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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第1章:養成学校編
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第2話.授業にて





「‥‥‥であるように、真人族と天人族が主導となった各国の連合軍により、魔王は倒され、魔人族は辺境へ追放された。この100年前の戦争は魔人戦役と呼ばれており、以降魔人族は忌むべき種族として人類の権利をはく奪され、魔物として扱われるようになった。以来世の中から隠れ住むように‥‥‥」



 ひげを蓄えた壮年の教師が教科書を片手に黙々と語る。


 今は座学の授業だ。


 歴史を含む基礎的な内容だが、定期的に反復授業が催される。反復に関しては必修ではないので、一度修めたら受ける必要はないため、あまり出席率はよくない。


 現に教室内はそこそこ閑散かんさんとしている。


 レーンは、何度も聞いたこの基礎的な授業ではあったが、欠かさず出席していた。というのも、前述の理由で召喚士としては評価が低いため、少しでも別の部門で力をつけ、評価されねばならないためであった。



「‥‥‥では、エトセトラの浮上は何年前かね。あー、キミ。答えなさい」



 レーンの斜め前にいた女子生徒があてられ、不安げな顔で立ち上がるとたどたどしく答える。



「え、えっと‥‥‥34年前です」



「そうだ。知っての通り、世界最大にして未曽有の人類未踏破地区であるエトセトラは、34年前に突如として大海洋に浮上した大陸・・である」



 新大陸エトセトラ。


 これまで世界に在った人類未踏破地域とは比べ物にならない規模の、人類未踏破大陸。


 その浮上は34年前の人類を大いに驚かせたという。



「エトセトラを調査したところ、旧時代文明の遺跡なども見つかったことから、まさしく旧文明の住んでいた大陸そのものであると考えられている。であるから――――」



 まるで海底に沈んでいたのがウソであったかのように、エトセトラは”生きていた”。


 その完成された生態系はなん百年も前から地上に存在していたかのような様相であったという。まるで海の底に沈んでいたようには見えなかったらしい。


 何らかの魔術的なものが働いていたのかもしれないとされるが、すべて憶測だ。調査の足が入り34年たった今でも、エトセトラの全容は謎に包まれたまま。


 だからこそ、今自分たちが目指しているシーカーというものの存在があり、それが未知の解明への希望でもある。



(シーカー‥‥‥シーカーか‥‥‥国家連合公認冒険者で、エトセトラにおける未踏破地域を探索する事ができる唯一の存在。この学校の卒業で国際組織のシーカー連盟に認められれば、晴れてエトセトラ入り‥‥‥かぁ)




「‥‥‥ではえーと、キミ。レーン君。シーカーについて、説明を」



 レーンが指名される。ぼうっとしていたのもあり、一瞬遅れて返事をしてしまう。


 教室からクスクスと笑い声。気恥ずかしさを覚えつついそいそと立ち上がり、述べる。



「はい。シーカーは国際連盟組織であり、また同組織において従事する冒険者の事です。シーカー連盟より効率的なエトセトラの探索と、個人等による無法なエトセトラの探索において起きうる衝突や事故を防ぐために、冒険者を管理する目的で設立されました」



 エトセトラから持ち帰られる物品は希少にして大きな価値を持つ。


 各国がそれを他国より先に欲しがるのは当然であり、また個人にあっても古来より存在したトレジャーハンターなる冒険者は生計をたてる為、また冒険心を満たすためなど様々な理由で足を踏み入れた。


 だがそれはエトセトラという資源の取り合いに他ならない訳で。送り込んだ冒険者同士の衝突から国家間戦争にまで発展しそうになったこともある。


 国家冒険者でない野良の冒険者においても無謀な探索で命を落としたり、横取り等の冒険者間の戦闘も発生した。


 それを防ぐべく設立されたシーカー連盟の規定に従い、各国から選りすぐりの冒険者が選ばれ、シーカーとしてエトセトラに入ることを許された。シーカーはすべて連盟のギルド管理化に置かれ、国家の垣根すら超えた職業として根付いたのだ。



「うん、よろしい。やはりレーン君は優秀だな」



 レーンがひとしきり説明を終えると髭の教師はうんうんと頷き、自慢の髭を3度撫でた。


 レーンへの評価は召喚術に関しては無きに等しいが、座学や魔術的な部門では決して低くない。むしろ、高かった。


 実際のところ座学、魔術の成績はほぼ首席だ。これはひとえに召喚術を使うことができないからには他を伸ばすしかないと考えた故の努力の結果であったが、親の肩書きだけで一番大事なものが欠けた首席などを教員たちが可愛がれば、反感を持つ者も少なくはなかった。


 レーンは褒めの言葉に小さくありがとうございますとだけ言って座ろうとする。そして背中に小さな衝撃を感じて振り返れば、にやにやと笑うウェルビン達と目が合った。


 意外なことに、ウェルビンもこの反復授業には必ず出席している。そして普段同様に必ずちょっかいをかけてくるのだ。


 足元を見れば丸められた紙くずが落ちている。投げつけられたらしい。拾えというウェルビンのジェスチャーにムッとしつつ拾い上げ中を見てみるとそこには『よくできました、えこひいき野郎』と書かれていた。


