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声の主

 二人が屋敷の中に足を踏み入れるとそこは、町が魔物に襲われているとは思えないほど綺麗な状態だった。

 正面に二階へとつながる大きな階段、左右には部屋があるのか両開きの扉がある。よく見ると階段の奥にも部屋があるようで辺境伯の屋敷にふさわしい大きさだった。



「うわっ、すごっ!?」



 ティアは屋敷に入るやその豪華さに驚きを隠せないでいた。一方リナは屋敷の豪華さよりもあまりにも外との大きな違いに違和感を感じより警戒心を強めていた。



「で、声はどこから聞こえるの?」



 ティアが問いかけるが、リナは声は未だに聞こえてはいるが、どこから聞こえてくるのかと言う具体的な位置まではわからないでいた。



「この屋敷の中なのは間違いないのですが、どこから聞こえてくるのかはわかりません」

「そっか、だったら中を調べてみるしかないね」



 リナはティアの提案に頷き返した。



「どうする?この屋敷大きいし手分けして探す?」

「いえ、この屋敷もなにが起きるかわかりませんから一緒に行きましょう」

「ならまずは一階から探そっか」



 二人は一緒に行動し探すことに決めると右の扉から順番に探すことにした。

 一階には、大きく長いテーブルが置いてある晩餐室、使用に人の食事場所と調理場や応接室に大広間等々他にもいろいろな部屋があった。

 二人は部屋の隅や物陰など人が隠れていそうな場所を徹底的に調べたが一階には人の姿が一つも無かった。



「誰もいなかったね」

「そうですね」

「次は二階か・・」



 玄関ホールに戻ってきた二人は次に二階を調べることにした。

 階段を上がっているとリナが少し訝し気な表情をしていたのでティアが声をかけた。



「どうしたの?声が聞こえなくなった?

「いえ、声は未だに聞こえるんですけど・・変じゃなかったですか?」

「変?」



 ティアが首を傾げながら聞き返す。



「はい。この町センテリスは魔王が出るほど崩壊し魔物が闊歩している状態になっているのに、この屋敷には魔物どころか人の死体や争った跡などは全くありませんでした」

「そう言えば確かに・・」

「それにこの屋敷は特に魔物除けの結界が張っているわけでもないのにこれは変です」



 リナはこの綺麗な状態で残っている屋敷は違和感の塊で正直すぐにでも引き返した方がいいと考え始めていた。

 しかしリナにしか聞こえない声。この声は恐ろしいとかリナを呼んでいるわけでもなく、どこか物悲し気な助けを求めているような声に聞こえてくるので帰ると言う選択肢をリナの中から消してしまっていた。

 二階には図書室や領主の寝室、子供の部屋などがあったが声の主は見つからなかった。



「次が最後の部屋だね」

「はい」



 二人は扉の前に立つと両開きの扉を一気に開いた。

 扉の奥は、辺境伯の家族が過ごしたであろう広い部屋になっていた。

 その部屋の奥にリナよりも二回りほど小さな子供がしゃがみ込みながら泣いているのを見つけた。



「リナちゃん、聞こえてた声ってあの子の?」

「・・たぶんそうだと思いますが」



 二人がおそるおそる部屋の中に足を踏み入れると、子供が頭を上げた。



「だれ?おかあさん?」



 顔を上げた子供、少女は母親でない事がわかると首を傾げた。



「おねえさんたちだれ?」

「ボクたちは・・」



 リナが返事をしようとした時だった。

 うつろな瞳でリナ達を見ていた少だったのだが、困惑気味だったその表情が一変し憎らしい物を見る目になった。

 リナ達を見ていた瞳には別の何かを見ているのか全く焦点があっていないような状態になっていた。



「あなたたちはだれ?さっきのおねえさんはどこ?あなたたちがおかあさんをみんなをつれていったの?それならかえして!おかあさんをかえしてー!!!」



 少女が突然声を荒げると、部屋の至る所から黒い鎧を着た騎士が出現し始めた。



「これは幻影騎士(ファントムナイト)!?」



 リナが驚くのも無理は無かった。幻影騎士は、AFでは最上位の召喚師プレイヤーが召喚する一体がボスクラスはある魔物だからだ。それが部屋のいたる所から次つぎに出てきていた。



「リ、リナちゃんこれどうするの?滅茶苦茶強そうなんだけど」

「この数の幻影騎士には流石に勝てません。あの子が召喚しているのでしたら正気に戻ってもらうしか」

「と言っても、この魔物こっちに向かってきてない?」

「そうですね。・・・いや、この速度もしかして」



 リナは近づく魔物をよく見るとそれは、幻影騎士に擬態している魔物。亡者の偽鎧(フェイクナイト)と呼ばれている魔物だった。



「『アイスアロー!!』」



 リナが一番近くにいた魔物に魔法を当てると、魔物は簡単に崩れ落ち消滅していった。

 それを見たリナは即座にティアに指示を出した。



「やっぱりそうです。この魔物は強い魔物に擬態しているだけで強くありません。ただ鎧の魔物なので弓は効きにくいので注意してください」

「了解」



 ティアはリナの指示に従って弓を射っていくが、やはり相性が悪く亡者の偽鎧はなかなか倒れなかった。

 リナも無詠唱の下級魔法で対応していくが、数が多すぎて徐々に押され始めた。

 そんな二人の状態を少女は憎々しく見ているだけだったが、どこか苦し気な表情に変わっていた。それが見えていた二人は何とかこの状態を打破して少女を救わなければという気持ちになっていた。



