心配事
宿の食堂で昼食を食べた後、リナはティアとハイネを連れて森の崖まで来ていた。
ハイネは初めて見る絶景に「おぉ」と感動の言葉を漏らしていたが、ティアは少し違っていた。
「ねえ、リナちゃん。私たちって今日はリナちゃんのお師匠様の所に行くんだよね?」
ティアは昨日聞いていた内容とは関係ないと思っていたこんな場所に連れてこられて困惑していた。
リナはティアの質問に「そうですよ?」と、答えると崖の下に向けて指を指した。
「ボクはいつもこの下に行ってるんですよ」
リナがそう言った途端ティアはリナの両腕を掴んだ。
「リ、リナちゃん!前に私が言ったこと覚えてなかったの?この下にいる魔物って魔力の大きい魔物ばっかりなんだよ?遠くて詳しくは分からないけどセンテリスに出た魔物よりも大きな魔力を持っているのもいるかもしれないんだよ?」
「は、はい。覚えていますよ」
「じゃあ何でここを降りたの!?」
ティアはリナを心配するあまり少し怒り気味でリナに詰め寄った。
「だ、大丈夫ですよ。下に降りるって言ってもこの真下にある洞窟の中に入るだけですから」
「それでも危ないよ!!」
リナは怒るティアを何とか宥めてると、いつものように氷魔法で階段を作った。
「この階段を下りていきます。氷でできてるので滑るかもしれませんから気を付けてください」
そう言ってハイネと手をつなぎながら崖の下に降りて洞窟の中に入っていった。
照明石を使いながら奥に入って行くと、ティアがリナに質問した。
「こんなところに住んでるの?」
「はい。もうすぐ扉が見えてきますのでそこの中にいつもいますよ」
リナがそう言うと、ハイネも珍しくリナに意見した。
「私、暗いの苦手」
「大丈夫ですよ。扉の中はとても明るくなりましたから」
「なら大丈夫」
そんな会話をしながら歩いているとようやくダンジョンの扉までやってきた。
「この中です。さっそく行きましょうか」
そう言ってリナが扉を開けると、その先でアルカが三人を待ち構えていた。
リナの後ろについて恐る恐る二人が部屋の中に入るとアルカが口を開いた。
「やあやあ、よく来たね。私の事はアルカとでも呼んでくれていい。君たちはシェスティアとハイネリアだね?」
アルカはいつもと違ってより威厳があるような感じで二人に話しかけていた。
リナがどうしたのかと思っているとティアとハイネが挨拶を返していた。
「初めまして、私はシェスティアです」
ティアはぺこりと頭を下げて
「お初にお目にかかります。私はハイネリア・フォン・リファントと申します」
ハイネは貴族らしく丁寧に挨拶を返していた。いつもの癖なのかスカートの端を摘まみ上げようとしたのだが、今ハイネが来ているのはリナと似たようなミニスカートであったので実際に摘まみ上げることは無かった。
リナはハイネのその姿に感心していたのだが、すぐに我に返ってアルカに近づいて耳打ちした。
「アルカさん、その格好はなんですか?」
アルカはリナも見たことないような派手なドレスに身を包んで三人を迎えいれていたのであった。
「ん?何かおかしいかな?客人を迎え入れるのだからこれくらい普通だと思ったのだが・・・」
「いや、おかしくはないのですが、普段とのギャップに驚いただけだったので」
「そうか・・」
リナがそう言うと、アルカは一瞬にしていつもの服装に戻った。
「リナがこっちが良いって言うならこのままでいいか」
「はい、ボクとしてもこっちの方が見慣れているので安心できます」
リナはドレス姿のアルカを見て、別の世界のような人に見えて少し寂しい思いを抱いていたのだった。
アルカは自分の姿に納得すると、ティアとハイネをいつものテーブルに案内した。
「君たちにはいろいろ聞きたい事があるんだ遠慮せずに座り給え」
三人は並んでテーブルに着くと先日の件についての話を始めた。
「なるほどね。ねえハイネリア、その男に何か特徴はなかったの?傷があったとか、刻印があったとか」
「顔は覚えてるけど、特徴みたいなものは特になかった」
「そう・・人工魔王化について他に覚えてる事は?」
