肉の加工
4:21
辺りはうっすらと暗くなってきている。そろそろ夕食の支度をしなくては。
今、手元にある食材のなかで、最初に調理をしなくてはならないのはナマモノ、つまり肉だ。
生のままだと、せっかくの食料を台無しにしてしまうので、加工をしてやや長持ちをさせるしかない。
加工か。
浮かぶのは干物とか、漬物とか、燻製くらいしか浮かばない。冷蔵庫や冷凍庫の生活しか知らない俺は、作ったこともなけりゃ試したこともない。
うーん。
戦国時代にタイムスリップした某漫画の主人公は、農民達に、冬は干し肉を作らせていた。確か、塩水を縫って風当たりのいい日陰に干せ、なんてことを言っていた気がする。それなら出来そうな気がするが、問題は『冬』という季節。
今の時期はどの季節に当たるのかわからない。電車に突っ込まれた日は6/3だったが、この場所も同じくらいの気候なのかわからない。体感ではさほど変わらない気もするが。
兎に角、行動あるのみ。
豚肉を取り出し、約2㎝感覚で切り落としていく。
サバイバルツールセットのナイフのお陰だ。
脂肪部分は取り除き、後で油の代わりにしよう。
切り取った肉を並べ、塩を揉んでいく。適量なんて知らないから、そこは適当。
豚肉は少しこれで寝かせておく。
次に鶏肉を一口大に切り、肉パックが入っていたビニール袋の中にいれる。そこに醤油をいれて、これも寝かせる。
最後は合挽き肉。これもビニール袋にいれ、塩を少々し混ぜる。ついでに卵も混ぜる。
これで下拵えはオッケー。
拾ってきた木の表面をナイフで削る。15本くらいだろうか。
横穴の壁の岩がいい感じに対に出っ張っている場所を探し、ソーイングセットの中にあった糸を繋ぐ。
そのあと川へと行き、水の流れを塞き止めるように、川の中の石をL字型になるように積んでいく。反対側の同じように石を積んでいく。やや川面から石が見えるくらいの高さまで。
5:33
削った串状の木に挽き肉をつけていく。焼き鳥のつくねのように。そして、最初に作った焚き火の回りに次々と串を刺していく。
豚バラ肉は一枚ずつ針で糸を通し、先程作った横穴壁にはった糸のところに結んでいく。
パチッパチッと、合挽き肉つくねの刺した焚き火から音がし、なんとも食欲をそそる肉の匂いがしてきた。
こまめに火に当たる部分を変えながら、俺はその音に酔いしれる。音だけで食欲に刺激をされるのは久しぶりだ。
辺りはほとんど暗くなり、聞こえてくるのは川の流れている音と、風の音。火の粉がチリながら、肉の匂いだけがこの空間を謳歌している。
た・・・たまらない。これがBBQの醍醐味なのだろうか?今となってはそんな事よりもこの肉にかぶりつきたい本能で、喉が口腔内がウズウズしている。
待ちきれなくなった俺は川辺に作ったL字の場所へ向かう。
そこには、ビール缶4本と、鶏肉が浸かっているビニール袋があった。その缶をひとつとり、足早に横穴へ戻る。
一歩一歩近寄る度に、食欲をそそる。
俺は地面に座り込み、プルトップに手をかけ、引き抜く。
右手には合挽き肉つくね。
「いただきます」
まずはつくねを恐る恐るかじる。
「うぉ』
直後にビール缶を口に、一口、二口。
「旨い」
至福。これぞ生きている喜び。
合挽きつくねは塩だけの味付けだったが、この疲れている体にはこの塩気こそが最高のご馳走だった。
そして、ビール。
肉体労働の後のビールは堪らなく旨い。
利尿作用があり、こんなサバイバル環境ではマイナスでしかないのだろうが、それでも旨いものは旨い。
作ったつくね10本食べ、いつしか夜はふけていく。
いつの間に、俺は眠りについていた。