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シェスティアの受難

「ありがとうございました」



 冒険者ギルドの訓練場、そこで訓練を終えた少女が師に向かって頭を下げていた。

 少女の名はシェスティア・エルトレーム。美しい金髪の長髪を途中で編み込む髪型をしている少女だ。

 しかし少女を連想する言葉としては相応しくなく、その金髪よりも17歳と言う年齢とは思えないほどの豊満な胸が第一に連想される少女だった。

 ティアには人には言えない秘密がいくつかある。その一つがティアの種族の事だ。

 現在ティアは人族に見えてはいるが、実際はエルフである事だった。ネックレスの力で見た目を偽ってはいるが、それを外すと本当の種族に戻るのであった。

 もう一つがティアはエルフの里、エルトレームの長であるソフィア・エルトレームの孫娘であると言う事だった。

 この二つの事が他の人に知られてしまうと、エルトレームの里に危険が迫る可能性がある為、誰かに知られるわけにはいかなかった。

 この秘密を知っているのは一緒に行動している仲間である、リナとハイネリアだけであった。



 そんなティアには現在一つの困り事があった。それは・・・



「お待ちしておりました。シェスティアさん、今日こそは一緒にお食事でもいかがでしょうか?」



 そう言ってティアを待ち受けていたのは、小太りで裕福そうな恰好をした男性だった。

 ここ最近ティアの訓練の終了時間を見計らって冒険者ギルドに顔を出していた。

 もちろんティアには一緒に食事をする気などはないのだが、何度断ろうともあきらめずに現れているので困っていたのであった。



「ごめんなさい。遠慮しておきます」



 ティアはいつものようにそう答えると、その男性。ソウナンは懲りずにティアの行く道を遮る。



「よろしいではないですか、少し一緒に食事をするだけです。もちろん僕がお支払いしますので、・・・そうだ高級な店でもいかがですか?」

「いえ、今から約束がありますので行けません」



 ティアは拒否の言葉を続けるがそれでもソウナンは引かずに続ける。



「この前からずっとそう言って断られていますが、本当に約束でもあるのですか?恥ずかしくて言っているのでしたら気にする必要はありません。ちゃんと個室を用意いますので」

「い、いえ本当に約束があるので」



 ティアは若干引き気味にそう言って道を遮るソウナンの腕を強引に移動させてから隣を通り過ぎていった。

 ソウナンから舌打ちのような音が聞こえてくるが、ティアは無視して本当に約束のあったアマリアの元へと向かって行った。



「お待たせー」

「待ってないよー」



 ティアはカフェにやってくるとそこにはアマリアとリリーが待っていた。

 リリーはセンテリスに向かう前にある件で仲良くなった女性だった。

 ティアと同じ時期に冒険者になったリリーは始めはティアとは仲良くなかったのだが、ある趣味を通して仲良くなったのであった。



「では早速始めましょうか」



 アマリアの言葉を同時に三人はある魔道具を取り出した。 

 それはつい最近モルガンの商店で取り扱い始めたその場の風景を写り込ませる道具だった。

 そこそこ値の張る魔道具だったがティアは運よくモルガンから貰っていたので資金が苦しくなる事は無かった。

 同じ新人冒険者であるリリーには高いのではと不安視していたが、リリーは何の問題なく話題に上がった次の集まりの時には手にしていたのだった。



「それで・・誰から行く?」



 アマリアの言葉に二人が息を呑む。

 そして数秒経った頃にティアが手を挙げた。



「じ、じゃあ私から」



 そう言ってティアが魔道具を見せるとそこには、寝間着を乱しながら寝ているリナの姿が写し出されていた。



「「きゃああああああ」」



 その絵を見た二人は興奮のあまり声を上げる。

 周りの人達が何事かと視線を送るのに気が付いた三人はなんでもないとそろって手を振った。



「し、静かにバレたら大変なんだから」

「ごめんごめん」

「申し訳ありませんわ」



 二人が声を殺しながら謝ると、もう一度視線を絵に戻した。

 三人はハアハアと興奮気味で絵を見つめる中、アマリアがティアに言う。



「いいよなティアちゃんは、近くにこんな美少女がいて。最近一緒にいるハイネたんも可愛いし」

「そ、そうですわ。(わたくし)の近くにはこんな美少女はいませんもの」



 二人はそう不満を漏らしながらティアに詰め寄るが当のティアは嬉しそうに困る事しか出来なかった。



「ま、まあ私のはこんな物なんだけど次は誰の見る?」

「んー今回の私のはあまりいいものじゃないんだよね~」



 アマリアがそう言って魔道具を見せると、ローアングルで写る受付の仕事をしているメイルの姿だった。

 それを見たティアとリリーが顔を引きつらせながら言う。



「こ、これメイルにバレたらヤバいんじゃないの?」

「あ、あの事をお忘れになったのですか?」



 二人が戦慄しながらそう言うとアマリアは慌てて訂正する。



「ち、違うんだよ。ホントはラビちゃんを狙って魔道具を置いてたんだけど問題があってメイルさんに受付が変わったんだよ。だから偶然!偶然なんだって!!」

「ああうん。でもメイルにバレた時は私は関係ないですから」

「私も同じく」

「だから違うんだってばー」



 アマリアは涙目になりながら二人に縋りつくが、二人は無視を貫き通して話を続けた。



「次はリリーのね」

「ええ、今回のは自信作ですわ」



 そう言ってリリーが取り出したのはハイネと同い年くらいの少女のメイド服への着替え姿だった。



「「おおお」」



 ティアとアマリアが感動の声をもらすとリリーは自慢げに薄い胸を張る。



「・・・いつも思うんだけどリリーの絵ってどうやって写してるの?」

「あ、私もそれ思った。この魔道具すぐには映らないからしばらく置いとかないといけないよね?でもこれ完全に着替え途中だよ?」



 二人がそう訊くとリリーは少し焦りを見せながら「企業秘密ですわ」と答えを言わなかった。

 ティア達は「まあいっか」と今回持ち合わせた絵を見て悦に浸っていた。



「はあ、今回もよかったわ」

「そうね~」「ですわ~」



 盛り上がりも一息ついたところでアマリアが思い出したかの様にティアに言った。



「そういえば最近ずっとティアちゃんに付きまとっている男がいるわよね?」

「そうなのですか?」

「ああ、うんいるね~」



 ティアが嫌そうにアマリアの言葉を肯定する。



「ティアちゃんあれ絶対変な人だから一緒になったりしたら駄目だよ?」

「わかってるって」



 そんな話をしていると、カフェの外からティアにとって今は聞きたくない声が聞こえて来たのであった。

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