本戦1回戦 決着
黒蛇に捕まったタップは熱さに悶えながらも何とか拘束から逃れようとその場でもがくが、黒蛇はいつの間にか黒い縄に姿を変え、タップが動くたびにその身を絞めつけていった。
その様子を遠くから見ていたリナはハイネの使っている妖術に驚きを隠せないでいた。
「あの術は、魔法なら上級クラスの魔法になるのですが、ハイネはそれを詠唱も無しで使うなんて・・・」
リナはハイネのハイレベルな戦闘を見せられてその類まれな才能に保護者として、姉として誇りに思っていた。
「この調子ですと、ハイネの方は大丈夫ですね」
リナはハイネの援護は必要ないと判断し、ティアの戦闘に意識を戻した。
ティアはデッシと接近戦闘を行いながら時に飛んでくる魔法にも対応しながら応戦していた。
デッシとの実力の差はそれほど大きなものではなくチャンスさえあればティアの一撃なら勝てない相手ではなかったのだが、シーヴの魔法援護でそのチャンスを掴めないでいた。
「新人ながらその実力、まったく驚いたぞ!」
デッシは両剣を巧みに回しながらティアに襲いかかる。
ティアはグローブで刃を弾きながら攻撃をさばいていきデッシの攻撃を防いでいく。
「そっちこそ、鎧さんのおかげでうまく攻め込めないや」
「この大会は3人でのチーム戦、複数で戦う術も養っておくのだったな」
デッシは一切戦闘に参加しないリナを横目で見ながら、この新人チームは個々の実力は大したものだが、連携、チームワークに関しては全くの素人と考えていた。リナが戦闘に参加しないのはティアに流れ弾が当たるのを恐れている為、先程の実況の言葉も踏まえるとそれで間違いないと判断していた。
そう考えたデッシは、自分とシーヴでティアを下し、前衛の居なくなった魔法使いを叩く作戦を考えていた。
「シーヴ、一気に攻め立てるぞ!!」
デッシがそう叫ぶと、シーヴは首を縦に振る。すると、シーヴは持っていた大きな盾を自身の前に突き立てると装着していた鎧がボロボロと崩れ落ちていった。
『な、なんとシーヴ選手の鎧が崩れ落ちていく。これは一体どういうことだぁ!?』
シーヴの鎧が綺麗に消えていき、その中から杖を持った美少年が姿を現した。
美少年は大きな盾に身を隠しながら魔法の詠唱を開始した。
「『土精よ、我に力を与え石の礫を、ストーンボール!!』」
シーヴの発動させた魔法は先程よりも速く、岩弾も大きなものになっていた。
ティアは何とか魔法を躱すが、躱した先にはデッシが待ち構えていた。
「くっ!」
デッシの両剣を防ごうと構えるが、回避した動作から姿勢を戻しきれていない為、腕や足にいくつかの刀傷が入ってしまった。
「ほう、あの体勢でよくここまで躱すものだ」
デッシはこの攻撃で完全に終わらせるつもりでいたのだが、ティアが何とか凌いだ事に素直に関心していた。
ティアは防ぎきれた事よりも急に威力の上がった魔法に驚いていた。ティアが悔しそうに盾の後ろにいるシーヴに視線を送ると、デッシが両剣を再び構えながら言う。
「シーヴはいつも魔法で鎧を作って自分の身を護っているんだがな、それを維持するのはなかなか難しいんだそうだ。でもな、その鎧を脱げば・・」
デッシの言葉に意識を奪われていたティアの上空から無数の岩弾が降り注いでくる。
ティアは何とか岩弾を躱していくが、また先程の様に回避先にデッシが待ち構えていた。
「この様に、より精密に、より強力に魔法を使う事が出来るんだそうだ!!」
デッシの攻撃はティアの右腕を切り裂き、大量の血を流してしまっていた。
「これで君は終わりだな。このまま戦えば大量出血で強制的に戦闘不能と判断されるだろう」
デッシが言うように、審判は特殊な魔道具で戦っている者が毒や呪い、失血などで死なないようにギリギリのところで止めれるよう監視していた。
ティアの傷は、今すぐにという程ではないがそれでも浅い傷ではない為、このままでは続行不能になるのは時間の問題だった。
それでもティアは戦意を失わずに戦う構えをみせるが、その右腕は上がっていなかった。
『ここでシェスティア選手。大きな傷を受けてしまった。これはここで戦闘不能になるかぁー!?』
実況の声はティアの耳にも届きティアは悔し気な表情になるが、確かに状況は完全に不利な状態だった。
