作戦遂行までの日々
俺の設定は、いつもの俺と変わらない。
三度のご飯を作ってればいいのだから。
しかし、まあ一番この状況を楽しみノリノリなのはディディかな。
ビーとジーを無言で見つめ、
「いかんいかん、我が仲間を食すなど・・・」
と、首を振りながら独り言を言って立ち去るという念の入れ様。
最初のうちは笑いそうになったが、今は慣れた。
シャインは・・・・まぁ、素直な分、裏表がなく行動している感じ。
「ビー、新しく出来た槍の強度を見たいから、ジルバートだっけ?あの機械にぶっさしてみても、いい?」
「だ!ダメですよ!」
「えー、じゃあ、何なら刺してもいい?」
ビーもまっすぐなシャインの気性をこれっぽっちも疑っていない・・・と思う。
「え?刺すものを提供せねばなりませんか?・・・・うー、では壊れた外装部分をお持ちしますから・・・ってシャイン!その槍でいきなり刺さないで下さいよ!ちょっ・・・!先に走っていかないでください!!」
時々、こうやってビーとジーを離すよう誘導する。
そして、その間にキヌコさんが一人になるような環境を作り、彼らが情報収集しやすいよう環境を整えた。
「タケルどん、城の間取り、聞かれだ。」
「へー、誰の間取りでした?」
「レビルどんとタケルどんの部屋の間取りだ。そうだ、ロープさたんねーって言ってだな。」
「そうかー、でも着々と作ってるんだね。」
「あ、私の部屋は?まだ?」
「まだだったな。でも近いうちに作るみだいなこと、言っでだ。」
「わかったわ。楽しみね。」
「そだな。」
・・・・お分かりだろうか。
この3人が、早朝の時間にプチミーティングしていたことを。
要約すると、キヌコさんのところに彼らのどちらかが情報を集めに来たけど、聞かれたのはレビルさんと俺の情報。その見返りにもらったのがロープで、ハナの情報はまだ漏れてない。だから、ハナの所には事実確認には来ないってこと。
もう、ばれないように必死だよ。
こんな感じでほとんどに居間にいるハナに情報を集め、そしてハナから全ての仲間に伝達してもらうようにした。
ホント、ハナ、ごめん。
こうやって少しずつ設定を固めていたんだけど、なかなか向こうもボロが出ない。レビルさんが依頼した襖絵を描いているところを見に行ったけど、ジーに一喝されて帰ってきてしまった。
仕事はしているようだ。けど、2人でどんな話をしているのか知れたらありがたいが、盗聴器なんてない。むしろ俺達の方が盗聴されていると思って行動している。
唯一、居間はハナが見張っているので盗聴器を取り付けできない部屋。もし、付けられてもハナならわかるそうだ。でもな、あの文明力の差を見せつけられると、向こうもどんな手をとって来るのかわからない。
俺達は慎重に行動した。
今回、ハナ以外にも最高の働きを見せたのがクジタだ。
「タケルにーちゃん、お城の事、聞きたいんだけど。」
「うん。どうした?」
「あんな、みんな僕とホープをみたら、僕の方がお兄ちゃんだっていうでしよ?でも、違うと思うんだ。ホントはホープのほうが偉いんだ。」
・・・・ビーじゃなくて、ジーの方が立場が上ってことか?
「どうしてそう思うんだ?」
「・・・カクシがそう言うから。」
「カクシはまだ喋れないだろ?」
「うん。でも、僕達、会話が出きるんだ。だから、カクシだけ置いていなくなるとね、僕とホープの立場は逆なんだって。」
赤子の前では、何かを話してるってことか。でも、カクシと会話?いや、ないだろ。
「カクシがね、もしタケルにーちゃんが信じないようなら、今朝こっそりビール飲んだことばらすってさ。」
な!!確かに。俺は今朝、カクシをあやしながらこっそりビールを飲んだ。
誰にもみられていないはずなのに。・・・いや、カクシは抱っこしてたけど。
「あとね、一昨日の昼に・・・・」
「わかった!信じる!」
末恐ろしい子供達だ。でも、これは、使える。
「この話は、皆にしていいの?」
「うん。信じてくれるなら。僕もカクシも協力するって決めたから。」
「わかった。なら、ハナにも言っておくな。」
「ハナねーちゃんは大分前から知ってるよ。だから、僕は『ハナねーちゃんが好き』なんだ。」
そうか。そうしておけば、積極的にハナと話をしていても怪しまれない。それに兄弟嫌い設定もこういう風に生きてくるわけか。クジタ、お前は策士だな。
「ありがとう。また、よろしくな。」
それでもあまり進展はない。
そこでレビルさんが言い出したあのセリフ。
「ここらでたまには収穫したものをパーッと飲み食いしようではないか。収穫祭と言うのであろう?」
酒が入ると、リミッターが解除されやすくなる。それは俺達も同じだけど。だから、俺達は飲みながらも、動向を観察した。
結果、気を張って飲んでいたので激しい二日酔い。
そこでようやくあのセリフが聞ける。
「頭・・・?ああ、問題ありません。少し体の動きは鈍いようですが、意識とはリンクしてないので。」
つまり、今動いている体と精神は別物ってことだ。
その場にいた俺達は、一瞬動きを止めてしまった。そう、ここで俺達はヘマしてしまったのだ。
「いやー、お強いですなー!!!レプティリアンは。」
間髪入れずに発したレビルさんのセリフに救われた。あれは危なかった。
その後にキヌコさんもすかさずフォローに入り、難なくその場は流れた。
この一件があり、俺達は更にばれないよう気を引き締めた。
そして、ようやく作戦決行前日夜、最後の仕掛けを発動する。
「そう、なので、拙者は屋上に超大型弓を設置したのである。内覧会では間に合わず御披露目できなかったが、遂に完成致しましたぞ。矢じりをダイヤモンドにしてあるので、あの破壊力と固さがあれば、天井などイチコロである!」
今までの情報操作、当日の配置、そして動きは念入りに決めた。ありもしない特集スペックをまるであるかのように振る舞い、行動してきた。
そして、いきなり『明日の朝、天井開ける大作戦』を伝え、装置が万全であることを知れば必ず動くはず。
もし、動かなかったら、動かなかったらで俺達のとる行動は変わらない。それなら、ただの思い過ごしで終わるだろう。
でも、俺達は確信していた。もし、彼らが何かやるなら明朝までの深夜の時間のみ。
屋上に薄く小麦粉を巻いておいた。そして、彼らの寝床は一階。そしてハナが寝ずの晩。
さて、どうなるか。
翌朝、ハナに声をかける。
「作業はどう?滞りない?」
「ええ、順調よ。」
つまり、計画通りに彼らが動いたということだ。
階段には小麦粉の足跡はなかったかど、居間にはついている。
俺はその足跡をたどりながら移動すると、そこはトイレだった。換気用の窓の縁に小麦粉がついている。
外壁で行き来出来るとなると、見張りの位置を変える必要があるな。
すぐさま、ハナに伝える。
「野菜みてくるけどさ、なんか城の外の壁、くすんでない?」
うーん。あざとかったか?
「ほんと?後で見てみるわ。」
よかった。あの顔は察してくれた顔だ。これでもう大丈夫だろう。
恐らくレビルさんの用意した弓矢は糸が切られているはず。
もちろん、もともとダミーで用意したものだから切られたところで痛くも痒くもない。
問題は取り逃がさない事だ。
朝食後、レビルさんが自然に割り振りを決める。それぞれもハナの指示通りの場所で待機するだろう。
そして、俺達は屋上へ向かった。
月末月初は何かと忙しくなる