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リナの不安と地図

 ギルドを出た二人はティアの案内でギルド運営の宿に向かっていた。



「ここを曲がったらすぐにあるみたいだよ」

「・・・はい」



 地図に従って道を進んでいくと他の建物に比べると真新しい綺麗な宿にたどり着いた。



 宿の中に入ると店主らしき猫人の女性がカウンターで険しい表情で台帳を確認していた。

 店主は二人が入ってきたことに気が付くと台帳を閉じて笑顔を作り二人を迎えた。



「ようこそ、二人ですかにゃ?」

「はい」



 猫人の主人にティアが答えた。



「ここは冒険者専用の宿だけど二人は冒険者なのかにゃ?」

「えっと私はまだ冒険者じゃないんですけどリナちゃんは冒険者です」



 ティアがそう言ってリナに視線を移すとリナは懐から冒険者カードを取り出した。



「んん~?リナって言うと、じゃあ君がシェスティアかにゃ?」

「そうですけど?」

「おっけ~にゃ、二人の事はメイルから聞いてるにゃ」

「メイルから?」

「そうにゃ、胸のおっきな娘とちっこい美少女が来るって言ってたにゃ」

「ええ!?」



 店主の言葉に驚いたティアは思わず自身の胸を両手で覆い隠しリナは美少女と言う言葉に首を傾げていた。



「冗談だにゃ、メイルからは新人って聞いてるだけにゃ」



 店主はカラカラ笑いながら台帳を開くと記入しながら二人に問いかける。



「ここは二人部屋があるけど一人部屋と二人部屋どっちにするにゃ?」

「えっと、ひと」

「二人部屋で!!」



 リナが一人部屋を選ぼうとするとティアが割って入って二人部屋を選択する。



「えっと、ボクは一人部屋の方がいいと思うんですけど・・」

「そんなことないよ。一緒に行動するなら同じ部屋の方が便利だし、それに一人部屋だと二人分の料金だってかかるだろうし・・ですよね?」



 ティアは必死の形相で店主に問いかける。



「あれ?メイルから聞いてないのかにゃ?まあいっか、ここの支払いは冒険者ギルドで受けた依頼から差し引かれるように出来ているのにゃ」

「差し引かれる?」

「ん~っと、まずここの一泊の料金は食事なしでの銀貨3枚にゃ。これは一人部屋も二人部屋も変わらないにゃ・・・まあ一人で二人部屋は選べにゃいけどにゃ。・・・でここでの支払いはギルドの依頼達成報酬から差し引かれるのにゃ。基本は上限二割での払いにゃんだけど、全然依頼を受けてにゃい冒険者は五割まで引かれる可能性があるのにゃ」

「なるほど」

「・・・?」



 店主の説明にリナは頷きティアは首を傾げていた。



「・・・ではそのシステムですとあまり利用者は」

「わかるかにゃ!?そうにゃのにゃ、実力のある冒険者は喜んで使ってくれるけどランクの低い冒険者には人気がにゃいのにゃ」



 店主は涙目になりながらカウンターから身を乗り出していく。



「そうなの?・・じゃあ私たちも使うのまずいんじゃ」



 ティアは店主の言葉によくわからないながら低ランクどころかまだ冒険者にもなっていない自分が利用するのはまずいんじゃないかと言う気になってきていたのだが店主は首を横に振るとそれを否定した。



「そこは大丈夫にゃ、二人分の部屋の料金は一月分はメイルからもう支払われているのにゃ。ただ二人分支払いが入ってるから二人部屋だと二月分ににゃるんだけどどうするにゃ?」



