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リナの暴走を止めろ!!

「ゼアン様、いかがいたしましょう?」



 アンジェが去り暴走状態のリナを見つめるゼアンだったのだが、部下達はリナに対して剣を構えたのだが、ゼアンはそれをすぐに制止した。



「待て、彼女はただ暴走しているだけだ。ここは僕が相手をする。君達は他の大会参加者と共に観客が巻き込まれないようにすぐにこの闘技場から退避させるんだ」

「了解しました」



 すぐにその場を離れて観客の誘導に走っていく者達と入れ替わりにティアとハイネがゼアンに合流した。



「リナちゃん」「お姉ちゃん」

「シェスティア君ハイネリア君、リナ君のこの暴走を止める方法はあるかい?」



 ゼアンの質問に二人は首を横に振る。



「わからないです。こんな状態のリナちゃんを見るのは初めてです」

「そうか・・・」



 ゼアンはそう言って剣を抜いた。



「リナちゃんを斬る気ですか!?」

「いや、斬るつもりはない。けど、このままリナ君を放っておくと、おそらくこの街は氷に覆われて再起不能になってしまう。何とかリナ君が収まるまで僕がここでリナ君を引きとめる」

「引き止めるって言ったってどうするんですか?」

「魔法の暴走なら魔力が切れるまで暴れさせれば止まるはずだ。だからそれまで持ちこたえれば」

「・・・たぶんそれは無理だと思うよ」



 ゼアンの作戦はティアはすぐに無理だと判断した。ティアは魔眼を発動させてリナの魔力を確認すると、今までに見た事がない魔力の渦がリナの体の中から際限なくあふれているのを確認していた。

 そう発言したティアを見たゼアンは一瞬驚いたのだが、すぐに持ち直す。



「・・・なるほど、ではどうする?」

「それは・・・」



 と、話ているとアンジェが消えて辺りに魔法をまき散らしながら暴走していたリナがティア達を視界に捕らえた。

 すると、リナは一瞬動きを止めたので二人は前に出てリナに話しかけた。



「リナちゃん、私だよ?わかる?」

「お姉ちゃん」

「う、ううう、ああああああああああああああああああああ」

「危ない!!」



 ティアとハイネが声をかけたのだがリナはティア達を認識できずに泣き声を上げて魔法を暴走させて氷の礫や吹雪が闘技場に吹き荒れてしまった。。

 二人にも氷の礫が襲い掛かるが、ゼアンがそれを弾き飛ばす。



「二人の声も届かないのか・・・」

「リナちゃん」






 三人はリナの魔法に凍らせられないように動き回りながら何とかリナの暴走を止めようと試みるが、上手くいかず魔法の被害が広がり始めていた。



「このままじゃ街にまで氷の魔法が広がってしまう」

「どうすればいいの?」

「一番被害が少なくする方法を取るなら、リナ君が動けなくなるくらいダメージを与える事かな」

「動けなくなるくらいってどれくらいなの?」

「多少の切り傷を与えるのは正直意味がないと思う。少なくとも手足を斬り落とすのは覚悟してもらう必要はある」

「それは駄目」



 ゼアンの言葉を聞いたハイネはすぐにそれを却下した。



「私もハイネちゃんに賛成。リナちゃんは好きでこうなったわけじゃないんだから傷つけるなんて許せないよ」

「それは僕も同意見なんだけど、でもこのままじゃあ・・・」




 と言った瞬間、闘技場の外から狼の遠吠えが聞こえてくると闘技場の外壁を登ってきた大型の狼が三人の前に現れた。



「ディザスターウルフ!?なんでこんなところに?」



 ゼアンは突然現れた狼に驚愕した。ディザスターウルフとは巨大な白狼で一匹でも街を破壊できるSランクの魔物なのだが、普通は滅多に人前に現れることがない魔物だった。

 ディザスターウルフは驚くゼアンを一瞥すると近くにいたティアを見つめて声を放った。



「ここにいたかシェスティア殿」

「この声はヴィトニルさん!?なんでここに!?あれ?でも姿が違うし?違う?」

「いや合っている。これは我の眷属の一匹で本体は今いつもの場所にいる。いやそんなことはどうでもいい、リナ殿の魔力を感じたと思ったらこれはいったいどうしたのだ?」



 ティアは手短にこの状態を説明するとヴィトニルはすぐに打開策を提示した。



「暴走か・・アルカ姉が危惧していた事が的中したのか」

「なにか暴走を止める方法はあるの?」

「ある。リナ殿はアルカ姉から魔力の暴走を抑える薬を渡されているはずだ、それを使えば暴走は止まるだろう。今どこにあるかわかるか?」

「たぶんリナちゃんアイテム袋の中、でもそれは無理だよ。アイテム袋の中身はリナちゃんしか取り出せないの」



 ティアが首を振ってその作戦は無理だと訴える。

 ヴィトニルもまさか手を出せない場所にしまっているとは思わず絶句しているとハイネが懐から青い丸薬を取り出した。



「もしかして薬ってこれ?」

「そ、それだ!なんでハイネリア殿がそれを?」

「万が一また魔王化しそうになったら飲めって渡されてた。でもなんの薬かは教えてもらってない」



 ハイネは淡々とそう答えた。



「アルカ姉まためんどくさがって説明しなかったのか。しかしそれがあれば暴走は止まる」

「「了解」」



 ヴィトニルと共に二人が構えると、その隣にゼアンも立った。



「いろいろ聞きたいことがあるんだけど、その薬を飲ませればリナ君は助かるんだね?」

「お主はリナ殿の友か?」

「いや、友って関係ではないんだけど彼女を救いたいとは思っている」

「そうか、ならその助太刀感謝する。話の通りリナ殿に薬を飲ませれば暴走は止まる。薬を飲ますのはハイネリア殿に任せる。我らはリナ殿の気を引いてハイネリア殿が懐に入れる隙を作る」

