始動
リナ達が宿を利用し始めてから二日に日時が経過していた。二人はティアの冒険者登録が出来ていなかったので、この二日間はトキの手伝いをしながら過ごしていた。
トキの手伝いをしながらだったのでティアはトキと仲良くなったのだが、リナはまだティアと同じように接することはできないでいた。
「ん~リナちゃん私とかおばあ様の時はすぐに慣れてくれたのに何で今回はこんなにかかってるのかな?」
ティアは朝食を取りながらふとそうこぼした。
その様子にリナも困った表情を見せながら食事を口に運んでいく。
リナはあの時は緊急時でもあったのでそんなことを考えている暇がなかったのではないかと結論付けていたのだが、そのことをわざわざティアに伝えるつもりはなかった。
二人が朝食を終えて今日の相談を始めようとしたと所で、食堂の出入り口にこの宿では見かけない男性が訪れた。
トキがその男性に対応していると二人の会話からティアの名前が上がっていた。
「あれ?どうしたのかにゃ?」
「トキさん朝早くから失礼します。シェスティア様はいらっしゃいますか?」
「ティアちゃん?ティアちゃんならそこで食事してるにゃ」
トキは男性をリナ達が食事をとっているテーブルに案内した。
「この人がティアちゃんに用事があるみたいにゃ」
「お食事中に申し訳ありません。シェスティア様は?」
「あ、はい、私です」
ティアがそう答えると男性は頭を下げて丁寧に挨拶を始めた。
「シェスティア様、私は冒険者ギルドの職員です。先日の試験の結果が出ましたので、ギルドに足を運んでいただきますようにお知らせに参りました」
「ありがとうございます」
ティアがお礼を返すと職員は懐から書類を取り出した。
「ギルドに来ていただけましたらこちらの書類を受付の者に渡してください。職員がすぐに対応いたしますのでよろしくお願いします」
職員は書類を渡すと次の仕事があるからとすぐにその場から立ち去って行った。
それを見送った二人は早速渡された書類に目を通した。
「・・・なんだろこれ?」
「たぶん何かの暗号のようなものだと思います」
二人は読めない書類に疑問符を受けべながらも早速ギルドに向かうために早く食事を取ることにした。
時刻は10時ごろ早速二人は冒険者ギルドにやって来た。呼び出されたのはティアだけだったので、リナはこの街付近で受けられる簡単な依頼を確認をするために別行動をとることにした。
リナと別れたティアはあたりを見渡してメイルの姿を探したが見当たらなかったので、空いていたカウンターの受付嬢に朝に渡された書類を手渡した。
「すみません。朝にこれを渡されたんですけど」
書類を受け取った受付嬢は書類の内容の確認を始めた。
「少々お待ちください」
一通り書類の確認を終えた受付嬢は、そう言って奥へと消えていった。しばらくすると足早にメイルが駆けつけてきた。
「ティア様、おはようございます」
「おはよう。さっき受付の人に書類を渡したんだけど」
「はい承っております。別室でお話がありますのでご案内いたします」
案内の為にカウンターから出てきたメイルはティアの後ろをチラッと見ると何かを探すかのようにあたりの確認を始めた。
「本日はリナ様はいらっしゃらないのでしょうか?」
「一緒に来てるよ?ほらあそこに」
ティアはテーブルの方を見てリナのいる方向に指をさす。
「でもどうして?」
「今回のお話にぜひリナ様も来ていただきたいとの事でしたので、よろしければご同行をお願いしていただいてもよろしいですか?」
「ん、まあいいけど」
ティアは何となく腑に落ちなかったがメイルのいう事だし問題はないだろうと判断してリナも連れていくことにした。
ティアからの説明を受けたリナだったがティアの話では要領を得なかったのでどうするか迷っていたのだが、遠くでリナに頭を下げていたメイルを見てしまったので仕方なく付いて行くことにした。
二人がメイルに案内されたのは以前ティアが案内された部屋と同じ場所だった。
部屋に入るとすでにヴェストレームが腰かけて二人を待っていた。
ティアは一度訪れた部屋だったので特に警戒無く入っていったのだが、リナは初めて入る部屋とあまり接点のないヴェストレームとメイルに警戒しながら部屋へと足を踏み入れた。
