ハイネリアの冒険? 2
ミトに家の中に案内されたハイネは、よく分かっていないまま出されたお茶を飲んでいた。
その様子をミトはハイネを慈しむように見ていた。
ハイネがお茶を飲み終わった所で、ミトが話かける。
「まずは自己紹介をしないといけないわね。私はミトって言うの。貴女のお名前は?」
「私はハイネリア・フォ・・・」
と、言いかけた所でハイネはリナの言っていたことを思い出した。
「いいですか?ハイネの家は魔物によって滅ぼされました。世間的にはハイネは死んでしまっていることになっていますので家名は他の人には言わないように気を付けてくださいね」
それを思い出したハイネは自己紹介を仕切り直した。
「私はハイネリア。ハイネでいい」
「そうハイネちゃんね。あとで他の皆も紹介するけど、ここの事をまず教えておくわね」
ハイネはここの事?と首を傾げるがミトは気にせずに話を続けた。
「ここにはハイネちゃんと同じように、親がいなくなった子供たちが一緒に暮らしているの。男の子が3人女の子が2人の少ない人数だけど、皆仲良く暮らしているのよ。それで私はここでその子たちの面倒を見ているのよ。ハイネちゃんにも皆に紹介してからここのルールを説明するからそれはしっかりと守ってね」
ハイネはそこまで説明されて自分が勘違いで連れて来られたことに気が付いた。
そこでミトの勘違いを訂正しようとハイネは思った。
「ちがう、冒険者」
ハイネがそう言うと、ミトは笑って答えを返した。
「あら良く知ってるわね。ここも冒険者ギルドが支援してくれている場所の一つなのよ。私は職員ではないのだけど、定期的に職員の人が問題が起きていないか様子を見に来てくれているわね」
ミトはハイネの言葉を勘違いして他の説明を始める。
いくつかの説明を聞いていると、外から数名の子供たちが帰ってきた。
「ミトさーん。シバにぃが言ってた新入りってどんなのー?」
「男の子?女の子?」
「こ、こわくないひとがいいな・・」
各自思い思いの事を言いながら家の中に入ってきた。
子供たちはシバを含めて5人全員が帰って来ていた。
「お帰りなさい。お野菜は買えたかしら?」
「うん。おじさんが安く売ってくれたから沢山買えたよ」
子供たちは野菜の入った袋をミトに渡した。
用事の済んだ子供達はすぐにハイネを見つけると、一番背の小さな少年がハイネを見て言う。
「うわぁ。獣人さんだぁ。初めて見た」
その言葉を皮切りに子供たちがハイネの周りに集まってくる。
「うわっ、この子すごく可愛いわね。私と同い年くらいかしら?」
女の子の中で一番年上であろう子がそう言うと、
「そうね。私も可愛いけど、貴女も可愛いと思うわ」
少しきつめの性格をしている女の子がそう言う。
「こ、こわそうなひとじゃなくてよかった~」
「リックにぃはビビりすぎだよ」
と口々に言っていたところでシバが皆を止めに入った。
「ほらお前等、まずはさっさと自分の仕事をしろ。こいつの事はあとでミトさんが紹介してくれるってさ」
そう言うと他の子ども達は「はーい」と各自洗濯や掃除などの仕事を初めていた。
シバはハイネに一言「騒がしくてごめんな」と初めてあった時とは違って優しい声色でそう言うと自分の仕事に戻っていった。
ハイネは子供たちが離れていったので誤解を解こうとするとミトに「今からお昼ご飯を作るから手伝ってくれる?」と先に言われてしまったせいでタイミングを失って料理の手伝いをする羽目になってしまった。
「ハイネちゃんそれとってくれる」
「ん」
ハイネは料理の事は全く分からなかったので、ミトの言う通りに動く事しか出来なかった。
そして後は煮込み終わるのを待つだけになったので二人はテーブルに戻ってこれまでの話をする流れになっていた。
ここが誤解を解くチャンスだとハイネが思ってミトに打ち明けようとしたその時だった。
突然家の扉が蹴破られて複数の男たちが押し入ってきた。
「ほんとに女と子供しかいねぇな」
「ずっと見張ってたんだ間違いねぇって」
男達はそう言いながら家の中に次々と入ってきた。
突然の事で驚いていたがミトは子供達に家の奥に行くようにを指示を出してから、男達の前に立って言う。