「わかった。僕もそれにしたがうよ」

「感謝する」



 乱雑に魔法を放つリナの意識を向ける為、ヴィトニルが遠吠えを上げるとリナの視線がヴィトニルを捕らえた。

 リナはヴィトニルを敵と認識し魔法をヴィトニルに集中させていく、ティアとゼアンは放たれる魔法を弾き返しヴィトニルの負担を軽くするように立ち回った。

 完全にリナの意識がヴィトニルに向かった事を確認したハイネは一気に勝負を仕掛けた。



「『朧分身』」



 ハイネは三人に分裂すると、本体は腕を組む分身の上に乗ると、まるで分身は本体をミサイルの様に一気にリナの元に放たれた。

 放たれたハイネはリナに接近する。しかしあと僅かという距離でリナの視線が接近するハイネを捉えてしまった。



「ハイネちゃん、危ない!!」



 ティアが慌てて声を上げるがハイネは冷静に行動していた。



「『霞衣・羅刹』」



 ハイネは赤い衣を纏うと、目の前に迫っていた魔法の前から突然姿を消すと、次の瞬間には消えた場所から数メートルほど先に移動していた。ハイネは手に持った薬をリナの口に含ませてそのまま口を塞いだ。



「はな、さない」



 リナはハイネを振り払おうと暴れたが、少しずつ動きが鈍りだし遂にはその場に崩れ落ちると、体を纏っていた氷のドレスが消え髪の色が元の色に戻っていった。

 リナの姿が戻たことを確認したハイネは激しい魔力の消費があった為、笑顔でその場に倒れこんだ。



「リナちゃん、ハイネちゃん!!」



 慌てて駆け寄ったティアだったが、二人の魔力は少なくなってはいたが安定していたので安心して二人のそばに座り込んだ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「んっ・・・ここは?」



 リナが目を覚ましたのは、上下に揺れる馬車の中だった。



「リナちゃん!!よかったよー!!」

「よかった」



 目を覚ました瞬間ティアとハイネに抱き着かれたリナは、何が起こっているのかわからずどうしていいのかわからないでいた。



「ど、どうしたんですかいったい!?と言うよりもここはどこですか?」

「リナちゃん覚えてないの?」

「えっと、確かボクは大会でラウラさん、と・・・」



 リナはそこまで思い出していっきに冷や汗が背中に流れた。



「そうだ、ラウラさん!ラウラさんはどうしたんですか?」

「落ち着いてリナちゃん、ちゃんと説明するから」



 真剣にそう言うティアを見たリナは徐々に落ち着きを取り戻してティアの話を聞くことになった。



「まず先にラウラちゃんなんだけどねゼアンさん、あっ協力してくれた人がね言ってたんだけど、アンジェに胸を刺された所を見るにもう駄目だって言ってた」

「そんな・・・」



 馬車の中にいた三人はラウラの死を再認識して深い悲しみに包まれていた。

 そんな中、ティアはリナが暴走してしまった事、大会が中止になった事、今はゼアン達と共にアレントに戻っている事を伝えた。


「暴走、ですか。それをこのアルカさんの薬で抑えてくれたんですね・・・ありがとうございます」

「うんん。それはいいんだけど・・」

「どうしたんですか?」



 ティアはリナの魔法が暴走して何人かの人を凍らせてしまった事を伝えるか迷っていた。リナが出した氷は全て魔氷になってしまっていて氷の中は完全に凍結状態になってしまっているとの事だった。

 魔氷を解凍するのには、しかるべき手段を取らないといけない事を伝えられていた。幸い魔氷の凍結は時間をも凍結させる為、凍らされた人達は解けさえすれば助かるという話だった。

 そしてその事実をリナに伝えるのは危険かもしれない事をゼアンから聞かされていた。それは万が一その話を聞いてまた魔法を暴走させてしまったり、魔氷の事を認識してさらにひどい状態になる事も懸念されていた。

 最終的に伝えるのかはティアに任されたのだが、その話を聞いてしまっていた為ティアは悩んでいたのだった。



「ティアさん?」

「あ、なんでもないよ?」



 ティアは結局今は伝えない事にした。伝えるのはリナが完全に回復した後にする事にした。



「そうですか。あと、気になっていたんですがその子犬は何なんですか?」



 リナはハイネの膝の上にちょこんと座る白い子犬に視線を向けた。



「この子は、ヴィレ。ディザスターウルフ」

「え?ディザスターウルフ?」

「ああ、説明すると長いんだけど」



 ティアはヴィトニルが駆けつけてくれた事、伝言を預かった事、ディザスターウルフから憑依を解く時にディザスターウルフの事を任された事。ヴィレの大きさは自在に変化出来て本来は大型だという事を伝えた。



「そうですか、わかりました。それで伝言って言うのは?」

「それが、アルカさんが忙しくなっちゃったらしくてこっちに戻ってこれないらしいの。それであの場所も放棄するらしいんだ」

「そう、ですか・・・」



 リナは見るからに落ち込んでしまったのだが、ティアはそのまま伝言を伝える。



「あとアルカさんは次に会う時はもっときつい修行になるから三人共もっと鍛えておきなさいってさ」

「そうですか。いえそうですね次に会う時はアルカさんを驚かせましょう」

「「うん!」」「わんっ!」

「そうと決まれば・・あれ?」



 リナは立ち上がろうとしたが、まだ体に力が入らずよろけてしまった。



「リナちゃん無理は駄目だよ。アレントに戻るまではもう少し休んでてね?」

「・・・はい」



 リナは素直に横になるとすぐに眠りに入っていった。その目じりには涙が薄く光っていたのだった。

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