ファランクス
「三人共着いたぞ。ここが最北の村、ここから北の大陸に向かう船が出てるんだ」
リナ達一行はミュウの案内のおかげで無事に最北の村に着くことが出来た。
ミュウは村と呼んでいたのだが、この村は高い石の壁で囲われていて村に入る門にも門兵が見張りをしていた。
「ここが村なんですか?」
「ああ、外から見たら村には見えないけど、ここの森は危険だからな。これくらいしないと村が守れないんだ。まあ中に入ったらホントに何も無い村だから期待しても無駄だからな」
リナ達が村の門に近づくと門兵の一人が話しかけてきた。
「ミュウさんじゃないですか?どうしてこんなところに?」
「ちょっと北の大陸に用があってな。船に乗りたいんだが次の船はいつ出るんだ?」
「いいタイミングですね。今日の午後に出る予定ですよ」
「そうか良かった。この4人で乗りたいんだが……」
「わかりました。ファランクスの頭に話してきますので、うちの店で待っててください」
門兵はそう言い残すと村の中に走っていった。
リナ達は問題なく村の中に通されてミュウの案内で店に着くとその中で門兵が話をつけてくれるのを待っていた。
「ねえミュウさんさっきの人が言ってたファランクスって誰の事なの?」
「ここの村を管理している者の一人でこの村の奴隷達の主人だな」
奴隷の主人と言うフレーズを聞いて思わず3人は顔をしかめてしまった。
「おいおいそんな顔するなー。一応言っとくがあいつはお前達が思っているような奴じゃないぞ?」
リナ達の脳裏に浮かんでいたのは、いかにも奴隷商と言った怖く裏の稼業をやっている怪しい風貌の人をイメージしていたのだった。
しかしミュウがそのイメージを払拭するように説明する。
「気が付かなかったかもしれないけど、さっきの門兵も奴隷の一人だぞ?」
「ええ?嘘でしょう?」
リナ達はミュウに言われるまで、さっきの門兵が奴隷とは気づかなかった。
この世界での奴隷と言うのは、犯罪を犯した犯罪奴隷や借金を返せず奴隷に落ちた借金奴隷、戦争で敗北した国の貴族たちが落とされる戦争奴隷や人さらい等の非合法で落とされる違法奴隷といった具合で奴隷に落ちた人は皆自由の無い生活を強いられている者の事だった。
しかしさっきの門兵は奴隷には見えない程明るい性格をしていたその為3人はさっきの門兵が奴隷だという事に気がつく事が出来なかったのだった。リナはどうして奴隷が明るく暮らしているのか気になってミュウに訊くことにした。
「ミュウさん。一応ボクも知識として奴隷の方たちの事は少し知っているんですが、さっきの人は奴隷に見えないほど、その……」
「まあ言いたいことはわかる。ここの奴隷たちは他の奴隷たちと違ってな。やむを得ない事情で奴隷に落ちた奴が多いんだ」
「事情って何があったんですか?」
「例えばさっきの奴はある国の領主が領民に酷い仕打ちをしていてな、それを見たあいつがついキレて殴ったらしいんだ。あいつは腕のいい冒険者だったんだがそのせいで奴隷に落ちたんだよ。それを知ったあいつの主人が奴隷のあいつを買ったってわけさ。ここで家族と今までの様に暮らせるようにな」
「それでここの奴隷の人達は皆明るく暮らしているんですね」
「そう言う事だ」
「素晴らしい人なんですね」
「ん?あ、ああそうだな……」
リナがファランクスに対して尊敬の念を述べていると、ミュウは何故か言葉を詰まらせながら同意する。
「どうかしたんですか?」
「いや、その…な。あいつは確かにいい奴なんだけどな。性格がちょっと……」
「ん??」
煮え切らない態度のミュウに首を傾げるリナ達だったのだが、ミュウが小声で話始めたので3人が耳を近づける。
「その…あれだ、ティアとはかなり気が合う……」
と、そこまで言った所で突然ミュウの体が宙に浮かんでしまった。
突然の事で驚いたリナ達だったが、よく見ると後ろから抱きかかえられる格好になっていた。
「きゃあああああ。久しぶりねぇー」
「うわぁ。やめろ、ファラ放せ!!」
ミュウを抱きかかえていたのは長身の緑色でふぁわっとしたロングヘアーの女性だった。その女性はリナが今まで見てきたどんな女性よりも美しく背が高くグラマラスな女性だった。
ファラと呼ばれた女性は抱き上げたミュウに頬擦りをしていた。その光景を3人はポカンとした表情で見ていたのだが、ファラの視線がリナ達に映るとファラの目が怪しく光った。
「ねえ、お姉ちゃんこの目見た事ある……」
「奇遇ですね。ボクも見た事があります」
「え?ええ?どこで?」