「あなた達なんの用ですか?ここには盗むようなものは何もありませんので帰ってください」
ミトがそう言うと男達は笑ながらミトの腕を取った。
「おいおい、沢山あるじゃねぇか?売れるもんが」
「な、なにを言ってるのですか!?」
「それはここの子供とお前の事だよ!」
「・・・・っ・・」
男達はそう言うと椅子に座ったままのハイネを見つけた。
「おいおい、獣人まで居やがるじゃねぇか。こりゃいい稼ぎになりそうだぜ」
男がそういうとミトが男たちから逃れようと言う。
「今日はもうすぐ冒険者ギルドの方たちが来る日です。乱暴はしないで立ち去りなさい」
男達は一瞬キョトンとするが、すぐに大笑いしてミトを羽交い絞めにした。
「そりゃ昼を過ぎてからの話だろ?とっくにそんなこと知ってんだよ。おい、お前等中の子供共も連れてこい」
頭目の命令を聞いて男達が奥に行こうとすると、その前にハイネが立ちふさがった。
「なんだ?ガキ、お前から捕まりたいってか?」
「駄目!ハイネちゃん逃げて!!」
ミトがそう叫んだ時にハイネは別の事を考えていた。
こいつらは敵、敵には容赦しないと。
「『朧分身』」
ハイネの体が静かに揺れるとハイネが2人3人と増えていった。
「な、なんだこのガキは!?」
男達はハイネが増えていくのを見て慌てていく。
ハイネはその男達の動揺をついてさらに仕掛けていく。
「『不知火・紅羽』」
ハイネと分身達は妖炎を刀の形状に変形させると、男達を切り刻んでいく。
男達の切り口から炎が燃え上がり悶え苦しんでいった。
最後に残ったのはミトを羽交い絞めにしていた頭目だった。
ハイネは分身たちと頭目を取り囲むと刀を向ける。
すると頭目はミトの喉元にナイフを突き立てて言う。
「う、動くな動くとこいつを刺すぞ!!」
頭目がそう言うとハイネの声が頭目の腕の中から聞こえてきた。
「こいつって誰の事?」
ハイネがそう言うと頭目が掴んでいたはずのミトがいつの間にかハイネに変わっていた。
頭目がはっとした表情になると、捕まっていたはずのハイネがまるで霧の様に消えていった。
「なんだ?なんなんだお前は!?」
頭目の叫び声にハイネは一言。
「冒険者」
と、言って容赦なく頭目を切り刻んだ。
「うん。こいつらは手配書にある奴隷商の一味だね。ハイネたんお手柄だね」
昼過ぎにやって来た冒険者ギルドの職員の中にアマリアがいたのでハイネはロープでぐるぐる巻きにした男達を渡したのだった。
不思議なことに男達には切り傷や火傷のあとは全くなく気絶しているだけだったのだが、それはハイネが妖術をうまく使った結果だった。
捕まった男達はアレントで女子供を攫って奴隷として他国に売っていた悪人で、あとでハイネには討伐の報酬が支払われる事になったのだった。
「じゃあハイネたんこれをギルドに提出してくれたら賞金を渡すから忘れないでね」
「ん」
アマリアに引き渡しが終わったハイネはミトに呼びかけられた。
「その、ハイネちゃんごめんなさい。私勘違いしちゃってたみたいで」
「ん、問題ない」
「それと、ありがとう」
ミトにお礼を言われてハイネは照れ臭そうに頷く。するとミトの背後から子供たちが現れて口々にお礼の言葉を言う。
その中でシバが顔を赤くしながらハイネに言った。
「ミトさんを助けてくれてありがとう。その、戦ってたお前、かっこよかったぜ」
シバは頬を掻いてそう言うと、駆け足で家の奥に戻っていった。
「あらあら」
そんな様子をミトは微笑ましく見送ると、しゃがみ込んでからハイネに視線を合わせて言う。
「ハイネちゃん。今回の事本当にありがとう。それと、良かったらまたここに遊びに来てちょうだい。みんなも喜ぶから」
「わかった。また来る」
ハイネはそう言ってミトと別れた。
帰りは職員達と帰っていたのだがふとアマリアがハイネに言った。
「そう言えばハイネたん、あそこで何してたの?依頼はもう終わったのかな?だったら完了書預かるけど・・・」
「あ、忘れてた」
ハイネは依頼の事を思い出すと急いでアマリアと別れて、今度は道に迷わないように慎重に依頼を遂行するのであった。
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