修行開始?
翌日の朝、二人は昨日と同じボーンラビットの討伐の依頼があったのですぐに終わるだろうと依頼を受けた。
森に着くと早速ボーンラビットを探していたのだが、やはりなかなか見つからなかったので結局森の奥近くまで入っていくことになった。
しばらく探索していると数匹のボーンラビットを見つけることが出来たのでリナたちはすぐに討伐して袋に詰めることにした。
「どうしたの?」
作業中しきりにキョロキョロと辺りを見ていたリナの行動に疑問を持ったティアがそう聞くとリナは少し慌てながら「なんでもないですよ」と言って作業に戻った。
お昼前には街に戻って来れたので依頼完了の登録を終わらせてから一度宿に戻って昼食を取ることになった。
「私はこれからヴェストレームさんの所だけどリナちゃんは今日はどうするの?」
「ボクは街に出てみようかと思ってます」
「そっか・・面白そうな場所があったら教えてね」
「はい」
二人はティアの約束のある時間まで談笑を続けた。
「じゃあ行ってくるね」
「はい」「頑張るにゃ」
時間が来たので出かけるティアをリナと談笑に加わっていたトキが見送った。
ティアの姿が見えなくなったところでトキがこっそりと袋をリナに渡した。
「はいこれ、何でティアちゃんに隠すのかはわからにゃいけど頼まれてた物にゃ」
「ありがとうございます」
「何かわからにゃいけど、危にゃいことはしちゃ駄目にゃ」
「は、はい」
トキから袋を受け取ったリナはその足で昨日訪れた森の奥の崖へと向かった。
今朝確認していた通り人が通らない道を進みながらも、道中ずっとリナは崖付近に人が向かっていないのを確認しながら進んでいく。
これから行うことを人に見られるわけにはいかない為、仕方がないことなのだがリナはティアとは違って他人の魔力を感知することが出来ないので警戒しながらでは進む速度は予定よりも遅くなってしまっていた。
ようやく崖にたどり着いたリナはもう一度周りを確認してから魔法を唱えた。
「『氷精よ、我に力を与えよ、アイスキューブ!!』」
リナは同じ魔法を何度も放ち氷の階段を作っていく。
「これで下までいけますね」
リナは崖の下で魔法の特訓をしようと考えていた。万が一でも自分の事を他人に見られてしまったら悪目立ちしてしまうのは間違いないので絶対に人目につかない場所はここしかなかったのだ。
ようやく崖の下に到着したリナは早速特訓を開始するつもりだったのだが、到着した崖底の岩壁に大きな穴が目に入りリナの興味を引いてしまった。
「なんでしょうこの洞窟は、何かのダンジョンでしょうか?」
リナが穴の入り口から奥を覗いてみても真っ暗でよく見えなかった。
この洞窟はどれだけの危険があるか分らなかったのだが、この洞窟の奥での特訓だったら辺りを気にせずにできることは間違いない。
こんな洞窟に入っていくことにはかなりの抵抗があるリナだったが人に見られる可能性と洞窟の探索を天秤にかけたリナは洞窟の探索をして奥で特訓することに決めた。
「とにかく照明石を作ってからですね」
リナはアイテム袋から最近集めた素材を取り出して照明石を5分もかからずに作り上げた。
照明石は名の通り光を発する魔道具で、魔力を注ぎ込むことで使用することが出来るのだが一度日光に当たると使用できないと言うある意味使い捨てのような道具だった。
(この洞窟でしか使いませんし大丈夫でしょう)
リナは照明石をあたりに落ちていた木の枝に括り付けて洞窟の探索へと入って行った。
洞窟に入っていくとしばらくは直線の一本道で何も無かったのだが突き当りに大きな扉があった。
「この扉は・・・」
リナはこの扉に見覚えがあった。
AFの頃、あらゆる場所にダンジョンが存在していた。ダンジョンはボスが倒されると消滅しまたあらたな場所にダンジョンが生まれるというプレイヤーを飽きさせない作りになっていた。
当時あらゆるプレイヤーがダンジョンを攻略していたのだが、極稀に生まれるダンジョンにエリアボスと言われる強力な魔物が存在していた場所があった。
そこは総じて道中に魔物の姿はなくボス部屋のみのダンジョンでその奥にいる魔物は一般のプレイヤーでは倒すことが出来ないほどの超強力な魔物だった。
そして今リナの目の前にある大きな扉は昔見たエリアボスダンジョンにあるそれだった。
(エリアボスですか・・・)
実際リナもエリアボスと何度も戦った事がある。しかしそれはクレフ達と一緒に攻略したものだった。一度だけクレフ達と出会う前にリナ一人で挑んだことがあるのだが、かなりの苦戦でギリギリでの勝利だったことを覚えている。
「AFだったら死んでもリスポーンするだけでしょうけど今は・・・」
さすがのリナも今の状態でエリアボスに挑む勇気はなかった。
ここはあきらめてこのダンジョンから立ち去ろうとしたまさにその時だった。
突然扉が開き始めたと思ったら洞窟の入り口から突風が入り込みリナの体を扉の奥へと吹き飛ばしてしまった。
「くっ」
飛ばされた部屋の中は暗く手に持っていた明かりも潰れてしまっていてここにどんな魔物がいるのかまったくわからい状態だった。
すぐに危険と判断したリナは急いで立ち上がり念のため余分に作っていた照明石を取り出そうとしたとき、リナの前方に自身を見つめる大きな赤い瞳が自身を見つめている事に気が付いた。
「あっ・・・」
リナは察してしまった。
この魔物に勝つことはできない。
姿は全く見えないがこの瞳と目があった瞬間リナは今まで感じたことがない恐怖を感じてしまった。
それは目の前のこの赤い瞳の魔物は自信を容易に殺すことが出来る。感じたのはただその一点のみ。それはどこかに活路や逃げ道など探す余地もない圧倒的なまでの力の差をリナの心に叩きつけた。
自分はここで死んでしまう。そう察してしまったリナは腰が抜けたようにその場に座り込みその赤い瞳を見上げることしか出来なかった。
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