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魔王と言う存在

「へ~、魔王が現れたのね」



 リナがセンテリスに行くことを伝えるとソファーに横になりながらアルカは興味がなさそうにそう答えた。

 ダンジョンの中は一ヶ月に比べると大部分に変化はないのだが、奥の一角に生活スペースのような場所が出来上がっていた。



「いえ、魔王が現れたのかもしれないと言う話で、まだ本当に現れたのかはまだ分からないらしいです」

「まあどうでも良いんだけど気をつけなさいよ?まだ修業は全然進んでないんだから」



 アルカの言う通りリナの修業は予定より進みが遅く、未だに威力が弱くなるが下級魔法の無詠唱を習得したところだった。

 その事に関してはリナは不甲斐無さを感じていたのだが、実際には無詠唱で魔法が使えるようになるためには少なくても数年の修業が必要になるのだが、リナは一ヶ月で下級魔法とはいえ無詠唱を習得出来た事から、リナは優秀には違いなかった。

 確かに修行の遅れを感じていたリナはアルカが反対するなら今回の依頼を見送る事も考え始めた。



「あ、あのアルカさん」

「何?」

「ボクがセンテリスに行くことに反対なのでしょうか?」

「別にそんなことはないわよ・・」



 いつものアルカはリナの修業の進行がどれだけ遅くとも不機嫌になる事は無くしっかりと見てくれていたのだが、今日はリナがセンテリスに行くことを伝えてから徐々に不機嫌になっているようだった。

 そこでリナは不機嫌の原因になっているであろう事を聞くことにした。



「やっぱりセンテリスに行くのは反対なのでしょうか?」

「・・・だ、だって、センテリスに行くってことはその・・しばらく会えないんでしょ?そんなの嫌よ」

「え?え?」



 アルカは頬を膨らませてまるで駄々っ子の様にリナの服を掴んだ。

 リナがアルカの突然の変わり様に驚いていると、小さくなっているヴィトニルがため息をつきながら現れた。



「すまんなリナ殿、アルカ姉はこれで極度の寂しがり屋なのだ」

「うるさい。別に寂しいわけじゃないわよ!その、あれよ、リナが心配なだけよ」

「嘘は良くないぞアルカ姉。我は知っているのだぞ?リナ殿が三日と来なかった時はリナ殿を強制的に呼び出そうとしていたであろう。前もそうだった喋る相手が欲しいからと・・・」

「う、うるさーい!!リ、リナ!?ヴィトニルが言ってたことは嘘だからね?」



 愚痴をこぼし始めたヴィトニルをアルカは魔法で思いっきり吹き飛ばした。

 狼狽しながら身振り手振りで誤魔化し始めるアルカ。



「リ、リナ?あ、あれよその・・ま、魔王には気をつけなさいね?」

「え?・・は、はい」



 アルカは引きつった声を出しながらも冷静を取り戻していった。

 落ち着きを取り戻したアルカはリナを横目で見ながら少し恥ずかしそうに腕を組んだ。

 


「それにしてもリナ魔王がいるかも知れないのに、いつもに比べて随分と落ち着いているわね」

「そうでしょうか?まあボク達は直接魔王と戦うつもりはありませんし、危険を感じたらすぐ逃げるつもりですからそう見えるのかもしれません」

「まあそれが正解ね。・・・そう言えばリナって魔王がどんな存在なのかは知ってたんだ」



 リナはメイルに聞いた情報を伝えるとアルカは首を振ってそれを否定した。



「確かに魔王は魔物を統べる存在だけど、それだけの認識では危険よ」

「どういう事ですか?」



 リナとしては魔王は二の次でセンテリスに現れたという旅人の方が気になっていたのだがアルカが真剣に注意してくるので多少の緊張感が生まれてきていた。

 魔王の事について話すのに立ち話ではなんだと二人はアルカが出現させたテーブルについてから話を始めた。

 


「魔王ってのはね、高い魔力を持つ者の心が壊れて初めて生まれる存在と考えられているの」

「心が壊れて生まれる・・」

「うん、それで魔王は壊れた心を埋めるために別の何かを心に入れるんだけど、その何かが原因で常識では考えられない魔法や業を習得している個体がいるのよ。でもね、普通は魔王になるほど心が不安定になることは無いの。ただ・・」

