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孤島奮起  作者: つふら
トカゲが現れた
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今。其の四

ガチャガチャっと、ドアが開く。


「ここにいたか、心配したぞ、ルル。」


カップを置き、ルルは振り返り声の主と対峙する。


「平気よ。ホントに心配症なんだから。」


ルルに近ったレビルは、そっとその額に手を触れる。


「まだ熱があるではないか。」


「微熱よ。」


「微熱でも熱は熱である。帰って体を休めねば。」


「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。このタケル茶飲んだら、帰るわよ。」


「そう言ってこの間も高熱を出したではないか。」


そう言って、レビルはルルの頭部を抱き締よせた。


「大丈夫だわ。そんなに心配しないで。」


「お前達、我の前で夫婦の営みをするのは止めて頂きたい。」


「「してない!」」


声を合わせて、まあ、仲の良いことだ。このバカ夫婦め。


タケルが死んだ後、何故かこの二人は契りを結んだ。


人生とはわからないものである。


「それで、話は終わったのであるな?なら、部屋に戻ろうぞルル。」


ルルは我の顔を見、全く仕方ないわねといった表情を浮かべ、椅子から立ち上がる。


「仕事の邪魔したわね。また来るわ。」


そう言って、レビルに支えられながら我の部屋から出ていった。





これが生きたルルと触れあう最後だとは思いもしなかったが。





誰もいなくなった部屋。



筆を手に取り、紙へと視線をむける。


我の原稿。我の本。


本当の意味で完成するのはあと何百年先になるだろう。しかし、長年かけ執筆してきたこの話はもう完成する。


タケル茶を少し口に含み、筆を持つ。


執筆する前の儀式のような習慣。


確か・・・・そう、最後の締めの文章。


ここ数日間、それを悩んでいたが、今ならスッと書ける気がする。








よし。


筆を置き、墨が乾いたのを確認し、書き綴った原稿全てを纏める。


「ふっ、随分と厚くなってしまったな。」


題名をそっと指でなぞる。


これは、奴の物語。


これは、奴と共に生きた者達の最初の物語。




生け贄にされる予定だった女。


廃棄処分されるはずだった女。


殺される寸前だった女。


殺戮から逃げ出した女。


船から落ちた男。


家族を守る男。


家族を支える女。


家族に見守られる男。


違う生き様の、違う人種が、混じりあう。


そして、新しい価値を見出だせるようになったのだ。


事故で死にかけた男の存在によって。


これはその男の話。


奴の生きてきた軌跡の物語だ。




椅子から立ち上がり、窓から外を眺める。


眼下に広がる町並み。


そして、広大な畑。


行き交う人々。


奴の軌跡は、こうやって外を見れば証となって実感することは出来る。


それでも、奴が生きてきた証を史実として残したかった。



『本が読みたいなら、自分で作ってみれば?』



処分されるはずの女の言葉から、数百年。


その言葉を聞いた時。その時から既に我は決意していた。奴を書こう・・・と。


それから奴等の生き様を聞き貯めた。


生まれや幼少期の記憶、趣味や好み、考えを。


それぞれが紡いできた道がどのようにして混じり、再び紡いでいくのか、それを残したかった。


そしてまだ紡ぎ続けるこの物語を、我はまだまだ記し続けるであろう。


我が命、尽きるまで。



原稿の表紙に目線を向け、その題名を脳内で反芻する。




『孤島奮起』




これは奴に捧ぐ物語。


奴の生きてきた物語。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 落ち着いた、読みやすい文章で最後までイッキ読みしてしまいました 楽しかったです、作者さんありがとう [一言] モブ旅人を読ませていただき、そのあとこちらを読ませてもらいました さらっと終わ…
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