表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第1章:養成学校編
14/47

第14話.出立





「あはははっ! すごいな! この船というものは!」



 養成所の卒業試験から一週間。


 レーン、ラド。そしてカルナは船上にいた。


 まばゆい日差しと潮の音。ヴァンドールの港街ドルマを立ち暫く経つ。


 世界最大の海洋を進む一行は、紛れもなく浮かれていた。


 船のデッキから身を乗り出し、潮波のきらめきと、時折海面に姿を見せる飛翔魚フライフィッシュの群れに目を輝かせるカルナ。


 レーンとラドも、船上から眺める遥かなる地平線までの一面の青い海原に高揚を隠せないでいた。



「こうして船に乗るのは初めてだけど、潮風が気持ちいい!」


「ああ! それにこの広い海原! くぅーっ! 壮大な景色が冒険心を擽ってくれるぜぇ!」



 はしゃぐ二人。ラドは船上飯の串焼き肉を両手に持ちながら滾る熱情にうずうずしているようだ。


 レーンも時折望遠鏡で海原を眺め、時折声を上げて新鮮な景色を楽しんでいる。



「こんな体験、なかなかないからね! エトセトラに着いたらずっと陸地だろうし、目に焼き付けておかなきゃ……!」


「映写の魔道具を持ってくるんだったな! この景色を形に残しておきゃよかったぜ」



 使用者が今見ている景色を紙に念写するという魔道具だが、確かに持ってくればよかったとレーンは後悔する。


 現地へ着いたら手に入れられるだろうか。今後の旅に備えてぜひ手に入れておきたい。



 船に並行して飛ぶ海鳥に合わせて両腕を広げてデッキを踊る様に走り回っていたカルナが二人の元へ戻ってくる。



「驚いたよ! まさかこんなものに乗ってエトセトラへ向かうとはね!」


「エトセトラへ向かうには海路が一般的だからな。空路もなくはないが、ヴァンドールから出る便は大体はお偉いさん向けだ。ウェルビンなんかは飛空艇で行ってるんじゃねーか? ま、俺たち庶民は船で海を渡ってオルフェオンに行くってわけだな」


「吾輩は船で良かったと思っているよ。とても気に入った! この程良い揺れと潮風の心地よさが好きだ! レーンもそう思わないか?」


「そうだね。景色もいいし、海の上っていうだけでわくわくするよ!」



 船など、レーンも乗るのは初めてであったから、カルナに負けず劣らず浮かれていた。


 にこにこと笑うレーンに満足げに頷いた後、カルナは問うた。



「そういえば、オルフェオン……というのは、街かい?」」



 レーンが目をキラキラさせて答える



「そう。オルフェオンはエトセトラの玄関である巨大な港町なんだ。いろんな国から人が集まる、繁華街なんだって!」


「なるほど、ではそこが拠点となるわけだね。しかし繁華街とは……人も多く暮らしているのだろう。てっきりシーカーにならねばエトセトラには入れないものと思っていたが」


「未踏破地域に入るのが、シーカーじゃないと無理なんだよ。もっとも、オルフェオンだって誰でも入れるわけじゃないけどね。大手商人とか、貴族とか。その家族なんかが居ついたのが始まりだったと思う」


「つってもなんだかんだオルフェオンに住む事自体は今の時代言っちまえば誰でもできるが、エトセトラの未知に挑むにはシーカーズギルドの許可がいるからな。クエストっていう形で……まあ、ここらへんは行ったときに分かるだろ!」



 ラドがワハハと笑う。直後に波飛沫を顔に食らって潮の味に表情を崩していた。


 レーンとカルナはそれを見て大きく笑う。


 ラドが笑うな!と両腕を振り上げて怒って見せるが頭に海藻が乗っているのをカルナが指さして、レーンはさらに噴出した。



 そうやってふざけながらも、船での航海を楽しむ3人。


 この航海の果てに在るのはシーカーとしての冒険の幕開け。それはレーンとラドがかつて描いた夢の実現。


 そしてレーンとカルナの約束も果たされる。いや、始まるのだ。




「レーン! カルナ! 見えてきたぞ! ――――オルフェオンだ!」




 ラドが声を上げる。


 レーンとカルナはその声に看板の手すりから身を乗り出して、史上最大の人類未踏破大陸、エトセトラを目にした。


 圧倒的なまでの雄大な大陸に、巨大な港町が視界に映る。


 遠めに見てもわかる活気。賑々(にぎにぎ)しく眩しい程に映る。


 それが、オルフェオンという町だった。


 あそこがこれから自分たちが経験する冒険の拠点となる街であると、その目にして確認すると興奮も最高潮。



「よぉぉっし! 燃えて来たぜええー!!」



 ラドがガッツポーズをして叫ぶ。


 周囲の同乗者が驚いた顔をするが、構わず腕を振り上げる。


 それを見てレーンも一緒になって両腕を上げた。



「俺たちはエトセトラで最高のシーカーになってやる!」


「ああ、そうだね! 目指すは白金章、そしてまだ見ぬ未踏破地域だ!」


「絶対全部見てやるぞぉぉーーー! 待ってろよエトセトラ!!」


「ラド! はしゃぎすぎると海に落ちるよ!」


「レーンこそ!!」



 気合を入れ騒ぐ男二人を他所に、潮風にその銀髪を靡かせるカルナはオルフェオンを眺め静かに微笑む。


 はしゃぎながら、レーンはその姿を横目に見ていた。


 レーンは彼女の横顔に、あの日彼女と交わした約束を思い出していた。


 彼女が何であの部屋にいたのか、どうしてレーンと契約していたのか。父は何かを知っているのだろうか。謎は尽きないが、彼女をエトセトラに連れて行く。そういう約束をした。


 ラドを交えた僕と魔王とエトセトラでの旅路には、何が待ち受けているのか。



(今はそれが……とても楽しみで仕方がないんだ!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