アンデット討伐とおかしな青年
日の高いうちにセンテリスに着いた一行の見た光景は酷い物だった。
町の至る所が崩れ果て、町の奥には魔物の姿も見える。視線を移すと人の死体が魔物に食い散らかされたまま放置されていたりと、まさに地獄のような光景が広がっていた。
「二人とも大丈夫かい?気分が悪くなっていなければいいのだけれど」
この光景を見てから言葉を全く発さなかった二人を心配してイザベラが声をかけると、リナは静かにうなずきティアも声が若干上擦りながらも「大丈夫です」と一言返した。
その様子を見たイザベラはしずかに頷くとこれからの事について説明を始めた。
「ここからはしばらく別行動になるからね。君たちはギルドの依頼で魔物を討伐する。私はモルガンさんが商品を卸している店に行って魔道具の回収だ」
イザベラの言葉に二人は頷く。
「二人の討伐対象になっているアンデット系の魔物は日の高いうちならそこまでの脅威じゃない。だから今のうちに討伐数を稼いで夕暮れまでにここに戻ってくるように」
「わかりました」「了解」
「私からは以上かな、二人は何かない?」
「いえ、ありません」
「私もないかな」
「なら説明は以上だ。ここが待ち合わせの場所と言うのはくれぐれも忘れないようにね」
「「はい」」
この馬車の周りには、魔物除けの香を焚いたのでしばらくは魔物が寄ってくる心配はないのでここを待ち合わせの場所とした。
「じゃあ気を付けるんだよ」
イザベラはそう言ってセンテリスの奥へと向かっていった。
残った二人は魔物が見えている場所へと足を進める。
「ティアさん、魔結晶持ってますか?」
「うん。しっかり持ってるよ」
魔結晶とは、今回のようなアンデット系の魔物を複数討伐と言った依頼の場合は討伐証明部位が存在しないためギルドから渡される道具で、討伐した魔物から漏れる魔力の残滓を吸収し吸収した魔力量にしたがって発光色が変わっていく機能を持っていた。
今回のリナたちの依頼成功の為に必要な魔物討伐数は魔結晶の輝きが紫に光るまでとの事だったので、結構な量を討伐する必要があった。
「そう言えばティアさんはこの一ヶ月間ヴェストレームさんに接近戦闘を習っていたんですよね?」
「そうだよ?」
「それにしては今までの依頼でも、今回も弓を使うんですね」
この一ヶ月ティアがどんな修業をしていたのか全く聞いていなかったので、そこが気になったリナだったがティアの返事は曖昧な返答だった。
「ん~、ヴェストレームさんからいざという時以外はまだ実戦で使うのはやめておいた方がいいって言われてるからね~。それに今回の依頼ってゾンビとかスケルトンでしょ?さすがの私もアンデット系の魔物には近づいて戦うのは嫌かな・・・」
「ま、まあそうですよね・・・」
そんな会話をしていると、町の至る所からわらわらと魔物が二人に近づいて来ていた。
二人は気分を戦闘に切り替え杖を弓を構えて臨戦態勢を取った。
「ボクは魔法でスペクターやレイスを中心に攻撃していきますから、ティアさんは近づいて来るゾンビやスケルトンをお願いします」
「了解!!」
この一ヶ月の依頼で二人の連携は良くなっていたので、アンデット系の魔物のようなゆっくりと動く魔物なら10や20くらいの数なら問題なく対処していく事が出来た。
日が少し傾き始めた頃、難なくこのあたりの魔物をほとんど討伐した二人だったが、突然ティアがセンテリスの西側大きな教会が見える方向に大きな魔力を感じた。
「リ、リナちゃんあっちから魔物凄く大きな魔力を感じる。・・・たぶんこれが魔王だと思うよ」
「教会方向ですか・・」
幸いイザベラが向かって行ったのはセンテリスの東側だったので魔王と遭遇することは無いだろう。しかし、このままここで戦い続けるのも魔王を刺激するようで危険だとリナは判断した。
「ティアさん魔結晶の色は何色ですか?」
