武闘大会 予選1回戦
武闘大会予選当日になった朝、リナ達はラウラ達と共に闘技場に向かっていた。
大会の主催者側からは予選で何をするかは聞いていなかったので、大会初心者のリナ達は皆いろいろな意味で内心ドキドキしながら向かっていた。
大会予選で落ちてしまうと、参加費だけ取られて景品は何も貰えないと言う事を数日前にラウラに聞いてから、せっかくここまでやって来たのだから、何か収穫が無いと帰れないとティアは意気込んでいた。
ハイネはリナと一緒のチームだから失敗はしたくないと秘かにやる気に満ち溢れていた。
しかし当のリナは未だにチーム名の事で観客の多い本戦に出なくてもいいのでは?と真剣に悩んでいた。さらに予選でも目立つのでは?と考えていた。それでも皆と共に予選に向かっていたのは、レイカに言われた事を忘れずにいたからであった。
「しかし、『淡紅の氷姫』ってボク以外氷の魔法を使わないんですから、嫌でもボクが目立つじゃないですか・・しかも淡紅って、確かにボクの髪は桃色ですけど安直過ぎませんか・・・絶対にわかって決めましたよねアルカさん・・」
リナは一人ブツブツと独り言を呟いていた。その独り言はこんなチーム名にしたアルカに対しての恨み言になっていて誰かに聞かれると不味いのだが、リナはそれに気付いていなかった。
「大会が始まったら私達もライバルだからね」
前を歩くラウラが振り返ってリナ達に言うと、
「あったり前じゃない。手加減とかなしだからね」
ティアが拳を前に出してそれに答えた。
ハイネもティアに同調して頷く。
「あれ?リナちゃんどうしたの?体調悪い?」
独り言を続けていたリナを心配してラウラが声をかけるとリナはようやく独り言をやめて我に返った。
「は、はい?なんでしょうか?」
「いや、リナちゃん全く反応しなかったから体調が悪いのかなぁと思ったんだけど・・大丈夫?」
ラウラは心配そうにリナの顔を覗き込む。
リナは慌てて手を振って大丈夫とアピールしていた。
そうこうしていると、闘技場に着いていた。闘技場の周りには思っていたよりは人の数が少なくてリナは一安心していた。
闘技場の入り口に行くと、リナ達が付けている腕輪を確認した職員がリナ達を中に誘導した。
闘技場の中にはすでに大勢の参加者が待ち構えていた。
やはり男女比で言うと男性の方が多かったがそれでも女性の数も少なくなくリナはそこにひと安心していた。
しばらく闘技場内の端で待っていると、主催者らしき人物が設置されていた壇上に上がった。
「大変お待たせ致しました。これより武闘大会の予選を行います。今回は地下闘技場を利用して他の参加者に手の内が見られないよう配慮した予選会となっていますので、初めから全力でのご参加をお願い致します」
今回の予選は地下闘技場での戦闘で、中で2勝したチームが本戦に出場するシステムだった。もちろん2回負けてしまうと予選敗退となってその場で退場となる。
予選中は戦う相手以外には審判が一人同行するだけで他の参加者には戦いを見られないようにと配慮されていた。
大会中は予選、本戦共に同じルールで、武器、魔法の使用可、相手を殺害するとその場で負けとなる。勝利には相手全員を気絶させるもしくは戦闘続行不能にする事が条件だった。
リナ達『淡紅の氷姫』は地下闘技場7番で予選1回が行われる事になった。
相手は『黒い牙』と言う男性三人で組まれているチームだった。
審判の人に促され両チーム会場の端に初期位置を取り戦闘開始の合図を待った。
「相手の人の武器を見る限り、前衛の剣士と槍使い。後衛に弓使いのチームみたいですね」
「うん。私達はどうする?」
ティアがそう訊く。
リナ達は、ティアが前衛を務めることが出来るが、基本的には弓での後衛、ハイネも妖術、死霊術での後衛がメイン。もちろんリナも魔法使いなので後衛を務めるバランスの悪いチーム構成だった。
リナがどうするか悩んでいると、ハイネが短剣を手に持って言う。
「私が行く。シェスティアとお姉ちゃんは見てて」
「え、でも・・」
ハイネの申し出をリナは止めようとするが、ティアがそれを制止した。
「リナちゃん待って。ハイネちゃん早速あれを使うの?」
「うん。でもあれくらいなら、絶影までは使わなくて良さそう」
「そっか、頑張ってね」
ティアとハイネはアルカの元で共に修業する事が多かったのでお互いの成長を良くわかっていた。
ハイネは相手を倒すのに自身があり、ティアもハイネなら多少の援護で戦えると判断した。
しかしリナはあまり二人と一緒に修行することがなかったので、心配していたのだが、ティアの説得で渋々ハイネの案に乗ることにした。
審判が両チームの準備が完了した事を確認すると、手を上げ開戦の宣言をする。
「それでは、予選一回戦・・始め!!」
審判の声と同時に相手の剣士と槍使いがリナ達に迫る。
まずはティアが弓で牽制しながらハイネが前に走る。リナは相手に隙が出来たら魔法を発動する手筈になっていたので、戦いの流れをじっと見ていた。
ハイネと剣士が接近すると、剣士の後ろから弓と槍が飛んでくる。相手は三人で一人ずつ潰す作戦の様で、まずは一番小さなハイネを狙って来ていた。
ハイネは軽やかな動きでその攻撃を躱すと、半歩後ろに下がり短剣を構えた。
「『鎌鼬・紫電』」
そう言った瞬間、体から魔力が噴き出てそれが雷の様にハイネを包み込んでいった。
「あ、あれは?」
リナはハイネに起きている事に驚いていたが、ティアがリナに説明する。
「あの状態になったらハイネちゃんに触れられると見えない刃で切り刻まれちゃうんだよ。妖術で雷の属性が付いているから斬られたらすっごく痺れるから大会では便利かもね」
「そ、そんな技を使えたんですか・・・」
「と言うか、ハイネちゃん・・アルカさんが言うには天才らしくってあれも技の中のほんの一つなんだ」
ティアは苦笑いしながらリナにそう言うが、このチームにいるメンバーは程度の違いがあれど全員が何かしらの才能にあふれた人材というのがアルカの言葉だった。
リナがティアの言葉に驚いている間に、ハイネの方は戦闘が続いていた。
雷の刃になったハイネは、まず剣士に切り込んでいく、剣士はハイネを持っている剣で止めようと振り下ろすが、その瞬間ハイネの体が揺れて消えてしまう。
「『朧分身』」
何人にも増えていくハイネに『黒い牙』の面々は対応しきれずにハイネ本体に触れられて一人また一人と体を痺れさせらえて倒れていった。
残った弓使いも前衛二人が倒された所で手を上げ降参を宣言した。
「試合終了!!勝者『淡紅の氷姫』!!」
審判の宣言が場内に響き渡ると、いつの間にかにリナの元に戻っていたハイネが自慢げに言った。
「お姉ちゃん、買って来た」
「はい。いつの間にかにすごく強くなりましたね」
「うん。頑張った」
リナはハイネの頭を撫でながらその成長を褒める。ハイネは嬉しそうに目を細めながらリナに抱き着いていた。
そんな二人に審判から次の試合場所を聞いてきたティアが拗ねながら抱き着く。
「ずるいー!!いつもいつも二人で仲良くしてー私も混ぜてよー!!」
こうして『淡紅の氷姫』は予選1回戦目をハイネの大活躍で勝利したのだった。
コメント、ブックマークありがとうございます。