 レーンはじろりとウェルビンを見るが彼らはどこ吹く風で笑うばかり。



「君たち召喚士のたまご達も、卒業を迎えれば晴れてシーカーだ。エトセトラにて活動するために、ギルドで別のジョブのシーカーとパーティーを組んで、エトセトラを探索するだろう。そして、シーカーとしての仕事は大別して二つ。あー、ウェルビン君」



 ウェルビンはレーンを一瞥して立ち上がる。


 レーンは気づかないふりをして座ると教科書に目を落とす。


 無視されたからかウェルビンは舌打ちをしてから答え始めた。



「……はい。一つはエトセトラにおける旧文明の遺産を含む資源や物品の回収と納品。そしてもう一つは探索による人類踏破地域の開拓。古くにおけるトレジャーハンターと呼ばれた者たちとそう差異はありません」


「そうだな。それがシーカーの仕事だ。これを逸脱した行為はすべて禁じられている。他のシーカーを襲い成果を奪う事は勿論、回収した遺物や資源の横領も禁止だ。装備品に関してはシーカーの戦利品として与えられる事が多いのは知っての通りだが、気を付けるように。」



 資源や遺物を入手し、ギルドに納品しないで私物化することは禁じられており、発覚した場合は罰せられ評価が下がる。


 評価というのはシーカーのランクのようなものの判断値であり、一定の評価を得るとランクが上がる。


 自分たち駆けだしはシーカーになった場合、銅章を与えられるだろう。功績をあげて評価を得れば、銀、金と上がり、最終的には白金章を胸に頂くこととなり、それは大変名誉であるから皆が憧れる頂だ。


 無論レーンも例外ではない。エトセトラに感じるロマンにはいつだって胸を躍らされる。


 そしてそんな地で胸に白金章を輝かせる白金級シーカーはレーン究極の目標であった。


 レーンがシーカーへの憧れに思いを馳せているとやがて授業が終了のチャイムが鳴る。これで今日の授業はすべて終了だ。


 ウェルビンの視線を感じたが、レーンは荷物をまとめて、すぐに教室を出た。これ以上突っかかられるのは御免だ。


 足早に廊下を歩いていると、道行く生徒たちはレーンを見て口々に陰口を言い始めた。



「ねえ、あれでしょ? 白金章の……」


「親がな……あいつはそれを笠に着てるだけの落ちこぼれだよ」


「使い魔も持たない召喚士が、俺たちと同じ授業を受けて何になるんだ。面汚しめ……」


「だからアイツ、召喚術の授業は受けさせてもらえないらしいわよ。見学くらいしていけばマシなのに」


「見学したところで惨めなだけだけどな。下級精霊とすら契約できないのではね!」



 レーンはわざと聞こえているように言われているそれらの陰口をすべて無視し、足早に歩く。


 その姿すら滑稽に仕立て上げたいのか、生徒たちは皆レーンを見てくすくすと笑う。



(無視、無視しろ僕。慣れたものだろう)



 養成学校に入学して3年目。レーンは初年度の半ばごろからはずっとこの調子でいびられ続けていた。


 と、レーンの背中を誰かが押した。


 ふらついて転びそうになるが何とか姿勢を正し、後ろを振り返るとニヤニヤと笑うウェルビン。


 周りには取り巻きが数名侍っている。


 追いかけて来たのか。



「つれないじゃないかレーン。俺を置いて帰ろうだなんて」


「……知らないよ。放っておいてよ」



 レーンの冷たい返答にウェルビンが大げさに悲しげな顔を見せる。



「おいおい……俺は悲しいよ。このウェルビンが寂しげに歩くお前の惨めで無様な背中に声をかけてやったというのに」


「そうだ、生意気だぞ? 落ちこぼれのレーン君よう!」


「ウェルビン様がアンタみたいな愚図にもお情けで声を掛けてやっているのにその態度はないんじゃないかしら?」



 取り巻きが口々に言い始める。まるで知ったことではない。そっちが勝手に絡んできているだけじゃないかとレーンは思う。


 怪訝な顔のレーンに構わずウェルビンはレーンの横にぴったりとつくと、延々とぐちぐちレーンのアレがダメだここが劣るといった悪辣な高説を述べた。


 道行く生徒達もウェルビン達が近づくと道を開け、離れていく。腐っても名家の坊ちゃんであるから、ヘタに関わって目を付けられないためだ。


 レーンは隣を歩くウェルビンを無視する事に努めた。その度に無視されることに腹を立てたウェルビンの嫌味がエスカレートする。


 結局ウェルビン達は養成学校の正門までぴったりとくっついて嫌味を述べ続けたのち、去っていった。



 もうずっとこんな調子なのだ。


 レーンは大きなため息をつくと、やっと帰路につくのだった。



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