 ティアはチャンスとばかりに顔を輝かせるとリナに詰め寄っていった。



「聞いたよね?二人部屋だと二か月はタダだよ?これは二人部屋にするべきだと思うな・・・どう?」

「え、ええ。それでいいです」



 ティアの剣幕に押されたリナはやむを得ず二人部屋にすることにした。

 二人の会話を着ていた店主は二人部屋の鍵を取り出した。



「はい。これが二人部屋の鍵にゃ、場所は三階の奥の部屋にゃ、三階は女性しか上がれないようになっているから安心するのにゃ」

「ありがとうございます」



 ティアが鍵を受け取る。



「ゆっくりするといいにゃ。・・・あっ食事が必要なら言ってくれれば用意するから遠慮せずに声をかけてほしいにゃ」

「あっ、じゃあ二人分お願いできますか?」

「了解にゃ、奥が食堂になってるから30分後に来てほしいにゃ」

「ありがとうございます」



 二人が部屋へと向かおうとカウンター隣にある階段を上がろうとすると店主が二人を呼び止めた。



「言い忘れてたにゃ。ワタシはトキって名前にゃ、ここの店主兼冒険者をしているからわからないことがあれば相談に乗るからいつでも声をかけてくれてもいいにゃ」



 トキはそう言うとバイバイと手を振って食堂へと歩いて行った。



 リナたちも自身の部屋へと階段をあがり三階の奥の部屋の鍵を開けた。

 扉を開くと部屋にはベッドが二つと二人分の椅子とテーブルがひとつあり奥に一つ扉があるだけの部屋だった。



「・・・なにもないね」

「まあ宿なんてどこもかわりはありませんよ」



 リナがそう言って部屋に入るとティアも続けて入りすぐに奥の扉を開いて入っていった。

 リナが荷物の整理をしているとすぐに戻って来たティアがなにやら落ち込んだ様子で帰って来た。



「どうかしましたか?」

「ん~ん。なにも、向こうはトイレとお風呂だった」



 ティアは扉の奥に期待してたのだろうが奥には普通のトイレと風呂場だけの造りになっていたのでティアの期待にはそえない内容だった。

 ティアはそのままベッドへダイブし頭を枕に埋もれさせていたのだがうつぶせのままリナへ顔を向けて話を切り出した。



「・・・で、リナちゃん何かあった?私が試験から戻ってきてから落ち込んでると言うか少し様子が変だよ?」

「え?・・そ、そんなことないですよ?」

「うそ。いつもと全然違う。リナちゃんを知ってる人にはすぐにわかるよ」



 二人はしばらく見つめ合ったままだったがティアの真剣な眼差しにリナが観念した。



「・・・そんなにわかりやすかったですか?」

「うん、すぐにわかったよ」

「そうですか・・・」



 リナは自分のほっぺを触ると小声で「そんなに顔に出てたでしょうか?」と呟き、ティアがニヤニヤ見ていることに気が付くと、はっと我に返った。



「いえ、別に落ち込んでいたわけじゃないんです」

「じゃあどうしたの?」



 ティアが問いかけるとリナはアイテム袋から地図を取り出すとテーブルに広げてティアが試験を受けていた時のことを話した。






 リナが地図とにらめっこしている時に声をかけてきたのは、ギルドに入った時に声をかけてきた大男だった。

 突然知らない人から声をかけられたリナは動揺してうまく声を出せないでいた。

 すると大男は大きくため息をついた。



「なんだぁ?人が親切に聞いてやってるってのにだんまりか?あぁ?」



 大男は機嫌が悪くなりリナに絡みだしたのだがリナに被害がいくことは無かった。なぜなら・・・



「あんたなにやってんだい!?こんな小さな子に絡んで!!」



 突然大男の頭を叩いた女性がいたからだった。

 リナは再び突然現れた人に動転しながらも大男を叩き続ける女性に若干の恐怖を感じていた。

 しかし女性はそんなリナを見て大男を怖がっていると勘違いをしたまま大男を叩き続けた。



「あんた見た目が良くないんだからもうちょっと言葉使いを良くしなっていつも言ってるでしょ?ほらこの子も怖がってるじゃないか!!」



 リナはその言葉で我に返り大男を叩き続ける女性を何とか止めようと恐る恐る声をかけた。



「あ、あの」

「さっきの依頼もあんたがあんな態度だから・・」

「あの!!」

「ん?ああ、悪かったねお嬢ちゃんうちのが怖がらせちゃって」

「い、いえ大丈夫ですけど・・そろそろやめてあげた方が・・・」

「そうかい?まあ、お嬢ちゃんがそう言うならいいんだけどさ」



 女性はそう言うと手を止めてリナが座っているテーブルに着いた。大男も叩かれた場所を擦りながら同じようにテーブルに着く。



「突然悪かったね。あ、私はベルディーナ、こいつはアントニー。Bランクの冒険者パーティさ。お嬢ちゃんはこの辺では見ない顔だね?冒険者かい?」

「は、はい。ボクはリナと言います。Eランクです」

「そうかい。よろしくね」

「よろしくおねがいします」



 リナとベルディーナが握手しているとアントニーは居心地が悪そうに顔を歪めていた。



「あんたどうしたんだい?」

「なんでもねぇよ」

「変なやつだねぇ」



 ベルディーナはすぐにアントニーから興味をなくしてリナとの会話に戻った。



 ベルディーナから聞いたことは二人は夫婦で冒険者をやっていてさっきまで貴族の護衛の依頼を受けていた事、アントニーの機嫌が悪かったのは貴族と折り合いが悪かったことが原因だった。

 ちなみにベルディーナは30歳前後の人族の女性で青い髪のショートカットの美しい女性で、アントニーは厳つい顔をした二メートル程の背丈でがっしりした筋肉の付いた男だった。リナの一番の驚きはその見た目に反して子供好きでベルディーナよりも年齢が二つ下だという事だった。



「で、こいつが話しかけたってことは何かあったんじゃないのかい?」

「あっ・・」



 リナは言葉に詰まりながらも地図をベルディーナに見せてこのあたりの地形を見たことがないことやエクラドの事を転移してきたことは隠しながら伝えた。



「ん~エクラドか、知らない国名だね。あんた何か知ってるかい?」

「いや俺も聞いたことがないな」

「あんたも知らないとなるとこことは別の大陸かもしれないね」

「別の大陸!?」



 ベルディーナからでたその単語にリナは驚いた。

 AFでは一つの大陸のみしか実装はなく他の大陸の事などは聞いたことがなかったからだ。



(AFになかった大陸。やはりこの世界はAFとは似ているようで違う世界なのかもしれません・・・だとしたらボクはこの世界で一人しか・・・)



