波乱の個人戦
あけましておめでとうございます。
個人戦一回戦当日、リナは珍しく緊張の様子を見せずに控室で試合が始まるのを待っていた。
控室にはティアとハイネが応援に来ていた。本来控室には試合を行う選手以外の立ち入りは出来ないのだが、同じチームで大会に出場しているメンバーの入室は許可されていた。
「リナちゃん今日は落ち着いてるみたいだね。最初の試合って決まった時はすごく嫌がってたのに」
「確かに最初の試合は嫌なんですけど、今回はティアさんとハイネに練習にも付き合って頂きましたから恥ずかしい試合はできませんからね」
リナはぎこちない笑顔と共に両手で拳を握ってやる気を見せる。
ティアとハイネはそんなリナのやる気を見て今までにない戦いが見れそうな、そんな気がしていた。
「リナ選手試合が始まりますので、準備をお願いします」
しばらくすると、運営が迎えにやってきた。
「リナちゃんいよいよだね。ラウラちゃんは強いと思うけどリナちゃんなら負けないって信じて応援してるからね」
「お姉ちゃんなら大丈夫」
「はい。お二人ともありがとうございます」
リナは二人にお礼を言って、運営の人について試合に向かっていった。
『さあさあ、いよいよやってきました。個人戦第一回戦、注目の一回戦を行うのは今大会注目の二人だ!!身の丈よりも大きな武器を鮮やかに扱う華麗な剣士、ラウラ選手!!対するは今大会最も注目されている稀代の魔法使い、リナ選手!!剣と魔法より優れているのはどちらなのか?一回戦から見逃せない試合になりそうだ!!』
闘技場から聞こえてくる歓声と実況に今まで平常心を保っていたリナも流石に緊張で体が少し震えて来ていた。
「ティアさんはああ言っていましたけど、やっぱり緊張してきました・・・でも」
しかし今日のリナは、そんな緊張を抑え込んで闘技場へと自らの意思で進んでいった。
(何故でしょうか?今日の試合は逃げてはいけない。必ず戦わないといけない気がします)
リナが闘技場に入ると、歓声がより大きくなりリナは耳が潰れないように抑えながら前へと進んだ。リナの視界の前にはすでにラウラの姿があった。
「まさかこんなに早くリナと再戦出来るとは思わなかったな」
「はい。この間の試合は負けてしまいましたけど、今回は負けませんよ」
「そう来なくっちゃな。お互いいい試合にしよう」
「はい」
二人は挨拶を短く済ませると、お互い距離を取って試合開始の合図を待った。
「いよいよ始まるね。ハイネちゃんはどっちが勝つと思う?」
大会関係者用の観客席に座っていたティアは隣に座るハイネに帰ってくる答えはわかりつつもそう聞いていた。
「お姉ちゃん」
「そう、だよね」
もちろんティアはリナに勝ってほしいしと思っていた。しかし、ラウラと手合わせをしてその実力を理解していたティアはどうしてもリナが不利だという思いを捨てきれないでいた。
「シェスティアは心配しすぎ、お姉ちゃんが練習してた事が出来れば勝てるよ」
「それはそうだと思うんだけどさ」
「なかなか興味深い話だね。僕にも聞かせてくれないかな?」
そんな二人の会話に整った顔立ちの男性。七聖剣の一人ゼアンが声をかけてきた。
ティアは一瞬驚いた顔を見せたがすぐに立ち直りゼアンに聞き返した。
「貴方は確か七聖剣の・・どうしてこんなところに?」
「君のチームメンバーのリナ君に興味があってね」
「リナちゃんに?」
ティアとハイネが警戒の視線を向けるとゼアンは慌てて言い返した。
「へ、変な意味じゃないよ?一応僕もこの大会の運営側の人間だからね、有望な選手の情報を知りたかっただけだよ」
二人は怪しいとは思ったのだが、ラウラに七聖剣の話は聞いていたしリナの実力なら運営の人間に注目されるのは当然だろうと考えて多少の警戒は解いた。
「誤解は解けたみたいだね。隣いいかな?」
「どうぞ」
「ありがとう。それでさっき練習とか言ってたよね?リナ君は何をするつもりなんだい?」