「ただ?」

「・・そうね。最初に魔王の事について詳しくに教えておきましょうか。まあこれは私の憶測も入って来るんだけどね」



 アルカはそう前置きをしてゆっくりと魔王の事について語り始めた。



「まず魔王って言うのはね昔、本当に昔はこの世界にはいなかったの。でも何千年も前に突然ある土地から強大な力を持った者が配下の人間や魔物を引き連れて表舞台に現れたの。そしてその者は何かに固執するように世界制服を始めた。当時、世界のほとんどの地域はその者に支配されてしまったのだけど、突然現れた勇者と呼ばれた者達によってその者が討伐されて世界は助かった。これが最初の魔王が現れた時のお話。それから各地で魔王と同じ力を持った者が出現を始めたの、同じ力と言っても最初の魔王に比べたら数段も弱い魔王だったから勇者でなくても討伐することは可能だった。それに最初の魔王とは違って世界征服をしない魔王や自ら討伐をされる事を望む魔王が現れたりしたの。もちろん魔王は危険な存在だからどのような魔王であれすべて討伐されていったの。でもね、ある時に魔王を討伐した一人が気づいてしまったのよ。討伐した魔王が自身の友人だったと言う事に。それに気づいた人が勇者に魔王がどうやって生まれるのかを問いかけると、勇者が語ったのは魔王とは心が壊れてしまった者が何かを取り入れて変わり果てた姿だという事しか語らなかった。当時の勇者にはなぜ各地で魔王が現れ始めたのかが分らなかったみたい。普通は魔王になるほど心が壊れることは無いことだと知っていたらしいから・・・って言うのが今、一部の人が知っている魔王の真実。一般的には人が魔王に変化している可能性があるから、ただ魔物を統べる者という事にしているみたいね。ここまでが魔王についてのお話。何か質問あるかな?」

「いえ、大丈夫です」



 リナが首を振るとアルカは説明を続けた。



「じゃあ続けるわね、まあここからが私の憶測も入って来るんだけどね。えっと魔王の生まれの事になるんだけどね、さっきも言ったけど人の心が壊れても魔王に変わることなんてありえない。でも意図的に、人工的に変化させることは可能かもしれないと私は考えているの」

「意図的にですか?」

「ええ、これまで魔王が現れている場所は最初の魔王を除いて、必ず何かしらの価値のある土地に出現しているのよ。それを踏まえて何者かの意図があっての魔王出現と仮定すると私としては納得出来る説明になるの。もちろんこれはあくまでも私の憶測でしかないから真実かはわからない。でも、もしこれが真実だったとしたら今回の魔王の出現も偶然じゃないことになるわけ」

「そうですね・・」



 リナはアルカの言う事を何故か正しいと認識していた。



(何者かによって魔王が生み出されているですか・・・)



 リナは頭に何か引っかかりを感じていたのだがそれが何なのか思い出すことが出来なかった。

 思い出そうと頭を悩ませているリナを見たアルカはリナが魔王をどうにかしようと考えているんじゅないかと勘違いしてリナの肩をつかんでさらに注意を促した。



「いいリナ?もし行き先に魔王がいたらまず逃げなさい。今の貴女は一番弱い魔王でも苦戦してしまうわ」

「は、はい。わかっています」



 体を激しく揺さぶられてしまったリナは何とかアルカを宥めてやっとの事で解放してもらった頃には頭の中にあった引っかかりを忘れてしまっていた。

 アルカへの報告も終わったので宿に戻ろうと立ち上がるとアルカが慌ててリナを引き留めた。



「も、もう帰るの?」

「はい。明日の朝に出発するのでそろそろ宿に戻ろうかと」

「もうちょっといなさい」

「へ?」

「もうちょっといなさい」

「は、はい」



 アルカの圧力に気圧されたリナはもうしばらくダンジョンに留まる事になった。

 日が暮れるまでヴィトニルを交えてとりとめのない話をしていたのだが、流石に日が暮れて来たので帰ることを伝えるとやはりアルカが駄々をこね始めたのだが何とか解放してもらえることになった。



「じゃあくれぐれも気をつけなさいよ」

「はい、ありがとうございます」



 リナが深々と頭を下げると足元に魔法陣が現れている事に気が付いた。



「え?アルカさん」

「もう日も暮れてるからね。・・いってらっしゃい、リナ」



 転移の魔法が発動するとリナはアレントの近くへ飛ばされていた。

 いきなり飛ばされたリナは落ち着きを取り戻してからアレントに入って宿を目指した。



(まったくアルカさんはいつもいきなりなんですから・・そう言えば何でアルカさんは転移魔法を使えるんでしょう?)



 リナは今まで当然の様にアルカに転移させられていたのだが、転移は転移結晶が無いと出来ないのがAFでの常識だった。アルカが当然の様に転移魔法を使っていたから今まで不思議に思うことは無かったのだがよく考えてみると不思議で仕方がなかった。



(まあセンテリスから帰ってから聞くことにしましょう)



 リナは今考えても仕方がないと結論付けて考える事をやめて宿へと戻っていった。

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