「このままじゃ埒が明かない。リナちゃんこいつらは私が抑えるからあの子をお願いしてもいい?」

「それはいいのですが、ティアさんだけではこの数の亡者の偽鎧は」

「大丈夫、こう言う時の為に修行してきたんだから」



 ティアはそう言うと懐からグローブを取り出して装着する。その状態でティアが拳を打ち合わせると金属音が鳴り響いた。



「金属製のグローブ・・もしかしてティアさんがヴェストレームさんに習っていたのって」

「そうだよ。格闘術、どうも私って剣の才能がないみたいでエルトレームにいたころは接近戦闘は無理って思ってたんだけど、こっちの才能はあったみたいなの」



 ティアはそう言いながら亡者の偽鎧を殴り飛ばした。



(な、殴りエルフですか・・・と言うより、どう見てもティアさんの格闘術はかなりのレベルだと思うのですが、ヴェストレームさんは何が駄目で使うことを止めていたのでしょうか?)



 リナはそう思ったのだが、実際の所、ティアの格闘術の才能は抜きん出た物でヴェストレームの教えをどんどん吸収していったのだった。しかし早熟が原因でティアは手加減が出来ずにいた。このまま対人戦闘で使わせると死人が出る可能性があった為、ヴェストレームは緊急時以外の使用を禁止していたのだった。

 思わぬ力を発揮したティアのおかげで、この場を預けることが出来たリナは急ぎ少女の元へと向かう。


 少女は近づくリナに向かって亡者の偽鎧を召喚していくが、リナは魔法でいなしながら近づいていった。そしてあと一歩の所まで近づくことに成功したその時、少女に変化が起こった。



「なんで?なんで?なんで?なんで?なんできえないの?どうしてじゃまをするの?わたしはただおかあさんにあいたいだけなのに!!!」



 少女から眩い光が強烈に発光して一瞬リナの視界が奪われる。

 光が徐々に収まり少女に視線を戻すとそこには元々茶色だった少女の髪の色が金色に変わり狐の耳と尻尾が生えていた。



「こ、この子獣人だったの?」



 いつの間にかリナの隣に来ていたティア、リナは背後を振り返り亡者の偽鎧がどうなったのか確認するとそこには亡者の偽鎧の姿はなかった。



「全部倒したのですか?」

「んーん。あの子が光ったのと同時に皆消えてっちゃった。それより、これはかなりまずいよ」



 ティアは真剣な表情で言った。



「この町、センテリスの中に複数体感じるの。教会にいるはずの魔王の魔力と同じかそれ以上の魔力をそれに・・・」



 ティアは言葉を詰まらせた。



「どうしたのですか?」

「この子の魔力、外の魔王よりも随分高いよ。暴走してるって感じだけどそれでもリナちゃんの何十倍もの魔力を感じるわ」



 そう話していた時だった、少女が手を振り上げると今度こそ本物の幻影騎士が二体現れた。

 リナたちは幻影騎士に対峙しながら構える。



「幻影騎士・・ティアさんあれはさっきの魔物とは格が違いますよ」

「うん、ひどい魔力をビンビン感じるよ。でも、これを相手していてもあの子は止まりそうにないよ?」



 ティアの言う通りだった。たとえここで幻影騎士の相手をしていてもそれは召喚された魔物、いくら相手をしていても状況が好転することは無い。

 リナは頭を回転させてこの状況をどうにか打破したいと考えていた時にふと少女の首元に気になるものを見つけた。



(チョーカー?いえ、装飾品と言うよりは拘束具に見えますね)



「ティアさん、あの子の首の装飾品なにかおかしくありませんか?」



 ティアは幻影騎士から少女に視線を移して魔眼を発動させた。



「うん、確かにあの装飾品が魔力を乱してるようにみえるね」

「そうですか。でしたら何とかできるかもしれません」



 リナはすぐさまティアにこれから行うことを伝えるとティアはいつものように了承した。



「では、しばらくの間お願いいたします」

「了解、できるだけ早くしてね」



 リナは一気に走りだし幻影騎士の攻撃を避けながら少女に接近する。

 幻影騎士はリナを追おうとするがティアがそれを止めて二体の相手を始めた。



「くるな!くるな!くるな!くるな!」



 リナが近づこうとすると少女は白炎の玉を飛ばし始めた。



(やはり、素直に近づくことはできませんか・・・)



