話 其の三
ジナツヒコは、俺の顔を・・・そして俺の目を見て、はっきりとした口調で話し出した。
「戻れない。いや、戻せないといった方が近いかな。『次元の迷子』の場合でも同じだ。時は止まらない。絶えず進む。そして、少しでも違う次元に出てしまったら、同じ次元には戻れない。運よく戻れたとしても『似たような世界』だ。だから、『次元の迷子』達は記憶喪失になることが多い。万が一、記憶喪失にならなくても、知らない世界や周りの環境を受け入れることが出来ず、精神を犯していく。」
「だから、俺達は戻れないんだな?」
「そうだ。君達の場合はまた違う。『次元の迷子』はこの『次元の狭間』に来るが、数秒程度でどこかの世界に戻る。しかし、君達はこの世界に長く居すぎた。もう、戻ろうにも戻れず、仮に戻っても死をねじ曲げただけなので、次元を越えた瞬間に細胞が分子へと分解され、消滅する。」
「そうか。だってさ、みんな。」
「うん。仕方あるまいな。」
「だな。」
「んだな。」
「そうだね。」
「そうね。」
「うん。わかった。」
俺は・・・・俺達は、それぞれの顔を見合う。
「よし、じゃあ、今日も仕事を頑張りますか。」
俺がそういうと、それぞれ立ち上がる。
「ちょっ!ちょっと待て!君達!」
ジナツヒコが慌てて俺達を呼び止める。
「帰れないと、ミーが言ったが、そんなにもあっさりと受け入れるのか?もっと、こう『そんな・・・帰れないのか』と落胆するとか、『帰れないのは嫌!』とか言って泣き叫ぶとか、無いのか?」
「え?ない。」
「何故だ!ミーは君達に全て話した。話さなかったのは、落胆する、そう思ったからだ。なんだその・・・もう少し動揺とか、驚愕とかあってもいい場面だぞ。」
「だから、ナイってば。」
「何故だ!理不尽だとは思わないのか!」
「今は思わない。」
俺はジナツヒコの目を見て、はっきりと言う。
「俺達はすでにそういう未来の覚悟が、できていたからだ。」
トカゲたじたじ