魅惑の妖精リナちゃん登場 2
「妖精の姉ちゃんありがとー」
「いえ、いいんですよ」
リナが助けた少年は、笑顔でお礼を言って駆けて行った。
今日一日中リナはアレントの中を駆け回り困っている人を見つけてはその手助けをしていた。
買い物で困っているところを助けたり、壊れた玩具の剣を直してあげたり、失くした物を一緒に探してあげたりとリナは比較的喋りかけやすい子供を中心に手助けをしていた。そんな中で、昼間から酒を飲んで暴れていた男達を止めたりと大人の役にも立ってはいたのだが、リナは今だに妖精の姿のまま戻る事が無かった。
「沢山の人達の手助けをしたと思うのですが、中々元の服に戻りませんね・・」
いつになったら戻るのだろうと考えていた時、遠くから内容はわからないが聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あれ?この声誰のでしょうか?」
なんとなく気になったリナは声がする方へと歩いて行った。
近づくにつれてより鮮明に言葉の内容がわかってきた。
「違うぞ少年達よ!!もっと腰を入れて剣を振るんだ!そんなへっぴり腰では魔王は倒せないぞ!!」
なにやら青年が子供達に剣を教えているのだろうと、リナはほのぼのとした気持ちで声が聞こえる曲がり角までやって来た。
「いったいどなたの声なのでしょうか?」
リナはそう呟きながら角を曲がるとそこには、センテリスで会った青年が空き地の中で複数の少年たちに囲まれていた。
一瞬「はっ」っとなったリナは思わず角に戻って隠れてしまった。
(な、なんでこんな所にあの人が?と言うよりもどうしてボクは隠れてしまったのでしょうか?)
リナは自分の咄嗟の行動に驚いていると、青年がリナがいる方向へ叫んだ。
「そこにいるのは誰だ?」
ビクッっとなったリナはどうしようかと悩んでいると青年は言葉を続けた。
「さっきこっちを見ていたのには気が付いていた。何者かわからないが怪しい者なら捕縛させてもらう」
青年がそう言ってリナがいる方向へ走って来たのでリナは急いで飛び出して弁解した。
「あ、怪しい者ではありません。声が聞こえて来たので何をしているのか見に来ただけです!!」
そう言いながら出ていくと、青年はもうリナの目の前まで間合いを詰めていた。
斬られると一瞬思ったリナだったが、そんなことは無くいつの間にか足元に片膝をついていた。青年はリナの手を取ると爽やかな笑顔で言う。
「初めまして可憐な妖精さん。どうしてこんなところに迷い込んでしまったんだい?もしかしてボクに会いに来てくれたのかな?」
青年はそう言いながら両手でリナの手を握りしめ出したので、さすがのリナも引きつった表情になっていた。
そうしていると、青年と一緒にいた少年達がリナの事を見て言う。
「あっ、妖精のお姉ちゃんだ」
「ホントだ」
「さっきはありがとー」
よく見るとその少年達はリナが剣を直してあげたグループだった。
うれしそうに駆け寄ってくる少年達にリナが空いている手を振っていると、もう一方の手を青年が離してリナの顔を覗き込む。
「すると、君が男達を倒したというお嬢さんかな?思っていたのとは大分違っているがまあいいか」
青年はそう言うとリナに向けて剣を抜いて言う。
「すまないが可憐な妖精よ。俺と一戦してくれないだろうか?」
「え?」
突然の事だったのでリナが唖然としていると、青年はその真意を語り始める。
「まあ驚くのも無理はないね。実は俺は勇者でね。志同じく魔王を討伐する仲間を集めている所なんだ。実力を持っている者を仲間にしたいと思っていたんでね、力を見せてはくれないだろうか?」
「えっと、なんでボクなんでしょうか?」
青年の話を聞いたリナはまず何故自分が?と思いとにかく理由をつけて断ろうとその理由を模索し始めた。