「ようこそお二人とも、さあ早速こちらにお座りください」
二人がソファーに座るとメイルもヴェストレームの後ろに控えた。
重苦しい空気が流れる中ヴェストレームが口火を切った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今回はティアさんの冒険者カードが出来たことの報告がメインのお話になりますので」
「えっ?」
ヴェストレームの言葉にティアは喜びを隠せず身を乗り出した。
「そ、そんなに慌てないでください。カードは逃げたりしないですよ・・ほら」
ヴェストレームはそう言ってギルドカードをテーブルの上に出した。
「どうぞ手に取ってください」
じっとカードを見つめるティアにヴェストレームはそう声をかけた。
ティアは震える手でカードを手に取ると満面の笑みで喜んだ。
「やったこれで私も冒険者だ!ほらリナちゃん見てみて」
「はい。おめでとうございます」
「よかった~実はずっと不安だったんだ~・・・あれ?」
嬉しそうにカードを見つめていたティアの表情が変わった。
不思議に思ったリナがどうしたのか尋ねてみるとティアは自身のカードをリナに見せた。
「ほら見てここ『Dランク冒険者』って書いてある」
ティアがそう言うとリナの言葉の前にヴェストレームが言葉を返した。
「はい、シェスティアさんは試験に合格しましたのでDランクからのスタートになりました」
「え?」
ティアのポカンとした表情を見たヴェストレームは控えていたメイルの方向を見つめた。
「・・・あっ」
メイルは小さくそう呟くと気まずそうにヴェストレームから視線をそらした。
ヴェストレームはジト目でメイルを見つめていたのだが諦めたようにため息をついて二人に振り返ると説明を追加した。
「申し訳ない。説明がなかったみたいなので説明させてもらうんだけ、この間シェスティアさんに受けてもらった試験はランクアップの試験だったんだ。それに合格したシェスティアさんは無事にDランクとして冒険者をスタートしてもらうことになったんだけど・・」
「申し訳ありませんでした。このギルドでは珍しい将来有望な方が来ましたので、私も思わず舞い上がってしまっていまして説明を失念しておりました」
メイルがそう言って頭を下げとティアも大丈夫と手を振った。
「ま、まあ多少トラブルがありましたが今回のランクについての注意点がありますのでリナさんにもご足労頂いたわけです。まずは今回シェスティアさんはDランクからのスタートとなりますが、最初のいくつかの依頼は一つ下のランクであるEランクの依頼しか受けることが出来ません。これは冒険者としての実力は大丈夫なのですがしっかりと依頼を遂行できるかの確認のためになります。次にお二人はパーティを組むのですよね?」
「はい。そのつもりです」
「リナさんはパーティについての注意点はご存知ですか?」
ヴェストレームの質問にリナは首を横に振った。リナは今まですべての依頼を一人で受けていた為、パーティでの注意点は一切知らなかったのである。
「そんなに難しいことではないのですが、まずパーティを組むにあたって冒険者同士のランクは特に問題ありません。ただし依頼を受ける際はパーティのランクを元に依頼を受けていただきます」
「パーティのランク?」
「はい。今回ですとリナさんがEランク、シェスティアさんがDランクなのでパーティのランクはDなります。これはパーティメンバーの平均のランクを取ります。これがパーティのランクとなります。もう一つ重大な事なのですが、パーティを組んで依頼を受ける際、通常でしたら依頼に応じてランクアップの成功回数が増えていくのですが、パーティですと依頼の内容によっては増えない場合もありますのでご了承ください」
「え?なんで増えないの?」
リナは今の説明で納得いった様子だったのだが、ティアは疑問を口にしたのだがそれにメイルが答えた。