「ですが!!」



 リナは最初の炎弾を避けると足を止めて右手を前に掲げた。



「『第三制限(サードリミット)解放(リリース)』」



 リナが第三制限の魔法を使用したと同時にリナと少女の周りに二人を囲うように氷塊が現れた。

 少女は突然変化した辺りを見渡す。



「気を付けてくださいね。この魔法は」



 リナがそう言った瞬間、氷塊に囲われた空間が氷結し始めた。



「さむい!さむい!さむい!」



 少女がその場で暴れるが徐々に氷始め動きが遅くなる。



「無駄ですよ。この魔法は個人相手にしか使えませんが、この空間の中をボクを除いて完全に氷結させる魔法です」



 リナがそう言った頃には少女の下半身と腕は完全に氷付き身動き一つ取れなくなっていた。

 動きを封じたのを確認したリナが近づいていく。少女は炎弾を発動させるがこの空間の中では魔法の構築も遅くなりただ放つだけの魔法は避けるだけなら造作もないことだった。

 少女に完全に接触したリナが首についたチョーカーをよく見るとやはり拘束具の類だった。



「これを外せば」



 リナが拘束具に触れると、何故か拘束具は崩れ落ちるように砕けてしまった。

 突然の事に驚いたリナだったが、これで問題は解決したと一息ついたのだったが、少女の様子が戻る事は無くむしろさらに苦しみ始めた。



「ど、どうして?」



 拘束具を外したのにも関わらず苦しむ少女にリナは狼狽していた。

 すでに魔法は解いていたので氷は完全に溶けていたし、少女も魔力を纏っていたので凍傷になることは無いはずだった。それを踏まえてリナが今回使った魔法でこんなに苦しむはずは無かった。

 しかし、少女は苦しみ続ける。リナはまさかと思いながら背後を確認するとティアがまだ戦っていた。



「幻影騎士が消えていない?でもどうして!?」



 少女の暴走が原因で召喚された魔物なら暴走を止めると自然に消えるはずの魔物が消えていない。

 リナが戸惑っていると戦闘中のティアから声がかかった。



「リナちゃん、そ、その子のまりょ、魔力が、・・このぉ!!まだその子の魔力が暴走したままになってるの、そのままだと魔力を出し切って死んじゃうかもしれない!!」

「そ、そんなどうしたら?」

「わからない。けど、リナちゃんなら、とりゃああ!!何とかできる。私はそう信じてる!!」

「ティアさん・・」



 以前リナはエルトレームを救ってくれた。だから今回も何とか出来る。ティアはそう信じて疑わなかった。

 リナもティアの言葉に励まされ冷静に考えることが出来るようになっていた。




(どうしたらこの子を救える?ポーションに魔力暴走を抑える効果なんてありません。今から魔導具を作る?いえ、間に合うわけありません。なにか、なにかあるはずです。この状況を抜け出すなにかが)



 リナは何かに縋る思いで記憶の中を探る。

 そこでふとアルカの姿がよぎった。



(アルカさん?どうしてアルカさんが今頭に引っかかるのでしょうか?・・・あっ!そうでした!!)



 リナは急いでアイテム袋の中を探った。そうして一つの丸薬を取り出した。



「これなら」



 リナは急いでその丸薬を少女の口に含ませた。

 この丸薬はリナが修行を始めた頃、アルカに渡された魔力を抑える薬だった。結局リナが魔力を暴走させる事は無かったので今まで忘れていたのだった。



「お願いします・・・」



 リナは苦しむ少女の手を握りしめながら薬が効くことを祈った。

 その時間が何分だったか何秒だったか分からなかったが、リナが握る少女の手に変化があった。

 リナはそれを感じ取り目を開けると、少女の髪の色が茶髪に戻りっていた。

 少女はリナに向けてにこやかに微笑むと、



「おねえちゃん、ありがとう」



 少女はそう言って目を閉じた。

 リナは一瞬焦ったのだが、少女から「スゥスゥ」と寝息の音が聞こえて来たので安心した。



「大丈夫みたいだね」



 いつの間にかティアもリナのそばにやってきていた。



「幻影騎士はどうしたのですか?」

「ん?さっきの魔物は消えてっちゃったよ。この町の魔物の魔力も全部消えてる」

「そうですか。良かったです」



 リナが安堵の言葉を吐くと、今リナたちがいる部屋にも変化が起き始めた。

 豪華だった部屋の装飾が消えていき至る所がボロボロな部屋が姿を現した。

 部屋の隅には横たわる二つの遺体も出現する。



「な、なにこれ?」



 ティアは突然の変化に戦闘の構えを取るが、リナはどこか納得するところがあった。



「もしかしたらボク達は、この屋敷がこの子が住んでいた頃の状態で見せられていたのかもしれませんね」

「ええ?そんなことができるの?」

「わかりません。ですが・・・」



 リナはこの子の両親であろう遺体に布を被せながら言う。



「この子は待っていたのかもしれません」



 リナはそう言って少女を抱き上げた。

 ティアはこの子が何を待っていたのかはリナには聞かずに、どこか少し寂し気な表情を見せていた。



「とりあえず戻ろっか、その子どうするの?」

「わかりません。ですが・・・」

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