「・・・お母さんが連れていかれた事しか覚えてない」
ハイネは怒気を少し漏らしながらそう返事をした。
「貴女のお母さんって狐人族?」
「うん、私はそのハーフ」
「なるほどね・・・ハイネリアちょっとこっちに来てみなさい」
アルカに呼ばれたハイネは困惑気味にリナに視線を送った。リナは安心して大丈夫と言う意味を込めてうなずくと、ハイネはそれを察してアルカの元へ向かった。
「ちょっとごめんね」
アルカはハイネの頭から体、腕、足と細かく見ていくと、神妙な表情で一言口にだした。
「ハイネリア、貴女魔王化しなかった?」
その言葉にリナとティアの二人は驚きの声を発し、当の本人は、
「覚えてない」
と、一言返すだけだった。
リナはハイネが魔王化した事が信じられずにアルカに詰め寄った。
「アルカさん、センテリスにいた魔王は、ハイネの居た屋敷とは全く別の教会にいたはずですので、ハイネが魔王って言うのは・・」
リナがそう言うと、アルカはリナを落ち着かせるように言う。
「リナ、大丈夫だから、ハイネリアは一回魔王化してると思うけど、体の中にその因子はもう見当たらないから、ほらリナ言ってたじゃない。この子が暴走した時は、その教会の魔王よりも魔力が大きかったって」
「そ、そうですけど・・」
「おそらくだけど、その魔王って言うのもハイネリアが召喚していた魔物のひとつじゃないかしら?この子、妖術もすごいけど死霊術はかなりの才能があるはずよ?狐人族はその二つの能力が高い方だけどこの子は群を抜いてるわ。教会の魔王はその力が魔王化の影響で暴走して出てきてしまったのね」
「た、たしかにハイネちゃんの暴走が止まったらセンテリスの中の魔力が消えてた」
ティアはあの日の出来事を思い出してアルカの推理に感心していた。
「・・この子の暴走、道具か魔法か何か使われていたと思うんだけど心当たりはないかしら?」
「そう言えば、ハイネにかかっていた首の拘束具がボクが触ると砕けてなくなってしまいましたね」
リナがそう言うとアルカは指を鳴らした。
「たぶんそれよ、他人が触れると崩れるように細工か・・・たぶん実験だったんでしょうね?ハイネリアの母親にも同じものが付けられていたのではないかしら?」
アルカがそう言うと、ハイネが静かにうなずいた。
「なら、おそらくその男ってのは、ハイネリアの母親を使って実験をしようとしたけど暴走して町に魔物が現れた。そしてハイネリアでも実験をする為に付けていた道具でハイネリアも暴走。それで逃走したんでしょうね。人口の魔王化なんて知られたらまず大問題になるものだから」
アルカはそう結論付けると三人にこの事は他では話さないようにと注意した。こんな情報を持っていると知られたらその男や人工魔王化を行っている者たちに襲われる危険性があると考えての事だった。
一通り魔王化の話が済んだ後に、アルカが二人に提案した。
「ねぇ?二人ともリナと一緒にここで修行したら?」
「え?いいんですか?」
ティアは考えていたことをアルカが提案してくれたので嬉しそうにそう言った。
ハイネは修業と言う言葉に首を傾げていたのだが、そんなハイネを見てアルカが言った。
「さっきも言ったけど貴女は、妖術、死霊術の才能があるわ、今後もリナと一緒にいるつもりなら戦える力をつけた方がいいと思うわよ?」
「わかった。お姉ちゃんと一緒にいたいから頑張る」
ハイネはリナの名前を出された事で、やる気になり早速アルカに師事を受ける事になった。
「ほら、貴女も」
呼ばれたティアも素直に近づいて行った。
「あ、あのアルカさん。私は魔法はあんまり・・・」
ティアが不安そうにそう言うと、
「あら?貴女、木精魔法使えるんじゃないの?」
アルカは一言も言っていなかった木々の精霊達に力を借りる魔法の事を言い当てた。
ティアが動揺しながら聞き返すとアルカは首を傾げながら言う。
「だって貴女、エルフでしょ?確かエルフは皆使えたはずだけど」
「え?どうして私がエルフって知ってるんですか?あ、リナちゃんから聞いて?」
「いいえ?リナには聞いてないわよ?ああ、私はそんな魔道具は見透かせちゃうから驚かせちゃったのね。ごめんなさいね」