「これは実力に合わないランクを付けないようにするために行っています。ランクが高い依頼になりますとその分危険で失敗も許されなくなっていきます。それなのに実力が無いのにも関わらずに高ランクに上がってしまいますと任務の失敗だけでは無く命を落としてしまう事もありますのでその予防の為です」
ティアはメイルの説明を聞いてパーティの事について納得すると、続けて冒険者についての事をヴェストレームから説明を受けることになった。
リナはその説明は聞く必要がなかったので横目にそれを眺めていたのだが、視線の端でメイルが手招きしているのが見えたのでゆっくりと立ち上がりメイルに近づいた。
リナのメイルに対しての警戒は先程のミスをしたときの反応やティアが仲良くしてるところから少し薄れていた。
「・・えっと、なにかありましたか?」
リナがそう聞くとメイルはリナの耳元でささやいた。
「リナ様の冒険者ランクはEランクなのですが成功規定回数を満たしていましたので試験を受けることが出来ますが受けますか?」
「あっ、えっと、今回は見送ることにしています。前のギルドでもそう言ってましたので大丈夫です」
リナがそう答えるとメイルはそうですかと微笑むともう一度リナに近づいた。
「リナ様、大変不躾な事ですが、太腿のその刻印はご自分で?」
「え?いやえっと、これは」
リナは突然アンジェに付けられた刻印の事を指摘されてどう答えるか困っているとメイルがさらに言葉を続けた。
「このあたりでは刻印を目印にした賊もいますので間違われないよう隠していたほうが賢明かと思われます」
「あ、そう言ってなんですか。ありがとうございます」
刻印の事を話すか迷っていたリナだったがメイルの親切心での指摘だったので素直に受け入れた。
蝶の刻印で賊に間違われるのは嫌だったのでメイルの注意を聞いてすぐに隠す事に決めた。
リナはアイテム袋から包帯を取り出すと太腿に巻き付け始めたのだが碌に包帯を使ったことが無いリナは包帯を巻くのに苦戦してしまった。それを見たメイルが自分が巻くと包帯を預かり丁寧に説明を踏まえながらリナの太腿に巻き付けた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、もし次もわからなければ宿にいるトキさんにでも聞いていただければ教えてくれるはずです」
そうしているうちにヴェストレームの話が終わったのかティアが手招きをしていた。
リナがティアの隣に戻るとテーブルの上にいくつかの依頼書が並べられていた。
「これは?」
「私たちのランクで受けられる手ごろな依頼なんだって。せっかくだし何か受けようよ」
「そうですね・・」
リナは広げられた依頼を確認していくと基本的には採取の依頼だったのだが何枚か魔物の一匹の討伐も含まれていた。リナとしては採取の依頼が望ましかったのだがティアの事も考えてボーンラビットの討伐にした。
ヴェストレームはリナが決めた依頼書を受け取るとそれをメイルに渡し登録するように言い渡した。
今回の用事は済んだのでこれで解散と言う事になったのだが別れ際にヴェストレームがティアに声をかけた。
「シェスティアさん、この前の話の事なんだけど、もしよかったら明日から始められるけど、どうだい?」
「はい!お願いします!!」
「じゃあ明日の午後、受付に言ってくれれば案内するように伝えておくから」
「わかりました!!」
ヴェストレーム達と別れた二人はギルドから出ると早速依頼遂行のために街の外に出ることにした。
「・・ティアさんこの前の話って何の事ですか?」
「え?ああ言ってなかったっけ?前の試験の後にヴェストレームさんから接近戦闘を教えてくれるって言っててね。私も興味あるし今後を考えて鍛えてもらおうと思ってね」
「そうだったんですか」
「あ、リナちゃんも一緒にどう?」
「いえ、ボクもやりたいことがありましたので」
「そっか、まあ頑張ってリナちゃんに追いつけるようにするからね」
「はい。頑張ってください」
「うん!!」
ティアはそう言って気合を入れて駆け出していった。
「あっティアさん待ってください」
リナもそれを追いかけるように走り出した。
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