シーサペント・ドラゴン
晴天、大海に揺れる船にリナ達は乗船していた。数日の船旅になる中、現在リナはファラに北大陸の事について教えてもらっていた。
リナ以外のメンバー、ティアは初めての海に興奮しているのか外で潮風に当たりながら海を眺めている。ハイネはと言うとミュウと共に奥の部屋のベットの上で横になっていた。初めは心配していたリナ達だったがファラに優れた獣人は皆こうなってしまうが、船を降りたらすぐに治るという話を聞いたのでベットで安静にしてもらっていた。
「すみません。こんなことでお時間を貰ってしまって」
「いいのよ。どうせ船の上なんてほとんどする事がないんだし、…それでリナちゃんはなにが知りたいの?」
「えっと、北大陸の事はほとんど知らないのでいろいろと教えていただければと……」
リナがそう言うとファラは本棚から北大陸の地図を取り出して机の上に広げた。
ちなみにファラのリナ達の呼び方は何とかお願いして変えてもらったのだった。
「これが北大陸の地図ね。私達が向かっているのはここね」
北大陸はいびつなひし形のような形をしていてファラは北大陸の南西に指をさした。
「大陸の南側から少しずれるんですね」
リナ達がいた大陸、西の大陸からの航路を考えるとまっすぐ北大陸に進むのではなくわざと北西方向に進んでいるのがリナは少し不思議に思った。
そんな疑問と唱えるとファラは頬杖をついて答えた。
「北の大陸はね。東西南北に統治者が分かれてるんだけど、南側の国は治安が良くなくて船を止めるのはやめておいた方がいいんだ」
「そうなんですか。…どうして治安が悪いんですか?」
「簡単に言うと南の王様が自分の国の領土を増やそうと他の地域に戦争を吹っ掛けるからなのよね。確か今も北の国と戦争中だったはずだし」
「では北の大陸も治安が悪くなってるんでしょうか?」
「たぶん大丈夫なはずよ。北の王様は大陸で一番力を持ってるからすぐに戦争も終わると思うわ」
「なるほど……では西と東は大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫。問題があるとすれば南側だけだから」
(南側にオキタさん達の町が南側にあると危険な旅になりそうですね……)
リナがそんな事を考えていると、突然船が大きく揺れた。
「な、なに!?」
ファラが驚きの声を発すると突然部屋の扉が開いてティアが中に入ってきた。
「た、大変だよ!!なにか大きな魔物が船に向かって攻撃してきたんだよ!!」
ティアがそう叫ぶと奥の部屋で寝ていたミュウとハイネが部屋から出てきた。
「と、とりあえず外に出てみるぞ」
全員が船の甲板に出ると側面に船と同じくらいの大きさの大きな青い海蛇がこちらを睨みつけていた。
「シ、シーサペント・ドラゴン!?なんでこんなところに?」
ファラはその魔物を見て驚きの声を上げた。
そんなファラにリナが訊く。
「シーサペント・ドラゴンってここにいたらおかしいんですか?」
「ええ、シーサペント・ドラゴンはもっと深海に住んでいて海上に出てくるとしてもこの辺りにはでないはずだし、それにシーサペント・ドラゴンはもっとおとなしいはずなのよ」
「でもあれこっちに敵意むき出しなんだけど……」
ティアが振るえる指でシーサペント・ドラゴンを指してそう言っていると、シーサペント・ドラゴンは咆哮を上げて突撃してきた。
「うわわわ、こっちに来てるよ!!」
ティアが叫んでいる間に、リナがレーヴァテインを構えて魔法を発動させようとしたのだが、それよりも早くファラの魔法が発動した。
「『ファランクス!!』」
魔法の発動と同時に船の側面全体に薄緑色のシールドが出現しシーサペント・ドラゴンの体当たりを防ぐ、それと同時に体当たりが当たった場所が爆発しシーサペント・ドラゴンにダメージを与えた。
シールドが発動したおかげで船には全くダメージは無かった。
「今のうちに迎撃の準備を!!」
ファラの掛け声によって同乗していた者達の中で遠距離攻撃が出来る者はシーサペント・ドラゴンの迎撃に当たった。
リナとティアも魔法と弓による迎撃に向かおうとすると、隣にいたミュウとハイネが前に出た。
「ワタシもやるぞ……うっぷ」
「お姉ちゃんと戦う……ううっ」
のだが、船酔いで全く戦える様子ではなかった。
「お二人はそこで休んでいてください」
「いや、しかし……」「でも……」
二人はリナの言葉に食い下がろうとするが、
「はいはい。二人は邪魔になるから休んでてねー」
ティアによって強制的に壁にもたれ掛けさせられた。二人はすぐにぐたっと横になってしまっていた。
「全く調子が悪い時には休んでいてもらわないと」
「あれがお二人の良いところなんですよ。それにしてもティアさんは余裕なんですね?相手は一応ドラゴンなんですよ?」
「え?だってリナちゃんがいるんだし余裕でしょ?前に紅蓮龍を倒したって言ってたし」
(そ、そんなこと言いましたっけ?……あっ!あの時ですか!!)