「いやね、この子達に聞いて興味があったんだよ。屈強な男達を瞬時に取り押さえた女の子の事を、妖精さんと言っていたからよく分からなかったんだけど、なるほど確かに妖精さんだ」
「は、はぁ・・・」
リナとしてはもっと確信的な理由があって選ばれたと思っていたのだが、こんなにもふんわりとした理由だとは思わずどうすればいいのかわからなくなっていた。
困っているリナをよそに青年が剣を構えて「さぁ行くぞ!!」と勇ましく叫ぶ。
が、その瞬間前に青年の頭を女性が殴り飛ばした。
(あ、なんでしょうこの光景前にも見た気がします・・・)
リナは次々起きる展開に死んだ魚のような目になっていた。
「コウキ!あんたいつもいつも突っ走りすぎなのよ!」
「痛てーよ!」
「だから痛てーよじゃないわよ!いきなり戦いを挑むのはやめなさいっていつも言ってるのに・・とにかくまずはあの子に謝りなさい」
コウキと呼ばれる青年は頭を擦りながらリナの前に立つと頭を下げた。
「えっと、ごめんね?なんか俺暴走しちゃったみたいだわ」
「え、はぁ」
「ん?あれ?君どこかで会ったことあるか?」
落ち着いたコウキはリナの顔を見てようやく出会った事がある事に気が付いたのだがリナは、
「えっと、気のせいでは?」
と言って誤魔化してしまった。流石にこんな格好をしているのを知られるのは恥ずかしかったので、忘れているならそれで済まそうとリナは考えていたのだった。
リナは背中に汗をかきながら、苦笑いをしコウキは「あれ?気のせいか?」と首を傾げていたのだが、いつの間にかリナの隣に来ていた女性が小声で、
「ねぇ貴女センテリスにいた魔法使いの子よね?」
と笑顔で訊いてきたのであった。
リナは素直に頷く。
「前は普通の服だったわよね?どうしてそんな格好を?」
「それはその、事情がありまして・・」
リナが言いにくそうにそう返すと女性は「そう、大変ね」と返してコウキの元に歩いていった。
「ほらコウキこんな所で油を売ってないで行くわよ」
「ああ・・・」
女性がコウキを連れて行こうとした時、子供たちが騒ぎ始めた。
「あ、あの時の酔っぱらいだ!」
「ホントだ」
少年達の声に反応したリナとコウキ達は男達を見て瞬時に戦闘態勢に入った。
男達は武器を持ってリナの方へと歩いて来ていた。
幸い子供達には反応することが無かったので被害は出なかったのだがここで戦闘になるとどうなるかわからない。リナが少年達に声をかけようとするとそれよりも早くコウキが叫び駆け出していた。
「君たちここは危ないから早く家に帰りなさい!!」
コウキの真剣な声に驚いた少年達は素直に走って帰っていく。
それを確認したコウキは男達の前に立って言う。
「お前等ここに何しに来たんだ?」
その質問に男達は笑いながら言う。
「そりゃ、そこのお嬢ちゃんにさっきのお礼をしに来たんだよ」
「そうか、だが女性に暴力を振るうのを黙って見ているわけにはいかないな!」
コウキはそう言って武器を構える。
コウキからは、先程リナに構えていた時には見えていなかったオーラのような物が体に浮かびあがっていた。
戦闘準備の整ったコウキが「行くぞ!!」と叫び向かって行くと男達が慌てて叫ぶ。
「お、おい何勘違いしてんだ?俺たちはその子にこれを渡しに来ただけだぞ?」
「へ?」
コウキは情けない声を出しながらその場に転がり込んだ。
そのあと男達に事情を聴くと、酔って暴れていた店は世話になっている所だったようで、止めてくれたリナには感謝していたと、何かお礼をしたいと思っていた所、昔ダンジョンで見つけた銀製の剣を譲ろうと持ってきたのであった。
リナは男達に何度も礼を言われて銀製の剣も無理矢理持たされると、男達は満足して帰っていった。
その場に転んで起き上がる事が出来ないコウキをリナと女性は憐みの目で見る事しか出来なかった。
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