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魅惑の妖精リナちゃん登場 3

「納得いかない!!」



 ようやく立ち上がったコウキはそう叫んだ。

 どうやら何度も戦闘態勢に入ったのにも関わらず何も出来なかった事に鬱憤が溜まってしまったようだった。



「諦めなさい。今日はあんたの空回りが続いただけよ」

「でもよ・・」

「でもじゃない」



 コウキと女性がもめ始めたのでリナは痴話喧嘩を眺めるのも気が引けたのでその場を去ろうとすると、コウキに呼び止められた。



「ちょっと待ってくれ嬢ちゃん。やっぱり、少しだけ戦ってくれないか?もちろん礼はする」



 何やら戦闘狂のような事を言い出したコウキ。リナがやんわりと断ろうとするが、コウキは聞かずに何度もリナに勝負を申し出た。

 どうしたものかとリナは女性に視線を送るが女性は肩を落としながら。



「ごめんね。ちょっとだけ相手してあげてくれないかしら?あのままだといつまでも貴女に付きまとうわ」



 それは嫌だと思ったリナは、女性の言う通りにコウキの相手をすることにした。

 普段のリナだったら受けることは無いだろうが困っている女性の人助けになるのでは?と言う考えになっていたのだった。

 空き地の中心に移動した三人は女性を間にして構え合う。




「いい?相手を傷つける攻撃は駄目よ?それ以外なら魔法の使用も有りだから二人ともわかった?」



 リナ達は同時に頷くと女性が手を上げ叫んだ。



「始め!!」



 戦いの合図が入った瞬間丸腰のリナはまず剣を魔法で作る。



「『アイスブレード!!』」



 リナが氷の剣を作りだすと審判をしていた女性が驚きの声を出す。



「魔法の無詠唱!?それに氷剣なんて珍しい物を」



 それを見ていたコウキは嬉しそうに叫びながら駆ける。



「こいつはいい!氷剣なんて滅多に見れないぞ!!」



 瞬時にリナに斬りかかるコウキ。リナは剣を出したはいいが剣術は全くの素人なので剣で受けるのではなくさらに魔法をは発動させた。



「『アイスシールド!!』」

「また無詠唱魔法!?」



 女性はさらに驚き、剣で受けると思っていたコウキの虚を突くことが出来たリナは氷剣をコウキの喉元に当てようとするが、その前にコウキは一瞬で後方へ飛んで逃げる。



「驚いた!二つの無詠唱魔法を使えるとは・・」



 コウキはそう言いながら剣を鞘に納めるとリナの元に歩いて行く。



「ありがとう充分だ。いいものを見せて貰った」



 コウキがそう言って握手を求めてきたのでリナはそれに応じた。



(無事に終わってよかったです。さっきは隙を付けましたが、おそらくあれ以上戦っていたら確実に負けていましたね)



 リナはコウキの実力が今の自分を上回っている事に気づいていたのですぐに戦いが終わってよかったと思っていた。

 安心していたリナだったが握手をしていたコウキの手の力が強いものになりリナに言う。



「君なら合格だ。どうかな?俺の仲間に入らないか?」



 コウキはリナに顔を近づけながらそう言ってきたのでリナが断ると、コウキはさっきと同じように何度も誘いの言葉を続ける。さすがに仲間になることは出来ないので困っていると、コウキの頭を女性が叩いた。



「コウキ、しつこいわよ」

「でもよ」

「・・私がこの子にしっかりと話をするからあんたはタケト達の所に戻ってなさい」



 女性の怒気の入り混じった言葉にコウキは従うと、



「お嬢さん待ってるからね」



 と言葉を残して去って行った。

 残った女性とリナは少し離れた場所にあるカフェに入った。



「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はレイカよろしくね」

「よろしくお願いします。ボクはリナといいます」

「リナちゃんね。・・さてまず先に言っておくけど私は無理矢理貴女を仲間にするつもりはないから安心してね?」



 リナは仲間の件をどうしたものかと悩んでいたのでレイカの言葉には驚きだった。



「まあ仲間になってくれたら嬉しいのはホントなんだけどね。でも無理矢理は良くないから、お互いにとってね」

「でもそれでしたら、どうしてボクとここに?」



 無理矢理仲間に入れるつもりが無いならここに来る必要はない。リナはレイカの本心が読めずにそう訊くと、レイカは真剣な表情で答えた。



「私はリナちゃんの魔法の事について聞きたかったのよ。どうやって無詠唱魔法を習得したのか教えてほしくって」



 レイカは習得が難しいとされている無詠唱魔法をリナが何度も使用していたことに興味を持っていた。



「無詠唱魔法ですか。・・申し訳ないのですが、ボクの魔法の先生にそれの事に関しては何も言ってはいけないと言われているので教えることができないんですよ」

「やっぱりそうよね。魔法使いが自分の利点を他人に明かすはずないものね」



 リナがそう言うとレイカはそう言って素直に諦める。

 リナはそんなレイカに対して、どうしてそう思ったのかその時リナ自身にはわからなかったが、なんとなく出来るだけ協力した方がいいと思い、言える範囲でどんな修業をしていたのかを伝えることにした。



