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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
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第15話.オルフェオンに立つ

 




 船がオルフェオンに入港したのはちょうど正午だった。


 乗員達が列を作り、荷物を降ろしながら続々とオルフェオンに降り立つ。


 レーン一行も荷物を抱え、浮かれた気持ちを必死で抑えながら船を降りた。



「ついに来たね、エトセトラの玄関口‥‥‥オルフェオンに!」


「成程。空気の味が違うね。ふふ、心踊るよ」


「っへへ! まさしく俺たちの冒険の始まりの街ってわけだ!」



 あたりをきょろきょろと見まわすレーンとラド。目に映る全部が珍しい。


 なんという活気だろうか。そこかしこから人の声が聞こえてくる。


 レーン達を乗せた船が入港するに際して、見物人も大勢港に集まっていたというのもあろうか。多くの人だかりが入港した船を囲んでいた。



「おいレーン、すげえな! っはは、賑やかすぎるだろ! いろんな種族の人が集まってるぜ! 半端ねえな!」


「本当だね‥‥‥ハイゼリンは僕らみたいな真人族の街だったから実際に見るのは初めてだよ」



 視線の先には真人族に混じって獣の特徴を備える様々な獣人族や、体にヒレを持つ魚人族がおり、空を見上げれば鳥人族が荷物の配達に飛び交う。映写の魔道具で空から写真を撮っている、記者のような恰好の者も。


 ――――世界には、様々な種族の人々が存在している。世界を生み出したとされる72の神々が、各々の加護を与えた種族を創造したと創世神話で語られている。


 そういった種族は大まかな括りで真人族、獣人族、魚人族等と呼ばれているが、細かく種族を分ければそれこそ72もの数に至るだろう。


 そんな種族がここエトセトラの街オルフェオンでは、一同に会し生活していた。世界有数の多種族の集まる街というわけだ。


 レーンとラドは目を輝かせながら様々な種族が闊歩する有様に好奇心を擽られていた。


 カルナも首を回し、周囲の賑わいを珍しそうに眺める。



「なるほど、随分いろんな種族が同じ街で暮らしているのだね。正直驚きだ」


「あ、カルナもやっぱり驚くんだね」


「それはもう。目移りするほどだよ。これほど異種族間で仲睦まじいのは見ていて楽しいものだ」


「そっか‥‥‥」



 レーンは純粋に楽し気に見えるカルナの発した言葉に、元気よく答えることはできなかった。


 彼女は魔人族。今や人ではなく魔物扱いされる種族なのだから。といっても、魔人族というのが本当かどうかはレーンには未だはっきりと定かではないが……本人が言うのであるからどうしても気にしてしまう。


 そんなレーンの気遣いを知ってか知らずか、カルナはレーンの持っていた荷物をぱっと奪い取る。



「ちょっとカルナ!? 重いから僕が持つって言ったじゃないか!」


「こんなに楽しい場所にいるのに表情に陰りが見えたもので。荷物を持ち疲れたのかと思ってさ。レーンは体が細いから大変だろうし吾輩が持ってあげよう」


「細いって、君に言われたくないよ! 僕が持つから返して欲しい!」


「嫌だよ」


「なんでさ! 持つよ!」


「いーやーだ」


「おいおーい、俺を放ってイチャコラすんなガチ泣くぞ。ったくよー‥‥‥そろそろシーカーズギルドに行こうぜ。さっさと登録しねーと、寝床に困るんだからな」



 ラドが目を細めてレーンを睨みながら言う。


 しかし言う事はもっともだ。観光気分は消せたものではないが、シーカーになるべくしてこの地にやってきたのだから。


 レーンはしぶしぶ持っていた荷物の半分をカルナに奪われたまま、ラドの言葉に了承した。


 カルナが勝ったぞ、みたいな顔で見てくるのに少しムッとしたが気合で耐え、レーン達はオルフェオンの街中を歩き始める。


 周囲でもシーカー養成所からの面々が思い思いに歩き始めたのが見えた。そのあとに続くようにレーン達もあるくが、人通りの多さと周囲への興味であっという間に出遅れてしまう。


 しかしてラドが自信満々に取り出したのはオルフェオンのパンフレット。いつの間にかもらっていたらしい。


 パンフレットを広げながら歩くラドが先導し、談笑しつつシーカーズギルドを目指した……のだが。



「港だけじゃなくて街もすごい賑わいだ。エトセトラにこんなに人がいるなんてイメージできなかったからなあ」


「そうだね。違う世界に来たみたいでわくわくしちゃうよ!」


人気ひとけがなくなってきたね」


「やりたいことがいっぱいあるな! クエストで知らない場所に行ってみるのもいいしな!」


「買い物もいいね! オルフェオンは世界最大の交易都市でもあるし!」


「この道さっきも通らなかったかい?」


「お、んでここが――――」



 ラドが足を止め、周囲を見やる。



「……わからん」


「ちょっと!?」


「やれやれ」



 ラドがワハハと笑って誤魔化す。


 有体に言えば迷った、というわけだ。



「だって広すぎるし複雑なんだよこの町!」


「あんなに自信満々に先導してたじゃないか!」


「いや、それは……途中までいい感じだったんだがよ……」


「パンフレットを眺めながら迷う事ができるのは君くらいじゃないかな? 誇るといい」


「だぁー! 大丈夫だって! 人の住んでる町なんだ、歩いてりゃそのうちつくだろ!」


「いやちょっと! 早くいかないと受付が! 間に合わなかったら今日寝るとこがなくなっちゃうよ! さっき自分で言ってたじゃないかあ!」



 シーカーズギルドには14時までに行くようにと念を押されている。どうやらシーカー登録他正規シーカー向け以外の受付は14時で閉まってしまうらしい。


 シーカー登録が出来なければオルフェオンで貸し与えられる予定の借り宿に入れない。おとなしく金銭を支払えば宿には泊まれるだろうが、使わなくても済む金をわざわざ使うのはレーンの望まぬことだった。


 レーンが慌ててラドからパンフレットを奪い取り、眺めてみるが現在位置がわからないのでまるで地図が意味を為さない。大分裏の道に入ってしまったのか周囲に目印になりそうなものもない。



「よしレーン。吾輩は休む。目的地に着いたら声をかけてくれたまえ」



 と、カルナが伸びをした後レーンの影に引っ込んだ。



「あ、ずるいぞ! 自分だけ歩かないつもりだろ!」



 ラドがレーンの影をバシバシと叩く。もちろん反応はない。カルナはどうやら路頭に迷うのが面倒になったらしく到着までは影に引きこもるつもりらしい。ずるい。



「ラド、とりあえず一回来た道を戻ってみよう。大通りに出られれば人に道を聞けるし」


「あ、ああ……そうだな」



 と、話していたレーンの背中に何かが勢い良くぶつかって来た。



「ぅわッ!?」


「おい!?」



 レーンは前に大きくつんのめり、あわや転倒といった所で踏みとどまる。しかし、腕に抱えた荷物からいくつかが転がり落ちてしまった。


 レーンがそれに気づくより早く、背後で悲鳴のような声が上がる。



「ぴゃあああ! すすすすみません~! 前を見ていませんでした~!」



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