ルークス王国とわたし
わたしは、12歳になった。
本来、このルークス王国で生まれた令嬢は、一通りのマナーと一般教養の授業を終えている頃だけれど、生まれてからずっと病床にいたわたしは、リハビリを行わない合間、5年をかけてこの世界、言語、マナーを学んだ。
発音や世界観は欧州に似ていた。時代背景は、近代に近いのかな?ただ文字とかは独特で、国よっても違うので、ひたすら覚えるしかなかった。
この国は、ルークス王国という国で、発音は某女王の国に似ている。でも歴史は全然違っていた。
ルークス王国の成り立ちは、この世界で自然に誕生した一の神がいて、何もない世界を静観していた。
しかし、いつしか様々な感情が芽生えて、自分が孤独だと思うようになる。
一の神は、考えた末、他にも神を誕生させることにした。
何もない世界にまず光が欲しくて、光の神を身の内から、発生させた。光は今までの世界がいかに何もなかったを知らしめた。
一の神は、それならばと自分似た形の生き物を次々作り出した。
最初は、練習に小さな生物。それから、慣れてきた時には世界にたくさんの生き物を作り出した。その生き物たちは自我を持ち生活するようになる。
一の神は、その様子を満足げに覗いていたがある問題を見つける。光だけの世界では、明るすぎて生き物たちは、休息をうまく取れないようだった。
ならば、光の真逆の濃い闇を誕生させよう。今度は、闇の神を身の内から、引き出した。
だが、そこで予想外の事態が起きた。闇の神誕生と同時に一の神の中で破壊衝動が湧き出したのだ。
苦しくなった一の神はそれも掻き出した。それが魔の神と言われる。
光と闇そして魔の神を誕生させた一の神は、自分の身体が縮んだことにようやく気づいた。
一の神は、神として束の間の休息につく。
一の神が長い、とてつもなく長い休息に入り、一の神から誕生した三神は、自分の本能のままに神力を使い出した。
それからしばらくして、光の神は、闇の神に求婚をする。光の神は、光を纏った美しい美丈夫の男神だが、闇の神は、思わず褥に眠らせて、その豊かな黒髪と真っ白な肢体に埋もれたくなるような蠱惑的な女神だった。
本来、この二神はお互いの神力が影響し合っているため、夫婦神になれば、神力の均衡が保たれていたかもしれない。
だが、闇の神は、光の神の求婚を断った。
「なぜなのだ?愛しい神」
今まで光の神が求めれば、必ず自分のモノに出来た。まさか拒否をされるなど、思いも寄らなかった。
闇の神は傷ついた様子の光の神に哀れみを感じたが、闇の神が思いを寄せていたのは、あの魔の神の方だったのだ。
魔の神は、二神から、離れた海辺にある土地で、破壊衝動が起こる度、身の内から、魔の生物を生み出していた。
魔の生物は神に似た人型だったり、獣の形をしたモノもいた。
魔の神は、生まれたモノ達の愛し方を知らない。そのため、魔の生物は本能のまま、生きるようになる。
魔の生物は、神に近い形をした人が形成していった集合の地(村)に入り込み、彼らが育てていた農作物を奪い、根こそぎ食べていった。
「このままでは一の神が愛した世界が、壊されてしまう」
闇の神に求婚を断られ傷心の状態だった光の神は、一念発起で魔の生物対策を思案した。
(そうだ!私も一の神と近い事をしてみよう)
光の神は、弟神と妹神を誕生させた。一の神のような身を削る方法ではなく、魂から発生させた。そして、彼らの魂を安定させる器が必要だったため、一の神が作った人々の中で、志しの高い者に身を捧げさせた。人の中に宿った彼らは、兄神を敬い慕い、身に宿りし神力で魔の生物と戦った。彼ら魂宿神の子孫がルークス王国の四大公爵である。
そうわたしはこの四大公爵の中の一つ、モルガン家の長女なのである。
