ケンカの仲裁
6/8 午前4:52
ここに来てからというもの、体内リズムに合わせて起床していたのだが、今日は違った。
例えるなら、スヌーズ機能のない爆音の目覚まし時計がいきなり鳴り響いた感じだ。
何事だ!?!?
飛び起きる。
気のせいか?
そしてもう一度、今度はしっかり聞き取れた。
イヌ科の声だ。それも、犬同士がケンカしているときに出してるような声。
急いで、ズボンをはき、シャツを着る。靴下・・・は、いらん!すぐ靴を履くと、手に昨夜作った護身用竹槍を持つ。
外にでて、音がする方を見る。
それはこの拠点から5mも離れていないところで繰り広げ荒れていた。
茶色の毛並みをした犬が跳び跳ねながら何かに攻撃しているようだ。その『何か』が犬の攻撃を避けながら、反撃しているのも見えた。
あれは恐らく蛇。全く可愛らしくないサイズの蛇。
ここからでも蛇の胴体が太く、体長が長いのがわかる。
んー、もうケンカするならもう少し違うところでしていただきたい。せっかく拠点作ったのに、壊されでもしたら・・・なんて考えていると、戦況が変わりだした。
犬に蛇が巻き付いているのだ。
あー、こりゃ犬は厳しいかな。固唾を飲んで戦いを見守る。
?なんだあれは。
戦いが繰り広げられている場所よりもやや手前、黒い物体が動いていた。
よく見えない。
少し近寄る。
子犬。2匹の子犬。
そうか、この犬は子供のために身を呈して戦っていたのか。近寄ったことで、犬と蛇の体がよりクリアに見える。
どちらも血だらけ。蛇は尾のところが噛みきられており、骨が剥き出しになっている。犬も前足があらぬ方向に曲がり、今まさに蛇に巻き付かれている。
日本人は判官贔屓の思考に偏った人が多いと聞くが、俺自身は間違いなく判官贔屓だ。
子供を守りたい、だが今は劣勢。親犬が倒された後、子犬達は蛇の餌食になるだろう。「守ってもらったのに、ごめんね」なんて、思いながら喰われてしまうかもしれない。
させない!そんな事、させない!
竹槍を手に走り出す。
タッタッタッタッタッタッ、
蛇まであと2m。体を捻り、両手で持った竹槍を斜め下に向かって突き刺す。躊躇したら負けだ。
竹槍が蛇の胴体を貫通し、地面に刺さる。深く刺さるよう、体重もしっかりとかけて、素早く後方へ下がる。
突然、何者かに脇腹を貫かれた蛇は、グワンと波打つ動きをした。叫びぶことは出来ないが相当痛かったのと、突然の痛み刺激に驚いたのだろう。
犬を締め付けを緩めた。
その瞬間、犬は蛇の喉元に食らい付く。バタバタと蛇の胴体は更に激しく不規則な動きをする。犬は体を振り回されながらも、喉元から離れることなく、食い付いたままだ。
俺は急いで拠点に戻り、竹槍をもう一本持ってくる。
戻ってきた頃には、蛇の動きが大人しくなり、狙いも定めやすくなった。トドメとばかりに蛇の首辺りに竹槍をぶちこむ。
蛇の体が一度、大きく痙攣し、そして動かなくなった。
死んだのかな?
一応、2本目の竹槍も地面に刺さるよう、全体重をのせ、地面に差し込む。
時折、小さく痙攣しているが、どちらにしろ虫の息だろう。
喉元の犬を見る。
血と土まみれ、前足はひしゃげ、すでに下顎呼吸となっていた。もう、長くはないだろう。
犬と目が合う。
『子供達を頼む』
そう、伝えて来ているように感じる。
俺にはこいつの最後を見届けてやるしかできない。
・・・数秒後、虹彩が開き、生気のあった目が無機質な目へと変わる。肺に残されていた最期の空気が、まるでため息でもつくかのように、排出される。
犬は永い眠りについた。
もう、苦しくないな?開ききった目を、そっと閉じてやる。
あの世では、ケンカをせずに仲良く暮らせよ。
そう、思いながら蛇と犬に向かい、目を閉じ、合掌した。