「ティアさんあの時持っていた素材は昔討伐した時の物で今のボクではたぶん難しいと思いますよ」
「ええ!?そうなの!?だったら気合入れていかないとね」
リナとティアは気合を入れなおしてシーサペント・ドラゴンに魔法と矢を放つが、他に迎撃に参加している者達と同様にシーサペント・ドラゴンの硬い鱗に弾かれてしまっていた。
攻撃を受けていた咆哮を上げてシーサペント・ドラゴンは海の水を操ると大きな槍のような形状に変えて船に攻撃をしかける。
「ファランクスでカウンターを喰らわないように魔法攻撃に切り替えてきたわね。このままだと私の魔力が切れて船が潰されちゃうわ」
「ファラさんどうすればいいの?」
「そうね。シーサペント・ドラゴンは火に弱いはずなんだけど、あれじゃダメみたいだしね」
ファラの視線の先にはシーサペント・ドラゴンに火の魔法を放つ魔法使いがいたのだが、それは下級魔法でシーサペント・ドラゴンに傷をつける事すら出来ていなかった。
「……ボクが、ボクが上級の魔法で攻撃してみます」
「リナちゃん上級魔法が使えたの?」
「はい。でも氷の魔法なので海の上ではどうなるかわかりませんがいいでしょうか?」
「このままじゃ船が潰されておしまいなんだし、この際おもいっきりやっちゃっていいわよ」
ファラの了解も得てリナは頷くと上級魔法の詠唱に入った。
(あれから上級魔法を試したことがありませんが……)
「『氷精よ、汝の力を持って我に従え、凍結する自然の息吹よ、我が前に吹きすさべ、』」
「リ、リナちゃんなんて魔力で……」
魔法の詠唱中、魔眼を使ってリナを見ていたティアはその魔力の大きさに驚愕していた。
リナの魔力は以前はハイネよりも少ない量だったが、今のリナからはハイネの数倍の魔力を放出していた。
(この感覚はなんでしょうか?すごく心地いい感覚がします)
リナは自身の奥から感じられる心地の良い感覚に身を預けたくなっていた。
「『大気の氷よ氷刃となりて、切り裂け、蹂躙せよ、四肢を貫き、我が敵を退』」
「リナちゃん待って!!」
最後の一節を唱え終えようとしたその時にファラから制止の声が上がった。
リナはファラの視線の先、シーサペント・ドラゴンの上空に視線を送るとそこには紅色のドラゴンが現れていた。ドラゴンは明らかにシーサペント・ドラゴンよりも強い威圧感を放っていて一緒に戦っていた者達は皆尻もちをついていた。
ドラゴンが口を開いてブレスの動作を見せたのでリナがレーヴァテインを構えたのだが、ドラゴンはシーサペント・ドラゴンに向かってブレスを放った。
シーサペント・ドラゴンは強力なブレスを受けて力尽きるとその巨体を海上に浮かべてこと切れていた。
そんな光景を見せられて皆が恐れおののいていると、紅色のドラゴンが船に向かって頭を下げて言葉を発した。
『私の眷属がご迷惑をお掛けしました。お詫びにこいつの鱗を少しお渡しします』
ドラゴンはそう言うとシーサペント・ドラゴンから鱗を強引にはぎ取って海に浮かべるとシーサペント・ドラゴンの死体を持ち上げて飛び去ってしまった。
「あれは……」
突然の事で驚いていたリナ達だったが、いつの間にか来ていたミュウが船酔いに苦しみながら言う。
「あれは、竜人族の竜化した状態だな……」
「竜人族ってあの?」
ティアが驚いた様子でミュウに問いかけるとミュウは頷いた。
「ティアさん竜人族ってなにかあるのですか?」
「リナちゃん知らないの!?竜人族っていったら伝説の種族の一つだよ?ほんとにいたなんて驚きだよ」
「そんなにすごい種族なんですね……」
突然の事で皆頬けていたのだが、ファラの一言で気を持ち直し乗員達は作業に戻り、討伐に参加していた者達には報酬がその場で支払われていった。
リナ達にもとファラが報酬を持ってきたのだが、二人は何も出来なかったとそれを辞退し代わりにシーサペント・ドラゴン鱗を一枚を二人分の報酬として貰う事にしたのだった。
伝説の種族、竜人族の登場によってなんとか危機を脱したリナ達はシーサペント・ドラゴンの鱗の回収後、北の大陸に向かって再出発したのだった。
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