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ハイネリア

 屋敷から出ることが出来たリナ達は、近くの広場で休息を取っていた。

 二人が出てきた屋敷は始め見た時の状態とは打って変わってボロボロの見た目の屋敷になっていた。



「やっぱり綺麗な状態に見せるように何か魔法でも使っていたのかな」

「たぶんそうだと思いますけど、もしそうならこの子の力は相当なものですよ」



 リナは未だに目覚めない少女の髪を撫でながら言う。

 少女には外傷は無いが精神的な疲労が強かったのか、一向に目覚める気配はなかった。


 もうすぐ夕暮れイザベラとの約束の時刻が近くなっていた。

 リナ達は多少回復できたので急いで待ち合わせの場所に戻ることにした。



「すみません、この子を背負って頂いてしまって」



 リナは屋敷の中までは自分がすると言って少女を背負っていたのだが、体力が持たずにへばってしまったのだった。

 ティアは体力面ではリナを圧倒していたので、少女一人背負って移動することは特に問題はなかった。



「全然平気だよ?まあ、またリナちゃんがへとへとになっちゃうと待ち合わせに間に合わないしね」



 ティアはそう冗談っぽく言うとリナは少し顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。

 町中ではティアの言うとうり魔物に合うことなく待ち合わせの場所までたどり着くことが出来た。

 二人が待ち合わせの場所に行くとすでにイザベラが出発の準備を始めていた。



「よかった。無事に戻って来たね」



 二人を確認したイザベラは安心したように言う。



「お待たせしました」

「いや、それは大丈夫。それよりもそっちは何も問題なかったかい?」

「え?」



 リナはさっきの事をイザベラが察しているのかと一瞬焦るがそうではなかった。



「いやね、さっきこっちに戻ってくる途中に見たことも無い魔物が出てきてね」



 イザベラがそう言ったとき二人はその魔物が何なのかわかった。

 ティアはイザベラには聞こえないようにリナの耳元で囁いた。



「ね、その魔物ってさっきこの子が召喚した魔物だよね?」

「はい。おそらくは・・」



 リナ達がそう反応しようか迷っているとイザベラは特に気にも留めないように言葉をつづけた。



「でまあびっくりしたけど、とりあえず両断しといたんだけど、そっちには出なかった?」

「い、いえ。見てません」



 イザベラは簡単にそう言ったのだが、その魔物と言うのは魔力だけでは魔王級、簡単に倒せる相手ではないはずだった。



「もしかしてイザベラさんってものすごく強い?」

「はい。本当に護衛なんかいらない人なんですね・・・」



 ティアは衝撃を受けたのか顔を引きつらせ、リナは事がバレていなかったので安堵していた。

 と、そこでイザベラがようやくティアが背負っている少女に気が付いた。



「あれ?その子は?」



 イザベラの質問に前もって決めていた答えをリナは返した。



「家のクローゼットの中に隠れていました。このまま放ってはおけませんので、とりあえず連れてくることにしました」

「そうかい。よくもまあこの魔物のあふれてる町で生きていたもんだよ。・・・おや?その子獣人かい?」



 イザベラは少女の耳と尻尾を見てそう問いかける。



「はい、そうみたいですが・・なにか?」



 リナは訊いてきたきたイザベラが難しい顔をしていたので、それが気になってしまった。



「・・・いや、そうだね。実は獣人はその身体能力の高さから奴隷として捕らえられる事が多いんだ。表向きは禁止されているんだけど。どこかで掴まえて犯罪奴隷と称して売買されることがあるのは確かなんだ」



 リナはイザベラの言葉を真剣に聞いていた。ティアも人族には見えているが実際はエルフなので他人ごとには聞こえていなかった。



「その子が今までどう過ごしてきたのかは分からないけど、今後その子をどうするのかは真剣に考えないとその子が不幸になるかもしれないから気を付けるんだよ」

「・・・はい」



 リナとしてはこの後この少女は冒険者ギルドに預けることを考えていたのだが、そのあたりも少女が目を覚ましてから考えた方がいいのかもと思い始めた。

 少女について助言をもらった後、イザベラと共に出発の準備を済ませてセンテリスを発つことになった。



 センテリスを出て二日ほどたった頃やっと少女が目を覚ました。



「ん・・ここは?」



 少女の声に気が付いたリナが声をかける。



「ここは馬車の中です。・・ボクの事わかりますか?」



 少女はリナに助けられながら体を起こすと平原を走る周りを見渡した。

 しばらくキョロキョロとしていた少女は最後にリナに視線を戻した。



「あの時のお姉さん?」



 少女は当時の記憶があったようでリナの事をしっかりと認識していた。



「はい。あの時の事覚えていますか?」

「・・・少しだけ覚えてる」

「そうですか・・」



 リナはそのあとどう言葉を紡げばいいのかわからなくなっていたのが、そこにティアが寄り添ってきた。



「あ、起きたの?私の事わかる?」



 ティアがそう問いかけると、少女は首を傾げた。



「しらない」



 少女はそっけなくそう答えるとリナに視線を向けて問いかける。



「お姉さんの名前」



 リナは、はっとしながら自己紹介をした。



「ボクはリナと言います。今は冒険者をしていますね。貴女のお名前を聞いてもいいですか?」

「ハイネリア、ハイネリア・フォン・リファント」

「ハイネリアさんですね」



(家名・・やっぱりこの子はセンテリス辺境伯のお子さんだったのですね)



 リナがハイネリアの名前を呼ぶと、ハイネリアは首を横に振った。



「ハイネでいい」

「ハイネさん?」

「ハイネ」



 ハイネは頑なにそう呼ばれることを望んだ。

 リナはハイネの意を汲んでそう呼ぶことにした。



「では、ハイネと呼ばせてもらいます。ボクの事も好きに呼んで頂いていいですよ」



 リナがそう言うとハイネは少し悩んでから口を開いた。



「お姉ちゃん」

「え?」

「お姉ちゃんって呼ぶ」



 そんな二人の会話を黙って聞いていたティアが、気持ち悪い表情でハイネに近づいた。



「ハイネちゃん、私はリナちゃんの冒険者仲間でシェスティアって言うの。私の事もお姉ちゃんって呼んでいいんだよ」



 ハイネは心底気持ちの悪そうな表情をしてから、リナを見つめる。リナが反応に困った様子だったのを確認すると、死んだ魚のような目になってティアを呼んだ。



「シェスティア」

「え?・・・」

「シェスティア」

「なんで?なんで?私もお姉ちゃんって呼んでよー」

「やだ」



 ティアはハイネの辛辣な言葉にその場で涙を流した。

 そのあとリナ達はお互いの事を話し合いある程度の事がわかった。

 ハイネリアは12歳で、狐族の母親とセンテリス領主との間に生まれたハーフの獣人だった。

 今までハイネは魔法を使ったことはなかったが、母親が死霊系の魔法の使い手だという事が分かった。



「それでなんですけど、ハイネはどうしてセンテリスがああいったことになったのか覚えていますか?」



 今まで言葉を詰まらすことが無かったハイネが初めて言葉を詰まらせた。

 リナは慌てて手を振ってハイネに言う。



「い、言いたくなかったり思い出したくなければ何も言わなくても大丈夫ですよ」



 リナがそう言うとハイネは首を横に振って答えた。



「大丈夫」



 そう言ってハイネは当時の事を語り始めた。

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