本戦2回戦 上級魔法
リナが第一制限魔法を発動させると、リナの背後に水色の大きな魔法陣が出現した。
「『セット、アイスバレット』」
リナがそう言って魔力を込めると魔法陣中から初級魔法のアイスバレットが相手に向かって連続で飛び出していった。
「な、なにあれ?魔法がずっと出てくるんだけど!?」
リナが発動させた魔法にジャスミンが驚くが、それは無理もなかった。
第一制限魔法は今のリナでは初級魔法という制限があるものの、氷魔法をリナの魔力が続く限り永遠に撃ち続けられる魔法なのであった。
そのマシンガンの如く飛び出してくる氷の礫にジャスミンとハシドイの二人は対応に追われギンセイのいる戦場に魔法を放てなくなっていたのであった。
『いったい何なんだこの魔法は!?リナ選手アイスバレットを休みなく詠唱も無しで連続で放つ!!こんな現象見た事ないぞぉ!!』
「ティアさん、ハイネ魔法使いの2人はボクが相手をしますので、剣士の方をお願いします」
リナの声が聞こえた二人は頷く。
「やっぱり流石リナちゃんだね。1人で2人の魔法使いの相手が出来るなんて」
「お姉ちゃんだから当たり前」
リナの声で気合の入った2人は先程よりも良い動きでリザードマンを倒していった。
「くそぉ、ハシドイ。上級魔法を使うからちょっとの間お願いできる?」
「正直何発かは通しちゃうと思うけど、詠唱の時間くらいは何とか稼いでみるよ」
リナが発動させた息つく暇もない攻撃にこのままでは負けてしまうと判断したジャスミンは上級魔法でこの状況を覆すつもりでいた。
「あれ?魔法使いの方が一人だけ?・・なにか大きな魔法を使うつもりでしょうか?」
相手の動きを見てリナは次の手段に取り掛かった。
「『火精よ、汝の力を持って我に従え、原始の炎よここに集え、天を焼き焦がし、大地を焦土とかせ、燃えよ爆ぜよ、この手に宿れ紅蓮の炎、我に逆らう者を、灰燼とかせ、クリムゾンフレア!!』」
「『氷精よ、汝の力を持って我に従え、凍結する自然の息吹よ、我が前に吹きすさべ、大気の氷よ氷刃となりて、切り裂け、蹂躙せよ、四肢を貫き、我が敵を退けよ、フリージングカタストロフィ!!』」
『何とお互いに上級魔法の詠唱だぁ!!いったいどんな対決になるのかぁ!?』
リナとジャスミンが発動させたのは氷の上級魔法と火の上級魔法、ジャスミンからは近くにいるだけでも焼き溶かされそうな大きな炎球が放たれ、リナはすべてを凍てつかせる突風と刃の如くするどくなっている氷が放たれた。
「うわっ!?なに?魔法!?」
ティアは自分たちが戦っている場所から少し離れた場所で、ありえない規模の魔法がぶつかり合っているのをみて身震いしていた。もしあそこに自分がいたら助かる自身はない、そう思ったからだ。
そう思ったのはティアだけでなく、ハイネやギンセイ、リザードマンやスケルトンウォリアーまでも稀に見ることが出来ない上級魔法戦に動きを止めてしまっていた。
「なっ!?」
これに驚いたのはジャスミンだった。
リナが上級魔法で対応してくるのは予想できたのだが、上級魔法を放った今現在でもさっき発動させたアイスバレットが止まらずに撃ち続けられていたからだった。
『なんとリナ選手上級魔法を放っているのにも関わらず今だにアイスバレットを放っている。これはいったいどういうことだぁ!?』
お互いの上級魔法はぶつかり合い戦場を氷と灼熱で覆い、戦っていたリザードマンとスケルトンウォリアーの大半を巻き込んでいく。
上級魔法同士がぶつかる中、リナのアイスバレットとハシドイの魔法もその中でぶつかり合っていたのだが、上級魔法の余波であらゆる方向に飛び交い荒れた戦場になってしまっていた。