 リナの顔色がだんだんと青くなっていることに気が付いたベルディーナは別の情報を伝えた。



「そう言えば前にも大陸がどうなど話している奴がいたね」

「ああ、あの頭のおかしな男か」



 リナが詳しくその男の事を聞くと、2か月ほど前に王都で聞いたことない国を探している男がいてその男は何も知らないくせにやたらと強い男だったという事だった。

 もしその男がAFのプレイヤーで別の大陸に行ったのなら追いかけるつもりになっているリナにベルディーナが注意する。



「まあ別の大陸に行くのはやめておいた方がいいよ」

「どうしてですか?」

「私は渡ろうとしたことがないから詳しくは知らないけど、いろいろと面倒なことが多いって話だよ」

「そうですか・・」



 リナがそれでもと考えていると遠くからベルディーナたちをギルドの職員が呼んでいた。



「おっともうこんな時間か私たちはそろそろ行くよ」

「あ、ありがとうございました」



 ベルディーナたちはまたなとリナのそばから離れていった。



「・・・別の大陸か」


 

 リナの独り言が聞こえている冒険者は他にもいたが、リナに話しかけようとするものはいなかった。

 実はリナの容姿をみて話しかけようとしていた冒険者は大勢いたがベルディーナと親しく話をしているのを見て話しかける勇気がなくなっていた。

 アントニーはリナの様子が気になって話しかけたのだが、それはそういった視線が多かったことを気にしての事だった。

 そんなことを全く知らないリナは難しい顔をしながら今後の事について考えを深めていっていた。





 リナの話を黙って聞いていたティアは少しむくれた表情になっていた。

 リナはそれに気が付かず地図を指さしながら説明を続けた。



「それでこの地図には記されていないのですが、ここは以前ボクのいた大陸とは別の大陸なのだそうです」

「別の大陸?だっけ?それってどれだけ遠いの?

「詳しくはわからないのですが、すごく遠いとしか・・」

「ん~、遠いのはわかったけど、ごめんリナちゃんまず大陸ってなに?」



 リナの言葉にティアは首を傾げた。ティアはエルトレームの森を出たことがなかったので大陸の意味や海を知らなかったのだった。

 リナが大陸や海の説明をするとティアは目を輝かせて興奮気味げリナに問いかけた。



「じゃ、じゃあその海っていうところにも行くことになるんだね?」

「はい・・・そうなのですが」



 ティアの言葉にリナは歯切れ悪くこたえる。

 そのようすを心配したティアは顔を覗き込むように体制を変えた。

 


「どうしたの?」

「いえ、別の大陸に渡るようなことがあれエルトレームにすぐに帰るという事が出来なくなってしまいますので一緒に行くのは難しくなるのか・・と」

「え?一緒に行くに決まってるよ?」



 ティアは当然でしょ?と首を傾げる。



「で、ですが、ボクの元居た大陸がどれだけ遠いのかわからないですし、それに別の大陸がどれだけ危険かわからないんですよ?」



 リナは簡単についてくると言うティアにどれだけ危険なのかを説明するが、ティアはそれを首を振って否定しリナの手を握り屈みこんで真剣な顔をした。



「リナちゃん、私はこの先ずっと安全だなんて全然考えてないよ。もしかしたらまたアンジェみたいなのに出会って次こそは殺されるかもしれないそんな覚悟で言ってるんだよ。・・・この際だからはっきり言っておくね。リナちゃん私はこれからもずっとリナちゃんについて行くよ。何があってもリナちゃんが付いてこないでって言うまではね。私たち友達なんだから今後そんなことは言わないでね」

「友達・・・」

「うん。友達だよ」



 ティアはそう言ってリナを抱きしめた。

 リナは友達と言う言葉に少し動揺していた。昔からリナはあまり友達がいなかった。そんな自分に友達と言ってくれたティアに嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。

 しばらくしてリナがティアの背中をポンポンと叩くとリナは抱きしめていた手を離した。そしてリナの目の前にいるティアの表情は優しくもあり覚悟が決まっている頼もしい表情でもあった。

 ティアの覚悟を見たリナは頷いた。



「よかった・・・それでこれからどうするの?」

「この地図よりも大きなものを手に入れたいと思うのですが、この地図よりも大きな地図は王都のギルドのような大きな所にしかないみたいなんです。ですがまずここで力をつけてから次に進みたいと思っています」

「そうだね。私も冒険者になれたら依頼を沢山受けたいし」

「はい。まずはここを拠点にして依頼をこなしていきましょう」



 ベルディーナから聞いた面倒なことの詳細は分からないが今の実力ではこの先不安があるのも事実だった。

 リナは自分を友達と言ってくれたティアの為にも力をつけたいと思っていたしティアも同じ気持ちだった。



 今後の方針を決めた二人は待ちくたびれたトキが呼びに来るまで今後の事を話し合った。

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