「見ていればわかると思いますよ?すっごいのが見れるんだから」
ティアはそう返事をすると、試合開始が宣言された闘技場に視線を戻した。
試合が始まってリナはすぐに第一制限を解放してアイスバレットをラウラに放っていた。しかしラウラは魔法をうまく弾きながらリナとの距離を詰めていた。
(やっぱりこれくらいでは止まりませんか。ラウラさんは第二の解放を警戒していて一気に攻めてこない。・・・今しかありませんよね)
リナはレーヴァテインを構えると、魔法の詠唱に入った。
「やらせないよ!!」
ラウラが詠唱を止めようとリナへと向かうが、リナの放つ魔法に阻まれて詠唱を止める事が出来なかった。
「『氷精よ、汝の力を持って我に従え、命を奪う自然の理、我が魂を永劫に、大気よ大地よ大海よ、凍れ凍れ凍れ、永久の眠り永遠の力、久遠の世界よこの地に芽吹け、我が世界は不滅なり、フリージングワールド!!』」
魔法が発動すると、リナの足元から氷が発生していき遂には闘技場内全体が氷の世界になっていた。観客達がいる場所には結界が張られていた為凍ることはなかったが、それでも会場全体の温度は急激に下がっていた。
『なんだ?なんだ?なんだ!?これはいったいどういう事だ!?リナ選手の魔法でしょうか闘技場全体が氷で覆われてしまったぞ!!』
「ラウラさん、これがボクの全力です。この魔法で貴女を倒します」
リナはそう言って掌をラウラに構えると一言、言葉を発した。
「『ブリザードランス』」
リナの言葉と共に今までよりも強力な魔法がラウラに向かって飛んでいった。
「ま、まさか改変魔法なんて!!?」
リナの魔法を見ていたゼアンは驚きでその場に立ち上がってしまった。
ティアは聞きなれない言葉に疑問をぶつけた。
「改変魔法ってなんですか?」
「あ、ああ改変魔法って言うのはね。魔法使いが使う秘術でね。自らの魔法で辺り一面を自分の有利な土地に変化してしまう魔法の事なんだ。大昔にこの魔法で地図が変わってしまったという事から改変魔法と呼ばれているんだ。リナ君の魔法は見たところ中級の魔法の詠唱破棄と氷の魔法の威力の大幅な上昇ってところかな」
「へーそんなにすごい魔法だったんだ」
ティアは平然とそう言ってはいたのだが、隣で驚愕の表情で試合を見入っているゼアンを見て鼻が高くなっていたのだった。
「ふぅ、まさか改変魔法とはね。流石だよリナ!!でもね、この程度ぉ!!」
ラウラはリナの魔法を悉く粉砕しながら距離を詰めていく。
リナの魔法は普通の剣士なら防ぐことは出来ても前に進むことなど出来ないほど激しいものだった。しかしラウラはその剣捌きと膂力で少しづつではあるが前に進んでいた。
「これでも貴女を止める事は出来ないのですね。でもこの状態でこれを受けきれますか?」
リナはさらに上級魔法の詠唱に入った。
「『氷精よ、汝の力を持って我に従え、彼の者に自然の摂理を、我が身に汝の祝福を、』なっ!?」
しかし、ラウラはリナが詠唱に入って中級魔法が止まった瞬間に連射されているアイスバレットを防かずその身に受けながらもリナに高速で接近していく。
「くっ!!」
リナは斬りかかってくるラウラの攻撃を強硬度の氷を纏わせたレーヴァテインで防ぎつつ杖でラウラを薙ぎ払う。
「おっと、へぇリナは槍も使えるんだね」
「いいえ、これは杖術です。・・・ボクには才能がなく初歩的な事しか出来ませんが」
「いや、なんにしても面白くなりそうだ」
二人が向き合い、第二ラウンドが始まろうとしていたその時だった。
闘技場の出入り口からコツコツとヒールの音と共に妖艶であるが、何処か狂気を思わせる声が聞こえてきた。
「ラーウラちゃん、みぃつけたぁ~」
そこに現れたのは体中に返り血を浴び、持った剣からも血を滴り落とし不気味に笑う女。
狂乱の淑女アンジェの姿がそこにあった。
コメント、ブックマークありがとうございます。




