大衆演劇
端でレビルさんとディディがコソコソ何かを打ち合わせている。
俺はこの2人のコラボ作戦、正直怖い。
肉体派なのに単純頭脳で手先が器用な魔王レビルさん。そして、頭はいいはずなのに手先が残念不器用なディディ。
2人は話し合った後、ニヤッっと笑っている。
ゾワゾワする。
横を見ると、ハナも『大丈夫なの?タケル?』っていった目で俺を見る。
目を閉じて頷く俺。
だって、わかんないもん。あの2人だよ?想像すら出来ないよ。最悪、いきなり命を奪うなんてことはないと思うけど。
「さて、レプティリアン種族といったかな。」
レビルさんが口火を切る。
「そうだ。」
「拙者の名前はレビル。城作り師だ。」
え、そうなんだ。風の魔王ではないんだ。
「そなたの名はなんと言うのだ。」
「マークG52。」
「マークG52か、由来は?」
「由来?」
「そうだ。そなたもこうして世に生まれ出生物。親から名を授けられたのだろう。」
「親?ミーは細胞分裂で出来たら生命体だ。」
「しかし、名があるではないか。」
「これはGという容器で生まれた52番目の生命体という意味だけだ。ミーは由来など知らない。」
「では、マークG52よ。そなたの『生きている意味』を拙者に教えてくれ。」
「はぁ?関係あんのか?」
「ある。拙者は生きる意味をずっと探しておった。だから他者の生きる意味というものに興味がある。」
「ミーの生きる意味。上からの命令に従うことだろ。」
「違う。マークG52自身が何故生きているのか。何のために生きるのか。何のために命令に従っているのか。それを拙者は問ている。」
「ミーは何故命令に従っているのか?それは命令だからだよ。」
「そなたは従いたいのか?」
「従いたいもなにも、そういう仕事だ。ミーに選択権はない。」
「何故故?」
「何故?考えたこともない。言われたことに従っていれば給料が貰える。その給料で飯が食える。それに従っていれば給料も上がるかもしれないだろ。」
「上がると思っているのか?」
「ああ。ミーはひたすら命令に従ってきた。だから、上の連中はミーの事を信頼して使っているはずだ!」
「そうであるか。では、質問を変えよう。今まで、他人から評価されたことはあるか?」
「あるよ!ミー達の行動は逐一報告されるんだ!」
「そうであるか。では、その報告で昇給したことはあるか?」
「・・・・・ない。ミー達は生まれてすぐ適正職業を決められ、その職業につく。だから、一生変わんない。」
「それに対して不満はないのか?」
「あるよ。ミーよりもトロイ奴がスッゲー幹部なんだ。」
「なのに、文句もないのか?」
「文句はあるよ!でも言ったところで変わらない!ミー達は生まれたときから未来が決まってるんだよ!」
「決まっているのか?」
「そうだ。ミー達レプティリアンは、生まれたときのDNA検査で決まるんだよ。それに、DNAに『逆らわないアデニン』が組み込まれているんだ。」
「そういう遺伝子書き換えをされているということか。」
「そうだよ。ミーの知る限りでは下等生物には『殺めないアデニン』が組み込まれていると習った!」
さっき言っていた『DNAに組み込まれている』って言ってたの、この事か。
「・・・・そうか、それは辛かったのぅ。」
え?
レビルさんがトカゲ・・・・いやマークG52の肩に人差し指を置きに、急に涙声になる。
「拙者はそなたの事をなにも知らぬ。だからこそ、そなたの事を知りたくなったのだ。そうか、そうか。」
どうした?
「クククククククッ、レビルよ。そんなトカゲに構うでない。もうなにも知らないようであれば、用はないだろう。燃やしてしまおうではないか。」
「何を言うのだディディよ。こやつはそんな中でも必死に生きてきたのですぞ?」
「だからどうした。それと、今のこの状況とは関係ない。」
「いや、その生き様があるからこそ、今ここにいるのである。そんなマークの事を少し考えてやってくだされ。」
「クククククククッ、そんな甘いことを言っているからレビルよ。貴様はダメなのだ。どけ、火を着ける。」
「ディディ殿!横暴でござるー、横暴でござるー!」
なんだ、この茶番。コントか?コントか?コントなのか?
ハナをチラッとみると、口を開けてポカーンとした顔をしている。だよな。俺も多分、おんなじ顔をしてるんだろうな。
「えぇい!退くのだレビルよ。我がこのトカゲにトドメを刺してやろう。」
「止めてくだされディディ殿!この通り、この通りである!」
土下座をするレビルさん。随分と、きれいな土下座を覚えたものだ。
「どきたまえ。」
レビルさんの肩に、片足を乗せて痛くないようにグリグリしてるディディ。顔は本当に楽しそうだ。
この構図は『金●夜叉』の『勘吉●宮』かなー。またレビルさんの好きそうな話をチョイスしてきたなー。
「後生である!お頼み申す!勘・・・ディディ殿!」
今、勘吉と言おうとしたな。
「黙れ!黙れ!」
ノリノリのディディ。
俺とハナはいつまでもこの演劇を見なくてはならないのであろうか。
「もう、止めてくれ!」
響く声。
縛られているマークG52の声ではない。何故なら、そのマークG52も、唖然とした顔をして、一点を仰視している。
俺とハナはその視線の先、声の先に目をやる。
そこには、もう1匹、トカゲが立っていた。
服を纏い、靴を履き、二本足で起立姿勢をとっているが顔はトカゲ。
そのトカゲは、何かを話そうと口を開く。
その時だった。電光石火とはまさにこの事だろう。
素晴らしいスタートダッシュを切ったサファイアがトカゲに噛りつく。
「だめ!サファイアだめ!ぺーして!食べちゃだめ!」
あと、2秒遅かったら、トカゲはサファイアの胃袋に収まるところだった。危ない危ない。
サファイアは一撃で敵を仕留めることが出来る優秀な狼です