こんな話、実際の歴史では習っていない。お伽噺レベルだから、もうほとんど結果しか語られていない。
この話は、この国の文字をようやく覚えた記念に、父が貸してくれた『光と闇と魔と』という厚めのとても古い本に書かれていた。
内容は、先程の通り。あと闇の神も魔の生物で苦しむ人々に心を痛め、魔の神に会う。闇の神は自分の身を捧げ(これは色っぽい意味の方)、魔の神に安らぎと愛しむ心を与えた。そして、二神は夫婦神となり、オプスクーリタース国を海辺の荒れていた土地に建国した。それにより魔の生物がその土地に移ったとか、四大魂宿神(後の四大公爵)が、オプスクーリタース国の二神に拝謁し、他の土地に魔の生物が干渉しないよう約束を取り付けたり…って、光の神が全然活躍していない。そうこの時、まだ魔族の国であるオプスクーリタース国しか、この世界には国がなかったのだ。
はい。我らが光の神ですが四大魂宿神に二神と交渉させていた時期に何をしていたかというと…人の娘たちとホニャララしていた。歴史的フォローとしては、魔の生物によって農作物や家畜を取られた人々の中にも家族のためにと魂宿神たちと共に戦った男たちがいた。だが彼らは、神を宿した人や魔の生物と比べて非力であったため、命を落としていった。彼らの恋人や妻たちが悲しみに暮れていたところ、光の神が現れ、彼女たちを慰めた(もちろん、色っぽい意味で)
そう!この光の神は、とんだスケベで自己中心的なイケメンだったのだ。
闇の神にフラれてから、光の神は、人の女のぬくもりで、手当たり次第悲しみを埋めていて、それに忙しかった。
魔の生物がはびこると身を削らなくて済む魂分離で、弟神と妹神たちを発生させ、志しの高い人の心を利用して身を捧げさせ、戦わせ、交渉させた。
それから、しばらくして、光の神は疑問を持った。どんなにそういった行為をしても子が出来ない。
夫婦となった二神からは、たくさんの子が生まれ、またその子たちも魔人と婚姻して子が生まれていた。
また魂宿神の宿った人間たちもそれぞれ婚姻し、家族に恵まれ、いつも幸せそうだった。
そんな時だった。たまたま視察していた土地で向こう岸に見える小さな島が気になり、その島訪れた際、大きな置物のような石の上に白いローブを着た小さな娘が座っているのを光の神は発見した。
娘は栗色の波打った豊かな髪を腰まで伸ばしていて、歩く度に光をまとっていた。
光の神は娘の近くに寄るため、大きな石の上に軽い助走で飛び乗った。
「君は誰?」
光の神が、そう問うても娘は無視し、オプスクーリタース国の見える方向を無言で眺め始めていた。
その態度に光の神は、苛立った。そして思った。この娘を欲しいと。
それから、この娘の気を引く為に、光の神は、この島にたくさんのモノを作った。何故なら、そうする度に、無反応な娘が手を叩いて喜ぶのだ。大きな石しか無かった島には、山が、川が、丘が、平地が、それにより、動物も、魚も、人も、発生した。
光の神は満足する。ここにある全てのものが愛おしく思う。その感情に光の神は熱い涙を流した。
「本当の愛を知ったのですね?光の神」
光の神は、初めて言葉を発した娘を見る。娘は大人の女になっていた。そして、その姿は………
「一の神…あなただったのか…」
一の神はニッコリと光の神に微笑んだ。光の神も彼女に微笑み返した。
「私は…あなたと共に生きたい…愛しています」
光の神の真剣な告白に一の神は両手を広げて答えた。
「共に生きて行きましょう、あなた…」
光の神は、愛しい一の神と共に生きた。彼らの息子は、この島に王国を建国する。その王に仕えたのは、四大魂宿神が宿った者の末裔だった。
魂宿神とか、覚えづらいかもしれないけれど、
覚えてもらえるととてもうれしいわ。(安寧の神より)