そして上級魔法がぶつかりあった結果、巨大な炎球は地面をえぐりその熱で土をも焦がしていく。それをリナの魔法が瞬時に凍結させていき無数の刃が飛び交い炎球を切り刻んでいき次第に魔法は収束していった。
その結果、闘技場は戦争でもあったかのように無残なリザードマンとスケルトンウォリアーの焼け焦げ切り刻まれて凍らされた死骸の落ちる場所になっていた。
「・・・ちょっとやりすぎましたね」
リナは闘技場の状態を見て、もう少し威力の低い魔法でもよかったかと反省していた。
一方『ジャッジメント』側は、この魔法でリナの動きを止めるつもりで上級魔法を放ったジャスミンは方で大きく息をして魔力がかなり少なくなっていた。
ハシドイは今だ続く氷の礫に対応しきれずついに魔法の壁を張って防御に徹することしか出来なくなってしまっていた。
「ごめんハシドイ。あの子の魔法止めきれなかった」
「今はいいよ、それよりも早く魔力ポーションを呑んで魔力を回復させて、この壁も長くはもたない」
2人にはもうリナとの魔法使いとしての実力差は明らかにわかっていたのだが、まだ前衛で戦っているギンセイの為にも何より2対1での敗北は何より避けたかったのだった。
「この魔法ではあの壁を崩すのには時間がかかりそうですね」
一方リナは、はやくこの2人を倒してティア達の加勢に向かいたかったので、次の手に移っていた。
「『アイスバレット、リリース。セット、アイスランス』」
リナは氷の礫から氷の槍に魔法を切り替え、無数に飛んでいく槍で壁を崩しにかかった。
氷の槍は風圧でできた壁を少しずつ削っていく。
「ジャ、ジャスミン相手の魔法が変わったみたい。このままじゃもう、もたない」
ハシドイは難しい表情をするが、ジャスミンは今だ魔力切れから回復しきっていなかった。いくら魔力ポーションを呑んだとしても脱力感がすぐに消えるわけではなかった。
このままでは2人ともリナの魔法でやられると判断したハシドイは意を決してジャスミンに言う。
「このままじゃ共倒れだ。僕がこの壁を強化して外に出て、囮になる。ジャスミンはこの壁の後ろでもう一回上級魔法を使ってあの子を倒して」
「そ、それは駄目よ。そんなことしたらハシドイがやられるじゃない」
ジャスミンはハシドイの提案を拒否するが、ハシドイは今まで見せたことがない表情で言う。
「ジャスミン、これは試合であって、殺し合いじゃない。ここで僕が失格になってもジャスミンとギンセイが勝ってくれれば次に進めるんだ。魔法の威力ならジャスミンの方が僕の上だから、ここは僕に任せてよ」
いつもはボーっとしているハシドイの毅然とした言葉に、ジャスミンは頬を赤くしてコクリと首を縦に振った。
「ありがとう。じゃあいってくるね」
ハシドイは風の壁を強化すると、そのまま初級魔法を詠唱して壁の外に出ていった。
「あれ?一人出てきましたね・・」
壁を攻撃していたリナは突然壁の中から出てきた一人に向かってアイスランスを向けて射出していく。
ハシドイはうまく危険な槍だけ魔法で弾いて立ち回っているが、攻めてくる気配が一切なかった。
「これは・・・」
リナはハシドイの行動がおかしいと思い始めたのだが、それは少し遅かった。
氷の槍がハシドイにヒットし徐々にその体を凍らしていき風の壁も消えていったのだが、その後ろからさっき見た大きな炎球が姿を現したのだった。
「ハシドイを甘く見たわね!!これで終わりよ!!」
ジャスミンはハシドイの仇と言わんばかりにさっきよりも魔力を込めた炎球をリナに向かって放つ。
流石のリナもこのタイミングで上級魔法の詠唱は間に合わない。
ジャスミンは詠唱を行っていないリナの姿を見て勝利を確信した。
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