デッシは構えを取ったティアに対して情けは一切かけずに戦闘不能にするつもりで突撃していった。
「『氷精よ、汝の力を持って我に従え、彼の者に自然の摂理を、我が身に汝の祝福を、大気に満ちよ、凍てつく息吹、この地に降り注げ、凍土の結晶、命を奪い全てを凍結せん、フリージングガスト!!』」
しかしその瞬間、激しい突風がデッシ達を包み込み徐々にその身を凍結させていった。
ティアがはっとなって後ろを振り向くと、そこには杖を構えたリナの姿があった。
「なんだ、これ・・は?・・・から、だ・が・・・う・・・・・ご」
デッシはそう言い残しその場で完全に凍結してしまった。シーヴも魔法を放ってこない事から盾の後ろで凍っているに違いなかった。
『な、な、な、なんとぉ!デッシ選手、シーヴ選手共に凍り付いてしまったぁ!!』
「リナちゃんこれって・・・」
歩いてきたリナにティアが訊くとリナは申し訳なさそうに言う。
「す、すみません。ティアさんが危ないと思ったのでつい・・」
「ついって、こんな魔法見た事ないんだけど」
リナの使った魔法が原因でティアの前方からデッシ達が上がってきた階段部分まで完全に凍結してしまっていた。
「詠唱する時間がありましたから、確実に相手の動きを止めれるように上級魔法を使いました」
そんなことを簡単にリナは言うが上級魔法を使える魔法使いは、それだけでも魔法使いとして完成したと言われる程この世界ではすごい事なのだが、リナとしてはハイネが上級クラスの妖術を使ったのを見て思わず使ってしまった側面が強かった。
「そうだハイネちゃんは?」
ティアはハイネの事を思い出して視線を送ってみると、完全に気絶しているタップを起きないか棒で突いているハイネの姿があった。
「ははは、ハイネちゃんは勝ってたんだ・・・」
2対1とはいえこの戦いで苦戦したのは自分だけかと肩を落とすティアだったが、それでも一番頑張ったのはティアだとリナは励ましていた。
そうしていると、審判が魔道具でデッシ達を確認して声高々に宣言する。
「試合終了!!勝者『淡紅の氷姫』!!」
そう宣言した瞬間、観客達が大いに盛り上がった。
『決まったー!!勝利したのはまさかの新人チーム『淡紅の氷姫』!!今まで一切力を見せていなかったリナ選手の驚くべき魔法の実力に私も驚きを隠せません!!』
実況に自分の名前を言われて身を小さくするリナに審判が話しかけてくる。
「確認したいのですが、こちらの氷はどれくらい時間が経てば解けるのでしょうか?」
氷の中でデッシ達が生きていることは確認できていたので、どこかに二人を移さなければならないのだが、いつになったら解けるのかわからなかったので扱いに困った審判がリナに訊きに来たのだった。
「あっすみません。今解きます」
リナがそう言うと、すぐに周りの氷が解け始め、デッシ達の体もすぐに自由になった。
氷が解けて今の状況が分かったデッシはリナ達に歩み寄っていった。
「いい試合だった。まさか君があんなにすごい魔法使いだとは思わなかったよ」
「あ、は、はい。ありがとう、ございます」
リナがおどおどしながら返事をすると、次にデッシはティアに向かい言う。
「君も強かった。その腕はここの治療員に診せればすぐに治してもらえるだろう」
「うん。ありがとう」
デッシが握手を求めて来たのでティアは握手を返す。
「我々はここで終わりだが、勝ち上がった君には頑張ってもらいたな。・・まあまだ個人戦もある。次に当たった時もいい試合にしよう!」
「次は私も負けないからね」
「ああ」
デッシは気絶しているタップを担いで階段を下りて行った。
ティアはそれを見送ってリナ達に視線を戻すと、観客達に耐えきれなくなったリナは、ハイネを連れていつの間にか階段方向へ走っていた。
「あっリナちゃん待ってよー」
『熟練のチーム『荒野の煉獄』に勝った『淡紅の氷姫』の実力は本物だー!!早速次の試合が楽しみだ!しかし・・・』
熱い実況が続く中、リナ達は足早に場内から逃げるように消えていくのであった。
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