動揺
「遅かったじゃないかい」
リナがマチの部屋に着くと、そこには扉の前で腕を組んでいるマチの姿があった。
「すみません。遅くなりました」
「いいよいいよ。どうせサムあたりが邪魔したんだろう?」
「いえ、そんなことは」
マチは「入りな」とリナを自室へと招き入れた。
マチの部屋はサムとの二人部屋でリナの借りている部屋と違って居間と二つの寝室がある部屋だった。
「適当に座りな」
「はい。失礼します」
居間に通されたリナはマチに促されるがまま椅子に座った。
マチも同じように椅子に座ると神妙な面持ちで言葉を発した。
「早速だけどいつもの頼むよ・・」
マチは悪い表情になりながら机の上に大きな木桶をとりだした。
「またですか。あれが最後だって言ったじゃないですか」
リナがあきれた様子でそういうとマチはさっきまでの態度が急変してリナに縋りついた。
「頼むよリナちゃん。リナちゃんが教えてくれたおかげで繁盛してるんだけど急に出せなくなっちまうと、うちの評判にひびいちまうよ。
「そう言われましても・・」
「頼むよ。リナちゃんの宿代3割引き、いや半額でいいからさ」
マチのしぶとい交渉にすっかり折れてしまったリナはマチの要求をのむことにした。
「わかりました。この桶いっぱいでいいんですね?」
「え?いや出来るならもう2、3個お願い出来るかな?」
「わかりました」
マチが奥から桶を持ってきたのを確認するとリナは呪文の詠唱を始めた。
「『氷精よ、我に力を与えよ。アイスキューブ!!』」
リナが詠唱を終えると桶いっぱいに大きな氷の塊が姿を現した。
「助かるよ。これでカキゴーリを明日も出せるよ」
数日前宿の経営に困っていたマチを見ていたリナはふとした思い付きでかき氷の存在をマチに伝えたのだった。
昼間はまだまだ暑い時期だったのでかき氷は爆発的に売れたのだったが、一つだけ問題が発生していた。
それは氷を出せるのがリナ以外に居なかったのだった。
「だから早く魔法を覚えてくださいって前から言ってるじゃないですか」
「そんなこと言ったって魔法使いとしての適性がないんだから仕方ないじゃないか」
「だったら魔法を使える人を雇うとかあるんじゃ」
「氷の魔法を使える奴なんてそんな簡単には見つからないよ。それにリナちゃんがいるんだからいいじゃないか。そうだ冒険者なんかやめてずっとうちで働かないかい?」
「そうだって、お誘いは有り難いですけどボクは冒険者をやめるつもりはないっていつも言ってるじゃないですか」
「ははは、言ってみただけだよ」
「そう言って何回目ですか」
マチは冗談のように言ってはいたが本心では本気だった。
(サムのやつも気に入ってるみたいだし何とかならないもんかねぇ)
用事が済んだと判断したリナが部屋から出ようとしたところで思い出したようにマチに呼び止められた。
「そういや今日の昼頃にどこかの騎士様が人探しに尋ねてきたよ」
「え?」
ゾッと嫌な予感がしたリナは勢いよく揺りかえった。
「どうしたんだいそんなにあわてて」
「い、いえ。それでその騎士さまって?」
「いや誰かを探してるってのを聞いただけで詳しい話は聞かなかったんだよ。まさかうちの客の事をしゃべるわけにもいかないからね」
「そ、そうですか」
「あんたも町で騎士様にあったら失礼のないようにしなよ」
「は、はい。ありがとうございます」
リナはそう言い自室へと帰っていった。
(あの様子じゃ、やっぱりあの娘なにか隠してるね)
マチはリナの様子から何か隠し事があるんじゃないかと疑っていた。
「まったく何か困ってることがあるのなら相談してくれればいいものを・・」
マチはリナの事を自分の娘のように思っていたので多少の隠し事など気にもせず、それどころかそのことを相談してほしいと思っていた。
(もしかしてもう追いかけて来たのでしょうか。こうしてはいられません)
リナは部屋に戻ると万が一に備えてすぐにここから旅立てるように準備をしてその日は夜遅くまで時間を費やした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい、そこのお前桃色の髪をした13、4歳の少女をこの辺りで見たことはないか?」
「いえ見たことないですねぇ」
「本当か?」
「本当ですよ、ところでその娘に何かあるので?」
「貴様には関係ない知らぬのならさっさと行け」
横暴な態度な騎士は話を聞いていた冒険者を追い払った。
「この町にいるのは確かな情報なんだ、手分けして探すぞっ」
「「「「はっ」」」」
(ったくなんて騎士様だ。・・・しかしあいつらが探してるのってまさかリナちゃんの事じゃないよな?ま、念の為だ皆にもこのことを伝えておくか)
リナが知らなうちに冒険者のみんなや町にの住民たちは騎士の態度もあってかリナの存在を隠すようにと一致団結をしていた。