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宿屋の少年

「あれからもう3か月ですか・・・」



 リナはエクラドの城から転移結晶を使って逃げた際ある森の中に転移したのだが、今は情報収集の為にティルブエ国の冒険者の町ガラドを拠点として活動していた。

 ガラドの町は王都の街に比べると小さいがそれでもそこそこ大きな町で他国からも冒険者が集まってくる町で身分を隠しながら生活するのには最適な町であった。

 リナはガラドで冒険者として登録していた。

 もちろん自分が王族ということは隠し魔法使いとして。



 冒険者は冒険者ギルドで依頼を受けて依頼をこなす仕事で、依頼には薬草の採取や家の掃除など簡単なものもあれば魔物の討伐や危険地域の見回り、盗賊の駆除などの死にもつながる依頼がある。

 ただし冒険者にはランクがありランクが高いほど難しく危険な依頼が設定されている。冒険者ランクはある程度依頼をこなすとギルドでランクアップの試験を受けることができ、合格して初めてランクアップすることができる。

 リナの冒険者ランクはEランク。下から二番目のランクだった。本来ならもっと上のランクになれるのだが、リナは自分が目立つことが苦手でありことや、万が一にでも自分の居場所がクレフやネスタ達に伝わることを恐れてあえて低ランクで過ごしていた。



「冒険者として過ごしてきましたけど元プレイヤーの人とは全然出会わないですね」



 冒険者ギルドから戻ったリナは汗を流すために湯船に浸かっていた。

 リナは長い間一人で過ごしていたために独り言をいう癖がついてしまっていた。



「もうこの世界が現実の世界なのはわかっているのですが、こちらに来たのがボク一人だけということはたぶん無いはずですからね」



 リナはこの世界に来ているのは自分だけではなく他のプレイヤーも来ていると考えていた。

 この世界の住人はNPCの人たちの他に元々プレイヤー人が全くの別人になって生きている。

 しかしリナは自分のようにゲームのアバターのままこの世界に来てしまった人も必ずいるはずだと思いガラドの町で探していた。

 元プレイヤーはほとんどの場合魔物を狩るなどのクエストをこなしているはずなので冒険者になってる可能性が高いと踏んでいたからだ。



「ボクみたいに力を隠していなければ元プレイヤーなら噂になるはずですしこれからも頑張りましょう!!」



 リナは気合を入れて張り切ってはいるが、元プレイヤーの平均的な実力はリナが思っている以上に低いことを元トッププレイヤーのリナが気づくのはもう少し後の事だった。



「おーい、リナ姉。いないのかぁ?」



 体も温まりそろそろ休もうかと浴槽から出たところで外からリナを呼ぶ声が聞こえた。



「すぐに行きますから少し待ってください」



 声の主の見当がついていたリナはタオルを体に巻くとそのまま玄関の扉をあけた。



「お待たせしました」

「遅いよリナね・・・え・・?」



 リナを呼びに来た少年サムはタオルを巻いただけのほぼ半裸の状態のリナを見て顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。



「サム君?どうかしましたか?」



 リナは固まってしまったサムを見て不思議そうに首をかしげてサムの顔を覗き込んだり顔の前で手を振ったりしていた。

 固まってしまっていたサムだったがようやく持ち直してリナに説教をはじめた。



「リナ姉!もうちょっと女の自覚を持てって母ちゃんにも言われてただろうが。なんで裸で出てくるんだよ」

「は、裸じゃありませんよ。ほらタオル巻いてます」



 リナは見せつけるように体に巻かれたタオルに指をさすが・・・



「あっ」



 その瞬間タオルがひらりと床に落ちた。



「っっっっ!」

「落ちちゃいました」

「いいからさっさと服を着ろおおおおお」



 サムに怒られたリナはすぐに外着に着替えてから外で待っていたサムを部屋に招き入れた。

 サムはリナが借りている宿舎の女将の息子でリナよりも二つ年下の12歳の少年だった。

 少し口の悪いところはあるが仕事熱心で宿に泊まっている人とも交流をしっかり持っている。

 ただリナに対しては歳が近いこともあってか他の客よりも砕けて話すことが多かった。



「ったく。ちょっと前まであんなに人見知りだったくせに何で男の前で裸になっても平気なんだよ。わけわかんねぇ」

「平気というわけではないですよ?タオル巻いてましたし」

「あんな恰好で出てくる女見たことねぇよ」

「あれはお風呂から出てすぐでしたしサム君なのはわかってましたから」

「俺ってわかっててもあんな恰好で出てくんなよ」

「ご、ごめんなさい」

「はぁ・・・」



 サムは大きくため息をつくとジト目でリナを見つめた。



「リナ姉ってさぁ昔からそんなだったの?」

「そんなって?」

「男に対して無防備というか危機感がねぇっていうかさ」

「そ、そんなことないですよ」



 リナも昔は元々ゲームだったこともあってアバターの裸を見られることに特に抵抗があったわけではないが最近は14歳の少女らしくある程度の羞恥心を持っていたのだが、今回は年下の子供ということもあってそのままの恰好で出てきてしまったのだった。



「そ、そうだ。ボクに何か用事だったんじゃないんですか?」

「あ?ああ母ちゃんが呼んでたんだよ。部屋で待ってるってさ」

「マチさんが?なんの用でしょう?」

「さあ、俺は何も聞いてねぇな。とにかくちゃんと伝えたからな」

「うん。ありがとうございます」



 サムが仕事に戻っていくのを見送ってからリナはマチの部屋に向かった。

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