エクリスに向かって
リナ達三人はアルカに挨拶を済ませた翌日にギルドの面々にもしばらくアレントを離れることを伝えてから早速エクリスに向かう事にした。
エリクスまでの道中はまだ馬の扱いに慣れてない三人はおとなしくメギスト行きの馬車に乗ることにした。
運良く探し始めてすぐにメギストへ向かう馬車を見つけることが出来たのでその馬車に乗せてもらうことにした。
馬車は屋根付きの物だったが、リナ達の他に相乗りの客はいなかったので、ほぼ貸し切りの状態で旅をすることが出来るのでリナとしても旅の始まりにしては上々の気分だった。
「いいですか。武闘大会が始まるまでしばらくありますが、出来るだけ目立たないように行動しましょうね」
馬車の中でリナは二人に向かって真剣にそう言った。
「リナちゃんまたそれ?」
ティアはリナがいつもの様に出来るだけ人目を避けようとしているのが分かったので、呆れるようにそう言う。
「わかった」
ハイネは基本的にリナの言う事はしっかりと聞くのですぐに頷いてリナの隣に座ると膝枕をしてもらっていた。
「あ、いいなー」
それを見たティアがリナを羨ましがるが、リナは、
「ティアさん目立たないようにですよ!!」
と念押ししていた。
ティアもそんなリナの圧力に押されて頷き、二人を羨ましそうに見ながら馬車の旅を楽しんだ。
一日目の夜は今回の馬車料金の割引の為に交代で夜番をしながら過ごし、二日目の夕方頃に国境の町に着いたのでそこで宿を取ることになった。
「たぶんここだよね?」
「そうだと思いますけど・・・」
御者に薦められた宿に到着した三人だったが、その宿の豪華さに少し入りにくく感じていた。
しかしこの宿はリナ達のようなエリクスの武闘大会に向かっている旅人がよく利用している宿だと言っていたので、リナ達は意を決して宿に足を踏み入れた。
中に入ってみると、表の豪華さとは裏腹に普通の作りになっていてリナ達の緊張は解けていった。
リナ達は三人部屋を取ると、お腹も減ってきていたので先に宿に隣接されている料理屋で夕食を食べる事にした。
料理屋に入ると中にはいろんな人たちが食事を取っていたがその一人一人がなかなかの実力者だという事がリナ達は自然に感じることが出来た。
三人は不思議な感覚ではあったが、不快なものではなかったので、従業員に料理を注文して料理が届くのを待っていた。
すると、店内のカウンター付近から男の大声が鳴り響いた。
「この店はどうなってんだ!?料理の中に虫が入ってるぞ!!」
男はそう言って女性の店員に怒鳴っていた。
男の仲間の他の二人も同じように店員に文句をつけていた。
リナ達はこの店に対して不信感を覚えたが、周りの人間の反応からどうやら男達がいちゃもんをつけているようだった。
「どうやらあの人達が嘘をついているみたいですね」
リナは小声でそう話すと正義感に駆られたティアが立ち上がろうとしたのだが、慌ててリナはティアを止める。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なに?あの人達が悪いんでしょ?だったら」
「ですから昨日言ったでしょう?目立たないようにってそれに・・」
リナが言い終わる前に紫の長髪が特徴的な女性が立ち上がって男に対して意見し始めた。
「君たちそんなに怒鳴ってみっともないよ。第一この店は奇麗にしてあるし万が一虫が入っていたとしてどんな虫が入ってたって言うのかな?」
「なんだお前?俺達が嘘ついてるとでも言いたいのか!?ああ!?」
そんな女性を脅すように男は大声を上げるが女性は怯む事なく言葉を続ける。
「いや、今はそんなつもりはないよ?ただ本当に虫が入っていたなら私達もこの店に対して文句の一つでも言わないといけないからね」
女性がそう言うと、男は自分の味方かと気を良くしたのか料理に入っていたと言う虫を女性に投げ渡した。
