」


「レバン、吹聴しまくり」


「うええ……?」



 ルリリとセナナの発言に困惑するレーン。助けたのは自分ではないのに持ち上げられる負い目がどんどん膨らむ。


 大樹イノシシと言えば実際、金章シーカーのパーティが討伐に当たる魔物である。そして先の個体は、金章シーカーであるレバンのパーティをあわや壊滅させんばかりの特異個体中の特異個体だった。


 そんな怪物がオルフェオン近郊に出現したことは大事であり、レバンらの発見とレーン達の対処の甲斐あって未然に被害を防げたというわけだ。


 事もあろうに大樹イノシシを仕留めたのがシーカーになりたての銅章シーカーとあっては、話に聞けば瞬く間に広まるような一大事。


 そして噂好きと名高い件の金章シーカー、レバンが病院に運び込まれる間にもそこらじゅうで吹聴していたというのだからシーカーの間ではもうその話でもちきりなのだという。


 と、ルリリ達の話声を聞きつけたか周囲のシーカーたちもざわつき始める。



「聞いたか? あそこの連中がレバンを救ったとかいう……」


「銅章じゃないの! それで大樹イノシシを?」


「なんでも召喚士がすげーらしいが……あそこの男? 女? じゃないか?」



 がやがやと話声はギルド全体に広がり、だんだんとレーンの席の周りに集まってくる。


 そして口々に、「出身は?」だの「ジョブは?」だの「好きな食べ物は?」だの「性別は?」だの聞いてくるものでレーンは目を回す。


 あわあわと困惑するレーンとなんだか誇らしげなラドに、フランタックがため息を漏らす。



「すみませんね、レバンのやつがそこかしこで話をするもので……」


「聞いたわよ。あんたたち、昨日シーカーになったばかりなんでしょ? 早くも期待のルーキーってわけね!」


「そ、それはどうも……」



 そこへ受付業務をひと段落させたノララもやってくると、テーブルにたどり着くなり突っ伏してぐでっと溶けた。



「ふあうあ~。終わりましたあ……レーンさん、遅れましたがお疲れ様ですう~」


「ああ、ノララさんもお疲れのようで……」



 ちらりとルリリを見やると同情の余地なしと目で語っている。またなにかやったのだろうか……。



「それにしてもレーンさん、召喚士だとは聞いていましたが使い魔もすごかったんですねえ~」


「そ、そう……使い魔が……」



 と、困り果てたレーンが絶妙な表情で俯き、自分の影をちらちら見ていると呼応するようにカルナが姿を現した。



「なんだレーン、随分な騒ぎじゃないか。何をしたんだい?」


「僕は何もしてないっていうか、君も関係者だぞ!」



 目をぱちくりさせるカルナ。


 そんなカルナの様子を他所に、周囲の一同がざわめく。


 突然レーンの影の中から美少女が現れたのだ。帰り道で一度見ているフランタックとユルネア以外は全員が声を上げて驚いた。



「何今の、影から人が、飛び出たよ……!?」


「はうあああ~!? び、びっくりしたです~!」



 セナナとノララが驚きの声を上げてカルナを見る。カルナは完全に影から姿を現し、何食わぬ顔でレーンに並び立つと周囲をきょろりと見渡す。



「驚いた……フランタック達から話だけは聞いていたけど、彼女がレーンの使い魔なんだね?」



 ルリリも驚いた様子だが既に話はフランタックあたりから行っていたらしく、成程これがといった様子でいた。


 となれば正直に言ってしまおう。



「はい……えっと、彼女はカルナ。僕と契約している使い魔、です」



 その発言にギルド内でおおーっという声。



「彼女は少し、普通と違うっていうか……」


「真人族にしか見えないぞ。あの尖った耳はちょっと変わってるけど」


「精霊に、見えないけれど、種族なに」



 セナナが疑問符を浮かべる。その言葉にカルナはにまーっと笑った。


 その表情に流されるままに言葉を紡いでいたレーンの脳裏に警鐘が鳴る。



(はっ……マズい……ここでまた『吾輩は魔王である!』なんて言い出したら余計な注目と混乱を生みかねない……!)