「本当にそんな修行だったの?ほとんど魔力制御の修業じゃない」

「はい。無詠唱魔法の修業はそれがほとんどです」



 さすがに修業の全部を言うわけにはいかなかったが、無詠唱魔法習得に必須とも言える魔力制御と言うヒントだけはレイカに伝えた。



「確かにある程度魔法が使えるようになってから制御の修業はほとんどしなくなったわね・・・」



 レイカはリナに貰ったヒントを元に新しい修行プランを考え始めていた。

 一通りのプランが決まった所でレイカがリナにお礼をしたいと言い始めた。

 始めは断っていたリナだったがレイカ達が他の大陸から来ている事を聞いてそのことについて聞くことにした。



「大陸の移動ねぇ・・・あまりお勧めはしないけど、まあ行きたいなら私の知ってる範囲で教えておくわね」

「ありがとうございます」

「まずはそうね、ここがどこにある大陸かは知っているの?」

「いえ、このあたりの地図はあるんですが他の場所の地図は無くて」



 リナがそう言うとレイカは懐から少し大きめの地図を取り出した。地図には東西南北と中央に一つずつ大きな大陸が描かれていた。レイカはその一つ西側の大陸を指して言う。



「ここが今私たちがいる西大陸ね、それで北の大陸が私たちの故郷がある大陸なの」



 リナはレイカの説明を聞きながら衝撃を覚えていた。

 地図に描かれている東の大陸がリナの知っているAFの全体マップと全く同じ形をしていたのだった。

 リナは思わず東側の大陸を指してレイカに問いかける。



「こっちの大陸に言ったことはありますか?」

「東大陸?いいえ私が言ったことあるのは北と西だけよ?」

「そうですか・・」



 リナはそう言って言葉を切るがこの街に来て初めて有力な情報を手に入れた事に興奮していた。

 そうとは知らないレイカはそのまま説明を続けた。



「大陸は東西南北、中央とあるんだけどお互いにその大陸の端からしか、西大陸からなら北大陸か南大陸にしか移動する事が出来ないの」

「ど、どうしてですか?」



 リナとしてはAFと同じ形の大陸である東大陸にすぐ移動したかったのだが出来ないというレイカ。



「私も詳しくはわからないけど各大陸を特殊な海流が囲んでて普通に出ることが出来ないらしいのよ。ただ各大陸の先端の海流は何故か渡れるようになってるんだって」

「そうなんですか・・・」



 リナが落胆しているがレイカはさらに重大なことを告げる。



「まあそれは海の話なんだけど一番大切なのは大陸の端に近い場所には強力な魔物がたくさん生息してるから、簡単にはその先に進むことは出来ないのよ」

「強力な魔物ですか?」

「ええ、リナちゃんは確か冒険者よね?」

「はい」

「冒険者で言うなら弱くてもBランククラスの魔物がいるからそれ以上の実力が無いと先に進むのは無謀ね」

「ち、ちなみにレイカさんはどれくらいのランクなんですか?」



 リナは大陸を渡ったレイカのランクを聞いて参考にしようと考えたのだがレイカが返した答えはリナの望むものではなかった。



「私は今は冒険者じゃないわよ?昔は冒険者をやってたけどすぐにコウキに誘われて勇者の仲間をやってるわ」



 リナはレイカの答えに首を傾げるとレイカは笑ってリナに言う。



「もしかしてリナちゃんって強さの基準を冒険者の中だけで考えてなかった?」

「え?」



 図星を突かれたリナは動揺してしまう。



「例えば私たち勇者のパーティは魔王の討伐を目標で活動しているわよね?もちろんそれには相応の実力が必要になる。でも冒険者みたいにランクをつけて活動しているわけじゃない。それは他の仕事をしている人もそう、リナちゃんは会ったこと無いかしら?例えば傭兵や騎士、軍人や私兵も戦う事に関してはスペシャリストよ?」



