ハイネリアの保護者
翌日の昼前頃に、予定通りにアレントに帰ってきたリナ達。
まず4人は馬車を返しに馬車小屋へやって来ていた。中に入ると前にリナに馬車を用意してくれた従業員が4人を迎えた。
「ありがとうございました。おかげで依頼を達成することができました」
リナは頭を下げながら馬車小屋の従業員にそう言うと、
「お、あの時の嬢ちゃん達か、無事に帰ってきたんだな。よかったよかった」
リナとティアの顔を見た従業員は、二人の肩を叩きながら喜んでいた。
「それで、馬車を返しに来たんですけど」
「ん?ああ、それはもう二人に譲ってやったもんなんだから別に返さなくてもいいぜ?」
「え?ほんとに?」
「ああ、馬車を置いとく場所がねぇなら格安で置いといてやるよ。それと馬車の扱いも格安で教えてやるぞ?」
従業員がニヤリと笑いながらそう言う。二人は今後馬車を使う事も考えて従業員の言葉に甘えることにした。
馬車小屋での一件を終えた後、イザベラがモルガンの所まで戻るとの事だったので、お礼の挨拶をする為にリナ達も一緒に行くことにした。
モルガンの店までの道中では、やはりこの街では獣人が珍しいのか人の視線を感じる事が多かった。
ティアと視線を集めていたハイネ本人は特に視線の事は気にしていなかったのだが、人の視線が苦手なリナは居心地悪そうにティアの後ろに隠れながら移動するのであった。
そうしてモルガンの店に着くと、モルガン本人が迎え入れてくれた。
「おお、お帰り。・・怪我も、してないようだね」
モルガンは真っ先にリナとティアを確認すると安堵し息を吐いた。
4人は奥の部屋に案内され、モルガンの奥さんが用意したお茶を飲みながら今回の仕事の報告を行った。
「モルガンさん、これが回収した魔道具です」
イザベラは自身の袋から魔道具を取り出す。
袋の中に入っていた魔道具は明らかに袋の容量以上の物が入っていた。
リナはその光景を見てぼそりと呟いた。
「アイテム袋・・」
リナがそう言った時、イザベラがリナを見て悪戯な微笑みで言う。
「そうだよ、リナのと同じだね」
「・・気が付いてたんですか」
「ま、私も同じ物を持ってるからね。でも、リナだってよくアイテム袋なんか持っていたね。なかなか手に入る物でもないのに」
「いえ、ボクのはたまたま手に入ったので」
「そうかい」
イザベラは追求するような事はせずに仕事の報告を続けていた。
(・・・元プレイヤーでなくてもアイテム袋は手に入るのですね)
「あの、イザ・・」
リナが何処でアイテム袋を手に入れたのかをイザベラに訊こうとすると、先にモルガンがイザベラに話しかけた。
「そうだ、イザベラ。君に手紙が来てるよ」
イザベラが黙って手紙を受け取ると。驚いた様子になった。
すぐに中身を確認すると、イザベラの表情が険しくなった。手紙をすべて読み終えるとイザベラは再び大剣を担ぎながらモルガンに言った。
「モルガンさん、またしばらくお暇を頂くことになります」
「わかった。君に言う必要はないと思うが、気を付けるんだよ」
「はい」
モルガンがそう言うとイザベラはすぐに踵を返した。
「じゃあ皆も、無理しないようにな」
そう言ってリナの頭を撫でてからイザベラは店を出ていった。
「あのイザベラさんは?」
「ああ、イザベラは別の仕事もしてるからね。それよりそっちのお嬢さんはどうしたんだい?」
モルガンがハイネの事を訊いてきたので、リナはイザベラに説明した時と同じ説明をすると、モルガンは涙を流した。
「そうだったのか、じゃあハイネリアちゃんの家族も魔物に・・・」
ハイネは、両親が死んでしまっていることはすでに受け入れていたので、モルガンの涙に反応することは無かったのだが、モルガンはそんなハイネが無理をしているんじゃないかと、勘違いしてしまった。
「こんなに小さいのに・・・そうだ、私にはこんなことしか出来ないけど良かったら受け取ってくれ」
モルガンはそう言ってハイネに装飾が施されたブレスレットを手渡した。
「モルガンさんそれって」
リナはモルガンが手渡した物が今回イザベラが回収してきた魔道具の一つだったので、驚いたのだがモルガンは涙を流しながら首を振った。
「いいんだ。これは強力な魔道具なんだけど、今まで使える者がいなかった物なんだ。ただそれなりの魔道具だから、これから生活に困ることがあったらそれを売ればいい」
ハイネは、綺麗なブレスレットを気に入り左腕に付けると、ひらひらと手を動かしながらブレスレットを見ていた。
「あ、あの、ありがとうございます」
リナはハイネに変わってお礼を言うとハイネも思い出したようにモルガンにお礼を言った。
「いいんだよ。それよりもハイネリアちゃん、この先、悲しいことや苦しいことがあったらリナちゃん達だけじゃ無くて私も力になるからね。それだけが覚えておいてね」
「ん、ありがとう」
ハイネは少し恥ずかしそうにモルガンにそう言うとリナの後ろに隠れてしまった。
その後、まだ取っていなかった昼食をごちそうしてもらってからモルガンと別れて、三人は冒険者ギルドに向かう事にした。
冒険者ギルドに行くとすぐにメイルが駆け寄って来ると、普段の彼女とは思えないほど強く二人に抱き着いてきた。
「ああ、リナ様、ティア様も無事で良かったです」
「あ、メイル。ただいま。これ預かってた魔結晶」
ティアはメイルの行動を気にせずにマイペースに話を始めた。
メイルはそんなマイペースなティアの行動に我に返ると少し頬を赤くしながら魔結晶を受け取った。
