朝御飯は大切
朝日が横穴に射し込み、自然と目が覚める。
いつもの癖で携帯電話に手を伸ばし、時間を確認する。
5:37
夢オチなーんてことないかな
と、期待していたが、柔らかい布団の上ではなく、硬い石が敷き詰められた場所であることが、俺の淡い希望を粉々にしてくれた。
焚き火はすでに消え、外からは水の流れる音に混じり鳥の鳴き声が聞こえる。
日が高くなる前に、探索をしたい。
ノートを取り出し、今日のTO DOリストを書き出す。
1周囲の探索
①漂流物や人工物の確認
②食料になりそうなものの確認
③俺以外の人類の確認
④危険性物の確認
2食事の作成
①朝食の作成
②昼食の弁当
③夕食の作成と、野菜等の仕込み
3水や火の確保
①薪の収集
②煮沸水の確保
こんなところだろうか。
俺はノートとペンをジーパンの後ろポケットにしまい、焚き火の火起こしから始める。昨日に比べ、短時間で着火させることが出来た。
すき焼き鍋に水を汲みに川辺へ行く。ついでに昨日川の中に作ったL字塞き止め結界にも寄る。
冷やす為に入れておいたビールと鶏肉の回収と、願わくばそのL字の石垣の中に魚が迷いこんでくれていないかと思って。
こんな風に漁をしていたんだと、昔、テレビで見た時に思った記憶がうっすらとあり試してみたんだが。いかんせんうろ覚えだし、魚がいればラッキーくらいの気持ちで作ってみた。
川辺につき、石垣を確認する。
よしよし、石垣は壊れていない。ビールも肉ビニールも流されておらず、昨日と同じ場所にある。
そして、これもまたラッキー、魚がいた。体長10㎝ほどの鮎のような魚が4匹ほど。
どうやって捕まえるか。
網・・・はない。もちろん釣具なんてのもサバイバルツールセットの中にはなかった。
あ、ナイフ!
俺はすぐ横穴に戻り、ナイフを手に取る。それを薪用の木に外した靴紐でくくりつける。簡易槍だ。
戦果、一匹
途中、紐がほどけたり、作ったL字石垣に簡易槍が当たって崩れる等あったが、なんとか一匹ゲットすることが出来た。
よかった。
そのまま川辺で魚を捌く。内蔵は腐りやすい為、すぐ取り出し、川へと流す。小魚達よ、それを食べて立派な成魚になってくれ。
背骨のところからナイフをいれ、開く。俺のイメージはアジの開きのように、乾燥させ保存食にしたいからだ。
何度もトライ&エラーをしないと、うまくいくのか結果がわからない。
横穴へ戻り、昨日の豚肉と同じ要領で、塩をもみこんでから糸に吊るす。
因みに、昨日吊るした豚肉は表面が黒ずみいい感じで乾燥している。一応、生のまま干すのは腐る可能性があったので、塩に漬け込んだ肉を一回湯がいてから干している。
問題は吊るしている糸が重さに負けて、バーちゃんのパンツのようにユルユルに垂れてきていることだ。これは、何か手をうたなくては。
豚肉のゆで汁はビニール袋の中に入れて保存している。
さて、朝御飯作りだ。
昨日仕込んだ鶏肉を、作った木串に刺し、焚き火の回りに刺していく。これも合挽き肉つくねと同じ要領だ。
焼き豆腐も、長方形に切ったあと、木串にさして同様に並べる。豆腐も腐りやすいので、早く食べきらなければならない。
すき焼き鍋・・・もう、すき焼き出来ないから今後は鍋と呼ぶか。鍋に米をいれる。一合くらいか?よくわからん。
米は研がない。俺は一人暮らし初めてからずっと無洗米愛用者だ。
水筒に組んでおいた白湯を入れる。人差し指の第一関節くらいまで。この計り方がこの鍋にも適応するかはわからないが、一応その方法に準じて水を入れる。
『はじめチョロチョロ、中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな』
呪文のようにこの台詞が浮かぶ。
何度もいうが俺はキャンプやBBQが好きではない。が、知識として飯盒炊飯をする際には、この魔法の言葉がまことしやかに囁かれているのは知っている。無論、実践は初めてだが。
焚き火その2に火をつけ、鍋をおく。そして、鍋にセットでついていたガラスの透明な蓋をする。
火の強さの管理なんて出来るわけもない。弱火風になるように薪の量を調整し、あとは様子をみながら薪の調整しよう。
鍋をみつつ、鶏肉をみつつ、薪を集めつつ、只今の時刻7:02
火から鍋を外し、蓋をあける。
あれ?成功じゃね?
ふわっと湯気があがり、あの美味しそうな炭水化物の匂いが横穴中を蹂躙する。
杓文字はないので裏を返すのは、マイ箸セットの中にあるスプーン。フッ素加工なのがよかったのか、焦げもない。やや柔らか目なのが気になるが、これは仕方がない。
5分ほど蓋をして蒸した後、カラの弁当箱にご飯を積めていく。因みに弁当箱は二段式の保温加工ランチジャーだ。
そして、一口、ご飯を口に運ぶ。
うん、炊きたてご飯だ。やはりやや柔らかいが。俺は硬めが好きなのだが贅沢は言ってられない。
そして、鶏肉串も頬張る。
うーん、醤油だけの味付けだが、食べられないわけではない。肉と醤油の味がする。
朝御飯を終え、残ったご飯と鶏肉をランチジャーにうつす。
豚のゆで汁は一度鍋で暖め直したあと、豆腐を賽の目状に切っていれ、塩で味を整えランチジャーのスープ容器の中に。
これで昼御飯の完成だ。
8:02
いつもなら出勤する時間帯だ。こんな場所に来ても、体内リズムは変わらないものなんだな。
リュックの中に食料以外の物品を入れ、探索へ向かうことにした。