序章:不本意すぎる始まり方。#3
「僕が願う魂の条件、それは孤児でいいので、ある程度の思考と今までいた世界の常識を残しつつ2,3歳の孤児へ転移をできませんか?」
さっきの条件二つは結構きつい。新生児からやり直すにしても、中身三十路のお脳のステータスじゃおそらく言語障害も出るだろうし。ある程度の言語の聞き取り習熟度がある子供への転生なら、将来性は自己責任で確保もできる。
「よいのですか?もっといい条件もあると思うのですが」
「その代わりもう少しオマケしていただけるとありがたいですね」
この刈り手さんちょろい。「もっといい」なんて言葉を使うと言質を取られてしまうのに。
「さっきも言った、2,3歳の孤児、性別は男・・・あ、聞くの忘れてた、スキルって・・・ありますかね?」
「スキル・・・ですか?技能のコトでしょうか?そういったものは成長過程で自分で磨いていくものですよね?」
まあ当然だよね・・・ラノベのような見えやすいステータスなんかはありはしないか。スキル所持で発動を願うだけで動くなんてただの機械だし。
「ですよね、となると・・・あ、大事なことだ。生まれる先はどんな世界になってるんですか?」
「世界観的には中世で、物理法則から枝分かれした魔法が行使可能な世界になっています。簡単に言うと中世騎士時代に魔法を足しただけですね。」
なるほど。わかりやすい。
「でしたら知識や学校なんかがあって文化レベルが発達した場所でお願いできますか?」
「それぐらいなら大丈夫です。あとは魔法の素養なんかどうしましょうか」
「あるとどうなります?」
「一般的にはちょっとした素養は持っているものです。素養が大きければ天変地異を再現したりできますね」
「そこまで大げさなものでなくてもいいかなあ・・・、それに生活の中で上達していくってことは訓練も効果があるんでしょ?」
「もちろんです」
「でしたらその辺は一般的なラインでお願いできますか?」
「かまいませんが、希代の英雄や魔道の盟主になることも可能ですよ?」
「いりませんよそんな御大層なの、僕ぁね、都合で辞めざるを得なかった学生に未練もあるし、自分で将来を切り開くことができなかったことも後悔してる。だから次に生を受けるなら自分で将来を勝ち取りたい。そんな人生にしたいんですよ」
「そうですか、素晴らしいと思います。では先ほどの条件で然るべき都合がつき次第魂の転移を行います。また今回は転移ですので、サネヤマ様の2歳当たりの実体で孤児院前に転移させましょう。よろしいですね?」
「お願いします。また満期になればお会いしましょう」
そう冗談を飛ばすと刈り手さんは苦笑しつつ手を振った。視界と意識が黒く混濁してから、一気に無職の水を継ぎ足したかのような漂白感ののち、割と大きな教会の脇に立っている扉の前で行き倒れていた。