すると女性はその虫を見て男に向かって言い放った。
「やっぱり、この虫はバラカ付近にしか生息していない虫だよ。そんな虫がこんな国境の料理屋にいるはずがない。やっぱり君たちが嘘をついていたんだね」
女性がはっきりそう言うと、その言葉にキレた男がカウンターに置いてあった料理を手当たり次第にその女性に向かって投げ始める。
「うるせぇ!てめぇの勘違いじゃねぇのか!?確かにこの料理に入ってたんだよ!!」
女性は飛んでくる皿や料理を躱しながら男達に言う。
「はぁ、君たちさ。迷惑なんだよね、私達はただご飯を食べに来ただけなんだ。そんな中で君たちみたいな底辺の人間の怒鳴り声なんて聞いてたら、おいしいご飯も不味くなってしまうよ」
女性はそう言いきって男達の怒りを完全にかってしまった。
リナはそう思いながら様子を見ていると、運の悪い事に男達が投げ飛ばした物が座っているテーブルに飛んできてしまった。
飛んできた物の内ティアに当たりそうな物はなかったがちょうどハイネの顔面に向かって皿が飛んできていた。
しかしハイネはテーブルから周りに見えないようにわざとナイフを落とすと、それを拾うかの様に自然に体を屈めて皿を躱した。
ハイネはリナの言い付けの通りに目立たないように自然を装って事を済ませたのだった。
そして目立たないようにと言っていた当の本人であるリナには危ないものは飛んで来なかったが料理その物が飛んで来ていた。
リナへと飛来してくる料理は自然に躱せるような状態ではなかったのでリナは甘んじて料理を躱さずにそのまま受けた。
(うわぁ・・ドレッシングでスカートがベタベタです・・)
リナは汚れてしまったスカートにどんよりしていると、男達と女性の状況が変わっていた。
男達が武器を取り女性に向かって構えていた。
「へっ。おとなしくしてたら痛い目に合わずに済んだのによ・・」
男がそう言うと女性はおかしそうに笑いだした。
「はははははっ。痛い目に合う?誰が合うっていうんだい?」
「てめぇに決まってるだろ!!」
男達は馬鹿にされたと思ってさらに怒気を高める。
しかしその男達に向かって女性は笑いながら言う。
「私が痛い目に?冗談でしょ?君たちここに座ってる客の中で誰よりも弱いってのにそんなこと言うなんて、私を笑い殺す気なの?」
そう言って女性がさらに笑うと男達がキレながらリナ達を指して言う。
「あそこに座ってるガキ共よりも俺達が弱いって言うのか!!?」
「・・・そうだよ?」
女性が当たり前でしょと言わんばかりにそう言い返すととうとう完全に切れた男の一人がリナ達に向かって小剣を投げ飛ばした。
これは流石に危ないと構えた三人だが小剣はリナ達に届く前に帽子を被った男性が片手で受け止めてしまった。
「ラウラ、あんまり挑発するな他の客に迷惑だ」
帽子の男性は紫髪の女性ラウラの仲間の様で、そう言って注意する。
「ごめん、クロック。ついでで悪いけど私の剣取ってくれる?」
「・・・ほらよっ!」
ラウラは一言謝ると、クロックが投げる剣を受け取って男達に構えた。
その剣は剣と言うよりは長剣と言った方がいいほど長くティアと同じくらいの背丈がありそうなラウラと同じくらいの長さがあった。
そんな剣をこんな室内で扱うのは危ないんじゃないのかとリナは思ったが、ラウラは挑発に乗った男達が斬りかかってくる攻撃をうまく剣でいなして最小の動きで男達をのしてしまった。
その光景を黙って見ていた周りの客たちもラウラの剣の腕前に驚きながらも面倒くさい連中を片づけてくれた事に感謝し大いに盛り上がった。
リナ達も目立つことなくその場が治まり安堵していたのだが、三人が座るテーブルにラウラが歩み寄ってきたのだった。
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