ティアはアルカが簡単にそう言ったことで、リナがこの人に師事を受けている事に納得がいった。確かに自分たちとは立っている次元が違うティアはそう感じていた。
アルカはまずハイネから指示をだした。
「ハイネリアは今の所、リナよりも魔力量は多いわね。まずはそれを暴走させないように使えるようにしないといけないわね?妖炎は出せる?」
「出来る」
ハイネはそう言うと、火の玉を出現させた。
「よし、だったら一気に扱える量を増やしなさい。目標は十個、でもいきなりは駄目よ?ゆっくり一個づつ増やしていきなさい」
「分かった」
ハイネは素直に修業を開始した。
「次はシェスティアね。貴女は木精の魔法ね」
アルカがそう言うと、ティアは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。私達エルフは、木々の魔法は周りに気がないと使えないんです」
ティアがそう言うと、アルカは、
「そんなことないわよ?ほら」
と、指を鳴らして地中から木の根を出現させた。
「私はこれくらいしか出来ないけど、木精の魔法は扱いを極めるとどこにだって巨木を生やす事だってできるはずよ?」
「す、すごい。私に出来るかな?」
「私には、きっかけを与える事しか出来ないから、そこから成長するのは貴女の努力次第ね」
「はい!!」
ティアは嬉しそうにそう返事をして、アルカの指示にしたがって修業を開始した。
リナはハイネについて自分の修業をしながらハイネの面倒を見ていた。
アルカはリナがそっちに集中しているのを確認するとティアに話しかけた。
「ねえシェスティア、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
「はい。なんですか?」
ティアは修業をやめてアルカに向き直す。
「貴女とあってから今までの間にあの子、リナは泣いたりしてなかった?自分より強い人に会ったり、どうにもならない状況とかで」
「んー強い人にも会いましたけど、泣いてるところはあまり見たことは無いですね」
「そう、・・・シェスティア、貴女はもう気が付いてるとは思うけど、あの子は強いけどとても弱い子なの」
「はい」
アルカはティアの手を取って言う。
「私の目の届かない所ではしっかりと見ていてあげて」
「はい」
ティアは少し驚きながら頷いた。リナの知り合いは皆リナを心配していてそれを助けてあげたいと思っている。ティア自身もそう言った感情を持っていたのでそう思わるリナはすごいと単純にそう考えていた。
「そう言えばリナは冒険者ランクを上げたんだってね」
「はい、私と同じCランクです」
ティアがそう言うとアルカは少し悩む様子を見せながら言った。
「これも伝えておいた方がいいと思うから言っておくわね。リナは今は本当の力を封印されていて冒険者で言うとBランクの中間ほどの実力しか出せないけど、元々はSランクくらいは軽くあったはずなのよ」
「え、Sランク!?」
ティアはあまりの事に驚いたが、アルカは気にせずに続ける。
「あくまでも昔の話よ。今はBランクくらい。でもあの子の感覚は昔のままだからあの子、無理をすることがあると思うわ。だからそのあたりも注意して見といてあげてね。まああの子はいずれはSランクすら超えると思うけどそれまではね・・・」
「アルカさん・・」
アルカは寂しそうで悲しそうな様子でそう言うと、懐から小さな水晶の様な物を取り出すとティアに手渡した。
「これは?」
ティアがそう聞くとアルカは、
「まあ、保険みたいなものよ。本当に困った時にこれを砕きなさい」
と、言ってアルカはティアの元を離れてリナ達の元に向かって行った。
ティアはその水晶を大切にしまう。
その後自分の修業に戻ったティアはアルカの言葉を思い出しながら自分がしっかりしないとと言う気持ちが強くなるのと同時に、リナの無茶を止めるようにしないとと責任感も生まれていたのだった。
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