見習い卒業
バイタルボアの肉を解体しながらトキはハイネの実力に愚痴をこぼし始めていた。
「あの強さは何なのにゃ。メイルとティアから戦えるとは聞いてたけど強すぎるにゃ。これじゃワタシが何のために一緒に来たのかわからないにゃ」
ハイネの実力ならこんな回りくどい依頼を受けずとも、ギルド職員との模擬戦でもすれば簡単にFランクになる事が出来たのだった。
しかし、そんな事は三人は知る由も無い事だった。
バイタルボアの解体を終えた四人は手分けをして素材を持つと次にクロッキーを探すことにした。
クロッキーはその色鮮やかな見た目で見つかりやすいのだが、警戒心が強く気配を断ちながら攻撃しなければすぐに逃げてしまう魔物だった。
「気配を断つってどうするの?」
ハイネがそう三人に訊くと、三人は三者とも別の意見を言った。
「まず常に相手の死角を取ります。その後攻撃範囲に入ったら一瞬で仕留めます」
と、AFの時代には有効だったシステムを利用した狩猟、現実となった世界ではあまり役に立たない方法を伝えるリナ。
「自分の気を自然の気を一体化させるの、そうすればある程度の魔物ならこっちに気が付くことはないよ」
と、これもまたエルフ独特の狩猟方法を言い出すティア。
「まずは落ち着いて相手を見るにゃ、それからなるべく音を立てずに相手に近づくのにゃ。この時に絶対に狩ることに意識を向けすぎにゃい事にゃ。ちょっとした気配でも野生の魔物は警戒するのにゃ」
と、トキは一般的なアドバイスをハイネに伝えた。
ハイネは三人の言葉に頷いたのを見て、三人はいいことを伝えられたと思っていた。
そんな事をしていると、トキが耳をピコピコと動かして三人に伝える。
「あっちから魔物の気配がするにゃ。上から来たからもしかしたらクロッキーかもしれにゃいにゃ」
そう言う時にティアが言う。
「トキさんすごいね。私全然気づかなかったよ」
「猫人族は気配に敏感だからにゃ。特にワタシは冒険者もしてるから鍛えてるのにゃ」
トキが言うには獣人にはその種族ごとに特徴的な力があると言った。
猫人族は気配に敏感、狐人族は妖術に長けると言った具合だった。
トキが指した方向に行ってみると、クロッキーが水溜りで水分補給をしている所だった。
「チャンスにゃ。クロッキーの水分補給は長いクチバシのおかげでものすごく時間がかかるのにゃ」
トキの説明にリナが付け加える。
「ですがその分、警戒が強まるとも聞きます。ボク達はここで見ていますので、ハイネ頑張ってください」
ハイネは頷くと、三人から離れて行った。
クロッキーまで30メートル程になった所で、ハイネは先程三人から聞いた気配ちを実践していた。
ハイナはまずクロッキーの死角に体を入れるとじりじりと近づいて行った。ティアの言う一体化と言うのは良くわからなかったので、とりあえず気持ちだけ一体化していると思う事にしていた。
じりじりと近づいて行き、攻撃は範囲まで近づいたところで、攻撃を仕掛けた。
「妖炎・・・」
ハイネは炎弾をクロッキーの頭部へと放つと、クロッキーはその攻撃に反応しきれずに頭を燃やし息絶えていった。
うまく討伐出来たところで他の三人がハイネに駆け寄る。
「うまくいきましたね」
「私のアドバイスのおかげだよね?」
「教えたと通りにうまく出来てたにゃ」
と、三人は自分のアドバイスが生きたと思って笑顔でそう言うが、ハイネは首を傾げつつも、とりあえずは頷いていた。
討伐したクロッキーの解体を終えると、目標であるもう一匹を探し始め、それはすぐに見つけることが出来た。
「もう一匹発見したにゃ。ハイネさっきみたいに慎重に行くのにゃ」
トキがそう言ってハイネを送り出すが、ハイネは振り返って言う。
「この方法じゃ、駄目?」
と言ってハイネは死霊術『レイス』を使用して自信の生霊を出現させると霊体だけがクロッキーに近寄り、妖術で燃やしてしまった。
その光景を唖然として見ていた三人は口々に言う。
「ハ、ハイネ今のはなんですか!?」
「い、今ハイネちゃんの幽霊が」
「でもハイネはここにいるにゃ。どうなっているのにゃ!?」
混乱している三人にこの死霊術の事、さっきのアドバイスは良くわからなかった事を伝えると、三人は乾いた笑いを出す事しか出来なかった。
のちにリナがハイネの死霊術の事をアルカに訊くと、
「ああ、レイスって魔物は人の悪意が濃い魔力に集まって出来た生霊の魔物なんだけど、ハイネリアのは、自分の生霊を出現させて動かす術ね。まあ霊体が攻撃を受けるとハイネリア自身に大きなダメージがあるから偵察くらいにしか使えない術だけどね」
と、カラカラと笑いながら、才能があったから教えたと、ソファーにゴロゴロしながら答えていたのだった。
こうしてハイネの高い能力をトキに示すことが出来た今回の依頼は無事に達成されたのであった。
冒険者ギルドに戻った四人はメイルに依頼完了の報告をして晴れてハイネはFランクの冒険者として認められたのであった。
ハイネの見習いからの昇格は歴代で一番短い期間での更新だと言う事だった。
「これで武闘大会に出れるね?」
「それはまた今度決めましょう」
いきなり武闘大会の話題を出すティアにリナは今日はハイネの昇格を喜びましょうと言う。
ティアは少し頬を膨らますが、ハイネの昇格はおめでたいことなので一緒に喜ぶことに気持ちを切り替えた。
その日の夕飯はトキからのサービスで三人とも無料で豪華な食事を用意された。
同じようにメイルやアマリアなどリナ達と仲が良いギルド関係者も呼ばれていたのだがヴェストレームだけは来れなかったようだった。
挨拶もそこそこにトキが高々と宣言する。
「今日はハイネの昇格祝いにゃ。皆遠慮せずに食べるにゃ」
トキはそう言ってエールの入ったグラスを突き上げた。
みんなも一緒に手に持ったグラスを上げるが、リナ達三人は果実のジュースを飲んでいた。
この騒ぎの中、トキがメイルに絡んでいったり、アマリアがハイネにすり寄ったりといろいろな事が起きたが、楽しく騒げる宴会になっていた。
その中でみんな口々にハイネは将来有望だと言って褒めたたえていたのだが、ハイネは黙々と食事を食べながらも頬を赤らめているので珍しく照れているのだと、リナとティアはそんなハイネを優しく見守っていた。
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