 リナはそう言われて思い出す。アンジェの事やイザベラの事を二人とも冒険者ではなかったが実力は高いものだった。それにアルカだって冒険者じゃない。リナは自分の物差しが偏った物だったことに気づいて恥ずかしくなってしまった。

 レイカは顔を赤くするリナの頭を撫でて言う。



「まあこれからはランクだけを見て図らないようにすればいいだけよ」

「はい・・」



 リナはレイカのアドバイスに頷く。

 そんな素直なリナにレイカはさらにアドバイスをすることにした。




「そうね、大陸を渡りたいならまずは強くなりなさい。私たちは勇者のコウキが一緒にいたから大陸の移動は問題なかったけど、他の人達は普通は大陸を渡ろうとはしないものだからね」

「ど、どれくらい強くなれば渡れるようになるのでしょうか?」



 レイカは少し悩むとはっきりとリナに言い放った。



「少なくとも冒険者ランクはA以上にはなりなさい。そのランクになれれば強さは本物よ。ただ昔私が冒険者だった頃は大陸に2、3人くらいしかいないって聞いた事があるけど、それくらい強くないと安心して渡ることは出来ないと思うわ」



(Aランク冒険者・・・でも確かにBランクまでなら依頼を受け続けてある程度の実力があると上がれるようになるランクです)



 リナはレイカの話を聞いてまた一つ目標が出来たのであった。

 Aランクの冒険者になればその注目度は計り知れないものになるのだが、今のリナはそんな余計な事を考えている余裕はなかった。



(目指す先は高いですけど、出来ないわけじゃない。アルカさんの所で修行を続ければいずれ・・・)



「考えがまとまったようね」



 リナ表情を見ていたレイカはそう言って立ち上がった。



「申し訳ないけど私はそろそろ予定があるから帰るけど、私達はしばらくこの街にいると思うから他に何か聞きたいことがあったらここに来なさい」

「はい、ありがとうございました」



 レイカは宿の場所が書かれている紙をリナに渡してカフェを出ていこうとする。が、



「あっもちろん私たちの仲間になってくれるならいつでも大歓迎だからね」



 と、最後に言い残して去って行った。








 その後、日も傾き始めていたのでリナは宿に戻ろうと歩いていたのだが、何やら人の視線が自分に向いていることに気が付く。



(そ、そうでした!まだアルカさんの魔法が解けていません)



 リナはレイカと話し込んでしまったので自分の姿の事を今まで忘れてしまっていた。

 流石にこのまま宿に戻るわけにはいかないと、路地に身を隠すがこの時間からこの格好で人助けをする自身がリナにはなかった。



「うう、どうすれば・・・」



 リナは日が落ちるほど悩みに悩んで意を決して表に出ると、その先には大人の人達がたくさん飲み歩いていた。

 リナが隠れていたのは夜は飲み屋が並ぶ地域で陰になっていたのはちょうど屋台の真横の路地だった。



 突然屋台の陰から妖精の格好をしたリナが登場した事に、酔っぱらった者たちは何かの催し物と勘違いして騒ぎ始める。

 店の店主も悪乗りをしてリナを祭り上げて行き交う人たちの視線を集めながら酒を売り始める。

 その整った容姿から大勢の人たちの視線を集めてしまっているリナは動揺して動けなかったのだが、顔が真っ赤になり心臓が張り裂けそうになるくらい激しく動いていた。

 パニックになったリナは声をかけられると笑顔で手を振ってと言う店主のいう事に従って同じ動作を繰り返していた。




 リナはしばらくの間意図せずその店の売り上げに貢献していたのだが、隙を見つけてどうにかその場から逃げ出すことに成功した。



「び、吃驚しました・・」



 リナは深呼吸をしながらそう呟く。



「どうしてボクがこんな目に・・・」



 リナが半泣きになりながらそう呟くと突然服が光を発し元の姿へと戻っていった。



「え?どうして?」



 人助けもしていないのに元に戻ったことに驚くリナの元にまたも紙がひらりと落ちてくる。

 リナはそれを掴んで内容を確認するとそこには、『実は時間がくれば元に戻るようにしていました!ちなみに人助けはどれだけしても元には戻らなかったわよ?残念でした!!』と書かれていた。



 リナの中にふつふつと怒りの感情が沸き上がり、



「アルカさんの馬鹿~!!」



 リナにしては珍しく遠くまで聞こえるくらいの声量でそう叫ぶのであった。




 その日の夜に現れた妖精の事を店の店主は桃色の魅惑妖精と名付けてしばらくの間、また現れるかもしれないと言って一儲けしたのであった。

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