リナの言葉にティアは胸元に手を突っ込むと魔結晶を取り出した。
「えっと、あ、もう紫になってるよ」
「そうですか、ならボクたちの依頼はこれで完了ですので早くここから離れましょう」
「うう~、お宝探したかったな~」
ティアがそう項垂れるが今はお宝探しをしている余裕がない事くらいわかっていたので、リナに従い撤退することにした。ところだった。
突然背後から男女複数の冒険者と思われるパーティが現れた。
「おっ。ここで雑魚を討伐してくれてたのかな?」
その中の一人で金色の短髪でリーダーと思わしき美形の青年が声をかけてきた。
突然声をかけられたのでリナは激しく動揺した。
「は、はい。アレントで依頼を受けました」
リナは人見知り全開で言わなくてもいい情報をしゃべってしまっていた。
しかし青年はそんな事は全く気にせず大きく笑った。
「そうかそうか、あとは俺たちに任せてくれ。依頼も終わって帰るとこ・・ろ・?」
笑っていた青年はリナとティアを正面から見たとたんに言葉を失った。
「これはこれは、美しいお嬢さんたちじゃないか?どうだい?うちのパーティに入らないかい?これでも俺は魔王を討伐したことがあるくらいには強いんだよ?」
「「は、はあ」」
リナは突然手を取られ驚き、ティアも胡散臭さ全開の青年にどう対処すればいいのかわからなくなっていた。
そんな青年を他のパーティたちは「また始まった」や「先に行っとくぞ」と言い残し教会の方へと走っていく。
二人はこの状況をどうすればいいのかと苦慮していると、青年の頭をひっぱたくこれもまた美形の女性がこの状況を救ってくれた。
「コウキ!馬鹿な事してないでさっさと行くわよ」
「痛てーよ」
「痛てーよ、じゃないわよ!みんな先に行っちゃったわよ?」
「わかってるって。あ、お嬢さんたち次に会う時までにさっきの話考えといてね」
青年はそう言ってものすごい速さで駆けて行った。残された女性も「さっきはごめんね。あと魔物の討伐ありがとう」と言い残し青年と変わらない速度で後を追って行った。
「な、なんだったのでしょうか?」
「わからないけど、あの人たちめちゃくちゃ強いよ」
ティアは魔眼(リナ命名)でさっきの二人を確認していたのでその実力の一部を理解していた。
「ティアさんがそう言うなら間違いないんでしょう。さ、ボクたちは今のうちに戻りましょうか」
「うん」
二人はその場を後にし待ち合わせの場所に向かうことにした。道中、何度か魔物に襲われたが難なく対処しながらすすんでいると突然リナが足を止めた。
「どうしたの?」
リナの行動を不思議に思ったティアが問いかける。
「いえ、今何か聞こえませんでしたか?」
リナの言葉にティアも耳を澄ませるが何も聞こえてはこなかった。
「何も聞こえないよ」
「いえ、そんなはずは」
「・・・か・・・・ん・・・い・・・の」
「ほら、また聞こえました」
リナはそう言うがティアには全く聞こえていない。
「これは、呼んでるのでしょうか?」
リナはそう言うと突然走り出した。
「リナちゃん!?」
突然走り出したリナに驚きながらティアも追いかけるように走りだした。
リナが声が聞こえる方向へ走っていくと、そこはこの町の領主、辺境伯の屋敷と思われる場所だった。
「ここは・・・」
この場所は、教会からと言うよりは町から少し離れた場所に造られた屋敷だった。
「ここから声が聞こえるの?」
「はい。この屋敷の中からだと思います」
リナはどうしてもこの声が気になり無理も承知でティアにこの先に進むことを提案するとティアは二つ返事で了承した。
「ありがとうございます」
「いいんだよ。リナちゃんが言ってる声ってもの気になるしね」
二人は警戒しながらも施錠されていない屋敷の扉を開いて行った。
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