「は、はい。ありがとうございます。すぐに依頼完了登録を行いますので少々お待ちください」
「お願いね~」
メイルが立ち去ってからリナはティアの方をじっと見つめていた。
するとティアは少し気持ち悪い表情になりながら鼻息を荒くしてリナに言った。
「え?なになに?リナちゃん嫉妬しちゃった?大丈夫だよ。私はリナちゃんとハイネちゃん一筋だから」
もはや意味の分からないことを言い出したティアに、リナとハイネは少し身を引きながら、
「ねえお姉ちゃん。シェスティアって」
「いいですかハイネ。これでもティアさんはいい人なんですからね」
と話しながらティアを生暖かい視線で見つめていた。
「あれ?なんか酷いこと言われなかった?ねえ?ねえってばぁ!!」
ティアがそう言うが二人は無視をしてカウンターへ歩いて行った。こうなっている時のティアを相手にするのは疲れるだけという事をリナは学んでいたし、ハイネもすぐに理解していたのだった。
メイルが依頼完了を終えてから戻ってくると、リナ達はハイネの事を相談することにした。
場所を移してから話を初めてからメイルはリナ達の話を黙って聞いてそのあとに解決策を提示した。
「私がハイネリア様に提案できる事は、二つになります。一つ目は魔物などの被害にあい家族を失った子供たちをギルドでは一時的に保護しています。ただある一定の年齢を超えると冒険者ギルドの職員として働いてもらうか、施設を出なければいけません。もう一つが、その子供を保護した冒険者が責任を持って保護者となることです。ただこれにはいくつか条件があり、まず保護者になる冒険者のランクがCランク以上の冒険者である事、その子供には見習い冒険者として登録をしてもらう事、あとはその子供をしっかりと保護しているのかも一定の年齢になるまで定期的にギルドの方で確認することになります。その条件を受け入れ子供もそれを了承した時に初めて二つ目の方法を取ることが出来ます」
メイルの提案した条件、それは今のリナでは達成できない条件だったが、ティアなら達成できる条件だった。
「じゃあ私がハイネちゃんの保護者になればいいってこと?」
ティアがそう言うとメイルは頷いた。
「はい。ハイネリア様がそれを望めば条件はクリアします」
「じゃあハイネちゃん。私が保護者ってことでいいかな?」
ティアがそうハイネに訊くとハイネは首を横に振った。
「やだ。お姉ちゃんがいい」
ハイネはそう言うとリナにしがみついた。
それから何度もティアが保護者だとしても一緒にいることには変わりはない事をハイネに説明をしたがハイネは頑なに否を出した。
ハイネはティアが嫌いとかではなく、ただリナが良いだけと言う事をこの場にいた全員が理解していたので、リナは困惑し、ティアはハイネの今までの行動で納得し、メイルは何かを考えていた。
しばらく話し合いが続いた時にメイルが口を開いた。
「リナ様いい機会ですので、前々から打診させて頂いた件を考えて見てはどうでしょうか?」
「え?・・・あっ」
メイルに言われてからリナは思いだした。
今までティアの依頼に付き合ってリナも相当数の依頼をこなして来ていた。メイルもヴェストレームもリナの実力がEランクの冒険者では無いことはすでに分かっていたので、ヴェストレームの権限でティアと同じランクに上がらないかと言われて来たのだった。
リナは今まで目立つことは避けたかったために、拒否し続けたのだが、メイルはこの件を幸いとして提案したのだった。
(確かにボクがCランクになればハイネの事も解決しますし悪くはないのですが、女性二人のCランク冒険者と言うのはやはり目立つのではないのでしょうか・・・)
リナがいろいろと考えて悩んでいる所でハイネがリナの手を握った。
「お姉ちゃん。ダメ?」
ハイネがそう言って甘えてきた時点でリナは諦めがついてしまった。イザベラにも言われた責任を取るべきだと判断したのだった。
リナはメイルにランクの事を了承すると、後日ハイネの見習い冒険者証と一緒にCランクのカードを発行することになった。
それから宿に戻ったリナは、三人部屋に変えて貰ってから今後どうするかの話し合いを始めた。
「これからの事なんですけど、ハイネは何かやりたいことはありますか?」
リナがそう問いかけると、ハイネは、
「特にない。ただあの男。お母さんを殺したあの男は見つけ出す」
ハイネは決意に満ちた瞳でリナに言い放った。
リナはその言葉を受けてハイネの頭を撫でる。
「わかりました。一緒に探しましょう。ただハイネ。復讐の為だけに生きてはいけませんよ。何かやりたいことを見つけてください。それが見つかってから探しても遅くはないはずですから」
リナはハイネにそう言った。どんな物語でも復讐に身を落とした者はいい結果にならないことをリナは知っていたので、ハイネにはそうなってほしくなかったのだった。
その後、ティアにも同じように問いかけても今はまだ何もないとの事だったので、まずは自分たちの修業を優先することにした。その中でリナは二人をアルカに紹介するかを考えていたのだった。
ひとまず目先の事が決まったので一休みしようとしたときにティアが部屋の真ん中で高々に宣言をする。
「これから皆でお風呂に入ります。異論は認めません!!」
そう言って二人を抱きかかえると、不気味な笑みをうかべながら風呂場に直行するのであった。
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