 カルナがあの表情をしたときは大抵ろくなことにならない、そんな気がする。


 レーンは急ぎカルナに接近し小声で耳打ちをする。



「カルナ……! あの、魔王とかっていうの、あんまり言わないほうがいいからね! 魔人族っていうのも控えて! ここは僕がなんとか誤魔化すから……」



 なんとか種族についてはぼかして使い魔であるという事だけカミングアウトする。意外とカルナについて驚きはするものの使い魔という点においては受け入れられてきたのでなんとかなるはず。


 そうレーンが思案を巡らせていると、カルナが安心したまえと言った風にレーンにウィンクをする。



「ああ、心配するなよ我が主。ちゃあんと、弁えているよ」



 その言葉にレーンが安心したのもつかの間。彼女は急にジャンプするとレーン達のテーブルの上に着地。ぐるりと周囲の人だかりを見回すと、両手を広げる。


 そしてカルナはふふん!と笑った後に言い放つ。



「吾輩は……()()()()()使()()()、だよ!」


「ま”ッ!?」



 瞬間、シーカーズギルドに会していた一同が一斉にカルナに顔を向け一様に目を丸くした。ルリリ、セナナ、ノララも3人そろって同じ顔だ。レーンとラドは凍り付いたように、胸を張って妙ちくりんなポージングを決めるカルナを見る。


 謎て。美少女て。いやどちらも嘘ではないのだが。



「ちょっとカルナ!? 聞いてたよね!? 僕が説明するって言ったじゃないかあ!」


「謎の、美少女使い魔……? あ、あの……」


「あわあわ……ノララさんすみません聞かなかったことにして下さい!」



 レーンは頭を抱え悶える。


 ああ、周囲の視線が痛い。周りにいたシーカー達なんかは口々にレーン達について話し始める。


 間違いなく変なやつ、もしくは面白いやつを見る目で一行を眺めながら話題を膨らませていく面々にレーンは眩暈を覚えた。


 元来目立つことには慣れていないのだ。養成学校時代一人でいることが多かったのは何も周囲からいびられていたからだけではない。


 レーンは冷や汗だらだらで必死に事態の鎮静化を試み、身振り手振りでカルナの発言を撤回しようとするが、とはいえ代わりにどう説明するかという思案もイリーガルな事態に完全に抜け落ちていて、あわあわとするだけの滑稽な姿を曝していた。


 隣でラドは必死に口を押えている。笑いをこらえているんだろう。薄情者め!


 カルナはカルナでざわつく周囲の面々をお立ち台と化したテーブルの上から見下ろしながら満足げに笑う。



「なんだかよくわからんが、すごいことは分かった」


「大樹イノシシを二発でのせる使い魔が? こんなかわいい子なのか? 俺も召喚士になりたかった……」


「好きだ……」


「俺の使い魔はいかついノームだってのに……」


「銅章のスーパールーキーに美少女使い魔とは……すごいのがシーカーになったもんだ」


「好きだ……」



 周りが口々に声を上げる。


 そのほとんどはだんだんと賞賛の声になっていき、シーカーズギルドは一躍大騒ぎとなる。


 カルナは笑いながらテーブルの上で踊る様に腕を振っているし、ラドはどさくさに紛れて女性にナンパを始めている。


 思考を放棄したレーンはテーブルに頭を突っ伏し、フランタックとユルネアが送る同情の視線を受けながら喧騒に飲まれていった。





 ♢






 喧騒から離れ受付に戻った3人は、カウンターの裏でレーン達を中心に集まり騒いでいる人だかりを眺めながら小声で話し合っていた。



「ルリリちゃん、セナナちゃん……レーンさんの使い魔、やっぱり……」



 ノララの言葉にセナナは頷く。



「帝政ヴァンドールの養成学校から受けた連絡。半信半疑だった」


「でも大樹イノシシを簡単に倒したっていうからね。信じるしかないわ。今年の卒業生にすごいのがいるって連絡を受けていたからマークしてたし、色々調べもしたけど……」



 ルリリはそこで一拍置いた。そして思い耽るような眼をしつつぽつりと語る。



「魔王を名乗る強大な使い魔……そしてその使い魔と契約している青年……まさかあの人の息子だなんてね」


「因果。ギルドマスターへの報告、要る?」


「うーん、マスターの事だからもう知ってそうだけど……どうせもう()()()()()()()んじゃない?」


「ありえますぅ~」


「同意」


「うん。だからマスターが表立って動くまではあたしらも様子見」



 ルリリは改めて喧騒の渦中であわあわしているレーン。そして笑いながらはしゃぐカルナを順繰りに見やる。



「魔王、か。本当にせよそうじゃないにせよ……レーン、これから大変だろうね」




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