ティアはまるで分っていなかったが、リナとハイネにはファラの目の光がティアがたまに見せる目とそっくりだったので今の状況がなんとなくわかってきていた。
(こ、この世界の美人の人は変な人しかいないんでしょうか?……)
苦笑いをしながらファラに対して少しずつ距離を取っていくが、
「ミュウちゃんのお友達の子たちかな?ね、ねぇ、はぁはぁ、お、お姉さんとイイ事しない?」
と、ファラは鼻息を荒くしてミュウを抱えながらリナ達にじりじりと近づいて来る。
リナ達はゆっくりと後ろに下がっていったのだがここは店の中、三人は壁に背中をつけてしまい逃げ場所を失ってしまったのだった。
「大丈夫怖くないから、はぁはぁ先っぽだけだからね」
とそこまで言った所で抱えられてたミュウが何とか逃げ出しファラの頭を引っ叩いた。
「やめんか馬鹿垂れ!!」
「あいたっ」
ミュウに叩かれたファラはわざとらしく痛がりながら頭を擦ると、コホンと咳ばらいをしてリナ達に向き直った。
「あ、あーはじめまして私はファラ。一応この村の幹部の一人です」
ファラはいたずらっ子の様に誤魔化し笑いをしながら舌をペロっとだした。
3人は何とも言えない感情でファラの事を見ているとミュウが頭を掻きながら前に出てきた。
「あー、こいつがさっき話してたファランクスのファラだ。まあその、さっきのでこいつがどういうやつかわかっただろ?」
「はい。それは……はい」
「ん、納得した」
リナとハイネはミュウの説明に頷いていたのだが、ティアは未だに首を傾げていた。
「どういう事か私はわからなかったんだけど、2人はわかったの?」
「はい。充分に」
「ん、充分」
「えー、私全然わからないよ」
とりあえず落ち着いたリナ達はファラを交えて話をすることになった。
「改めて、初めまして私はファラ、よろしくね」
「は、初めましてリナです」「私はシェスティア、ティアでいいよ」「ハイネリア、ハイネでいい」
「リナたんとティアたんとハイネたんね。よろしくー」
「「「……」」」
3人が何とも言えない表情でファラを見ているとファラは鼻息を荒くして顔を赤く染め始めていた。
「あー話が進まんからやめろ。リナ達もこいつはこういうやつなんだ。あきらめてくれ」
「なによ。ミュウちゃんこういうやつって失礼ね」
「うるさい。話はいってると思うがワタシ達は北の大陸に行きたいんだが次の船に乗せてもらえるか?」
話を切り出したのはミュウだったが、リナは静かに喉を鳴らしていた。
事前に聞いていた話では、大陸を渡る船に乗るには時間がかかるかもしれないと言われていたのだった。
しかし、リナの緊張は空回りになってしまった。
「午後の船に乗りたいのよね?いいわよ」
「え?まじか?」
「ええ、私も北の大陸に行く予定だったから私の連れで乗せてあげれるわよ?」
「あ、ありがとうございます」
リナが立ち上がってお礼を言うとファラはじゅるりと出るよだれを腕で拭きながら言う。
「いいのよ。でも船旅では同じ部屋になるからね」
ふへへと笑いながらファラは恍惚の表情を浮かべていた。
「はぁ。言いたいことが無い訳ではないが、ファラも一緒の船なら安心だな」
「どういうことですか?」
「こいつの二つ名ファランクスって言うのはファラの固有魔法の事でもあるんだけどな、ファラの魔法はあらゆる攻撃を防ぐ盾を作り出しその盾を攻撃してきた者を自動で反撃までする攻防いったいの魔法なんだ。船旅はある程度安全な航路を進むんだがそれでも危険がないわけでは無い。でもファラがいれば万が一の時でもその魔法で何とかなるってことさ」
「へーすごいね。ファラさん頼りにしてますね」
「いいのよー。一応私の仕事でもあるしね」
その後、夕方には出航になるので船旅の準備をする為にファラとは一旦分かれて準備をする事になった。
すでにリナのアイテム袋の事はミュウにも教えていたので、必要な物はアイテム袋に入れながら村の店を回っていた。
買い物も済んで後は船の時間を待つだけになった一行は食事処で軽食を取っていた。
「先に言っとくが長くはないが船の旅はしんどいぞ」
「え?そうなの?」
「ああ、ワタシはどうもあの揺れは苦手なんだ」
船酔いしやすい体質のミュウは3人にいかに船旅がしんどいかを力説していた。
いろんな話をしている中でふとティアがこぼす。
「それにしてもファラさんってすっごい美人なのに残念な性格してるよねー。あの性格が無かったら完璧だったのに」
「「「え!??」」」
自分を完全に棚に上げたティアの発言にリナ達は声を合わせてしまったのだった。
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