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孤島奮起  作者: つふら
人間があらわれた
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死を覚悟する


時刻は朝9:30過ぎ。


天気は小雨。


夜勤が終わった俺は、24Hスーパーで食料品やらを購入したあと、自宅への帰路に着いていた。

耳にはめているイヤホンから絶えず音楽が流れているが、夜勤明けの脳内には『音楽』として認知できないほど疲れていた。


両手には食材をたんまり入ったエコバック。入りきらなかった食材が入ってパンパンに膨れた愛用のリュック。イヤホンつけ、線路脇を黒い折りたたみ傘をさしてうつむいて歩いている今の俺は『子供を近づけたくない男ランキング』上位に入るであろう。


本当に疲れているんだよ俺は。


仕事柄、夜勤は絶対的について回るのだが、それにしても今回の夜勤はひどかった。


総患者数50人中、25人が熱発。7人が不穏で全く寝てくれず、4人がいつ旅立ってもおかしくない、そんな今までで類を見ないほどの荒れっぷりだった。


先程までの仕事をぼんやり思い出しつつ、ため息をつく。


帰ったらビール飲んでさっさと寝るか・・・そんなことを考えながら歩いていると、ふと不協和音が聞こえた。


この曲にそんなメロディーがあっただろうか、少しだけ目線を上に上げる。


何かに慄いた顔をしているサラリーマン、子供を抱きしめしゃがみこんだ母親、自転車を投げ捨て走り出す女子高生、放心してフリーズしているおばさん・・・


なんだこの状況は、なんだこの不協和音は。



ゆっくりと振り向いた時、皆の表情が理解できた。


人は死ぬとき、アドレナリンが分泌して周りの景色が走馬灯のようになると聞いたことがある。そうか、これがこの現象かと脳内で納得する。


振り向いた先にあったのは、斜めに歪んだままコマ送りのようにゆっくり迫って来る電車。車輪から金属音に合わせて火花が散り、ゆっくりと舞い上がっている。車体上部についた電線がブチ切れ、鞭のようにしなりながら、変則的に蠢いている。


俺と電車との距離は約5mほどか。


目をつぶる、意識的にというよりは危険に対する反射として体が勝手に反応する。両腕も体の前でクロスをするように動く。これも人間が生来持っている防御反応。


反応を起こしたところで相手は電車。防御できるはずがない。もはや目をつぶっている為、視覚的な情報はない。



あぁ、俺はもうすぐ死ぬんだ。

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