飛んでった弓
「おはようハナ。」
俺は居間にいるハナに声をかける。
「おはようタケル。」
「作業はどう?滞りない?」
「ええ、順調よ。」
「そっか。ならよかった。じゃ、朝食作りますか。」
そしてキヌコさんが現れたのを皮切りに、いつもと同じように皆が居間に集まってくる。
そして、朝食後。
「では、皆様。弓を飛ばしてみようと思うのだが、見たいと望むものは屋上にご足労願いたい。」
そう、レビルさんが言うと、キヌコさんと双子、クジタとホープ以外のメンバーは手を挙げる。
「いや、その人数は入りきらぬ。」
「クククククククッ、なら我は自室で執筆しているので、結果を聞かせてもらおうか。」
「えー、じゃあ、僕は工房で鉄を打ってる。」
「仕方ないわ。エルフの技術を見たかったのだけど、仕方ないわね。工房で発酵作業でも、しているわ。」
「私もいいわよ。居間で作業の続きをしてるから。」
「では、拙者とカムイ殿、タケル殿とビー殿とジー殿、で宜しいな?では、参ろうぞ。」
そして、俺達は屋上へと向かった。
ビーとジーはカムイが持つ。小さいから階段を昇るのに時間がかかるからな。
そして、屋上につくと、内覧会の時に不自然に空いていたスペースに、大きな弓矢が設置されていた。
「これである。これを上空にうち、天井に穴を空けるのである。」
鉄製で出来たフレームに、太い柔軟性のある弦。そして、レビルさんこ手にはダイヤモンド矢じりの矢があった。矢といっても槍くらい太く、矢じり以外は鉄製だった。結構重そうだ。
「では、いきますぞ。」
矢を弓矢にセットし、レビルさんが脚力を使って弓を引いていく。
ギシギシと普段聞き慣れない音をたてながら、弦が形を変えていく。
そして張力が、マックスになろうとしたその時、ビイッンと、弦が切れた。
「ああ!弦が!!」
弦が切れ、波打ちながら弾けとぶ。
「これは、レビルの脚力に弦が負けてしまったのですね。」
「そうであるか。いや、いけると思ったのだが・・・・。」
「また、作り直しですね。自分も手伝います。」
「いや、それには及ばぬ。」
レビルさんが、大きな木箱を持ってくる。それを開けると槍のような矢が数十本入っていた。
「まだこんなに矢があるのですね。しかし、弓が壊れてしまっては、射てません。」
「そうであるなビー殿。しかし、投げることはできるのであるぞ。」
「なーにいってんだ。ミーにだって無理ってわかるぞ。」
レビルさんはフフっと笑いながら、矢じりに黒いものを取り付ける。矢の尾部分にはロープがついている。
「なんですか?その黒いものは。」
「タケル殿の考えた秘密兵器である。」
「なっ!そんなものが!!爆薬かなにかですか!?」
ビーの問いには答えず、レビルさんは矢・・・いや大槍を構える。
「では、いきますぞ。」
助走をつけ、城の岸壁に脚をかけ、勢いよく腕を振り抜くレビルさん。
通常の投擲とは違い、距離ではなく高く飛ばしているので、投擲角度は70度。
ロープがギュルギュルギュルと槍とともに上空へ上がっていく。
驚くビーとジー。
そりゃそうだろう。人間がそんなフルパワーで投げても、そんなに距離は投げられない。
でも、レビルさんは魔王だ。身体能力はずば抜けている。
俺達は以前、レビルさんが海に向かって木を投げたのを見ているので驚きはない。
「なっ・・・・。」
レビルさんが投擲してから8秒程で、ロープが止まる。
「ん、くっついたか。」
「一体、何をされているのですか?」
またしてもビーのその問いには答えず、箱をに入っていた槍の先端に黒いものを取り付け次々と空へ向かって投げていく。
一本一本、ロープが繋がっており、どのロープもギュルギュルと天に呑まれていく。そして、空高く見上げると、わずかに槍が見える。
俺は全ての槍を投げ終えた後、ここに残されているロープを束ねる。少し体重をかけて引っ張るが、槍はびくとも動かない。
「レビルさん、大丈夫そうですよ。」
「そうか、では仕上げといくか。」
レビルさんの右手に巨大な鉄球が出現する。
「そ、それは!?何故いきなりそんなものが!!」
「言っておりませんでしたか?拙者は自分で武器が出し入れ出きるのですぞ。」
太い鎖に繋がれた鉄球をブン、ブンと回す。直径5meはある鉄球だ。相当重いはずなのに、いとも簡単にまぁよく回すもんだ。
「そ、それをどうされるおつもりですか!?」
「ぶつける。」
「え?」
「今、上空にある矢にぶつけるのだ。」
「そもそも何故、矢は上空から落ちてこないのですか?」
「『ラバーカップ』だよ。」
俺がビーの問いに答える。
「『ラバーカップ』?」
「うん。トイレ、詰まったことないの?」
「え?え?もう、自分にはわかりません。」
「まあ、いいや。その『ラバーカップ』で天井に槍を張り付けてるんだよ。それで・・・、この鉄球で更にあの槍を押し込むことで天井に穴を開けるんだ。」
「しかし、あの矢先には核・・・いえ、ディディの爆薬が仕込まれていると言っていたではありませんか!そんなことをしたら、この場所が壊れて汚染されてしまいますよ!!」
「拙者たちは、この時のために生きて参った。ビー殿には悪いが拙者たちはこの計画を行うのである。」
ビーがレビルさんを止めようと近寄ろうとするが、カムイがビーの体を掴む。
「アブねーど。こっちさこい。ジーもだ。」
ジーとビーの体をしっかりとカムイがホールドする。
「皆も離れてくだされ。1個では無理でも、何十個も一ヶ所同時にダメージを与えれば、壊れるであろう。」
鉄球はものすごい早さで遠心力を溜めていく。
「それにダイヤモンド鉱石は一番硬い物質である。あのビー殿らが乗ってきた乗り物のをいとも簡単に傷つけるくらいにな。」
更に遠心力が増していく鉄球。体をのけ反らせ、上空に放つ体勢へと構える。
「いくでありますぞ。」
レビルさんの上腕二頭筋、上腕三頭筋、三角筋、腕橈骨筋が更に膨隆する。
「待て!」
今までの黙っていたジーが叫ぶ。
「天井シールドを壊してしまっては、ダメだ!」
「!!よいのですか!?」
制止するビーの意見を退けるようにビーは大声で叫ぶ。
「シールドを壊したところで死ぬだけだ!!全てが終わりだ!」
「今までそんな話を聞いたことないではないかジー殿。今さら止められぬ。」
「聞け!全て話す!だから、辞めろ!ここは『空間の狭間』だ!そんなことをすればすぐにこの場所は消滅する!折角、ミー達が逃し長らえた命を無駄にするのか!!」
レビルさんと目を合わす。うん、まだ行ける。
「何を言っておる。この場所に閉じ込めた者にもの申す為に、拙者は理由を尋ねにいくのである!!」
「それについても話そう!だから投げるのを辞めろ!全て話してやる!」
うん、ここらが限界だろう。
「レビルさん、聞くだけ聞いてみようよ。ジーはなにか知ってるみたいだし、それから破壊してもいいしね。」
「タケル殿がそう言うのであれば。」
レビルさんが鉄球を消す。
鉄球の風を切る音が消え、屋上は一瞬にして静まり返った。
レビルさんは汗だくなはず