認証石
ティアは受付嬢の後についてギルドの奥へと歩いていた。
長い廊下を歩いていくと突き当りの部屋の前にたどり着いた。
「ティア様、こちらの部屋で登録を行いますのでお入りください」
受付嬢に入室を促されたティアはそれに従って部屋の中に入った。
部屋の中は広く登録をするための部屋とは思えない、まるで要人を案内するような煌びやかな装飾のされた部屋だった。部屋の中央にあるこれも立派なソファーに促されてティアは席に着いた。
受付嬢はティアに登録用紙を手渡し記入場所の説明を終えると認証石を持ってくると言い残し部屋を出ていった。
一人部屋に残されたティアは渡された用紙に必要事項を記入していった。
(えっと名前の所はシェスティアっと、エルトレームの姓は隠しておくんだったよね)
ティアはリナに言われた通りに自身の名前を隠して記入をしていく。
名前以外は特に隠す必要はなかったのでそのまま素直に記入していった。ちなみに出身の場所については記入場所はなかった。
記入を終えてしばらく待っていると長方形状の石板を手にした受付嬢が戻って来た。
「お待たせいたしました。こちらが認証石になります」
受付嬢がテーブルに置いた認証石をティアがまじまじと見つめると向かいに腰を下ろした受付嬢が説明を続けた。
「こちらの認証石の上に手をかざしていただきますと認証石が反応しティア様の犯罪歴などを確認することが出来ます。万が一過去に犯罪歴がありますとギルドの登録は行えませんし警備兵へ通報させていただきます」
受付嬢の言葉にティアは小さく喉を鳴らした。
緊張の面持ちで話しを聞いているティアに受付嬢が笑いかけると優しい声色で説明を続けた。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。犯罪歴と言いますけども何もしていなければ反応するといった誤作動はありませんので心配せずに手をかざしてください」
ティアは受付嬢の言葉に従って認証石の上に手をかざした。すると認証石がジジジと音を立てると光がティアの手をすり抜けて文字を作り始めた。
光の文字には『犯罪歴:なし』と浮かんでいた。
それを見たティアはフッと息を漏らし受付嬢もそんな様子のティアを見て微笑んでいた。
「ありがとうございます。犯罪歴の確認は完了致しました、一度手を認証石から放してください」
ティアは受付嬢の言葉に従って手を離すと受付嬢は認証石を手に取ると小声で詠唱を行った。
「何をしているんですか?」
気になったティアは受付嬢に質問を投げかけると受付嬢には再びテーブルに認証石を置いて答えを返した。
「認証石の設定を切り替えていました。先程は犯罪歴の確認でしたが今はギルド本部にある認証石の元になっている物に加入者の登録を行う設定に変更いたしました」
「ギルド本部?」
「申し訳ありません本部の事柄や場所に関しては機密事項となりますのでお話することはできません」
「わかりました。でも登録ってどういうことですか?さっき書いたこの紙が登録の用紙じゃないんですか?」
「認証石での登録は重複登録を防ぐための処置として行っていることですが実際にはギルドカードが発行された際にすべてのギルドと連携が取れるために一定の情報の登録を行っています」
「えっと」
「たとえば万が一ギルドカードが盗まれてしまった場合こういった登録を行っていなければ持ち主が一度も行ったことがないギルドで別人がカードを悪用することが出来てしまいます。しかし登録を行っていますとそういった悪用を防ぐことが可能になるという事です」
「登録って何を登録するんですか?」
「加入者の魔力反応ですね。あと自動でその人の人種や性別などが登録されます。ギルドカードは長時間の間魔力反応が別の人が持っている場合その人の魔力反応に変化する性質がありますのでこの登録で悪用を防ぐというわけです」
受付嬢の説明を聞いて表情は変えなかったがティアは先程よりも緊張を強くしていた。
今ティアの姿は完全に人族に見えてはいるがそれはネックレスの効果であってティアは人種的には亜人、エルフだった。今後の行動や面倒ごとを回避するために人族として登録するつもりでいたティアは背中に冷や汗をかいていた。
そんなティアの心境など知らない受付嬢は先程と同じようにティアに登録を促した。ティアもここで変な反応をするのはまずいと思い僅かに震えながら認証石へと手をかざした。
ティアが手をかざすと認証石がまたもやジジジと音を立てると同じように光だしたのだが、光がティアの手をすり抜けたところで先程とは違う反応を見せた。
認証石の光がぶれるとスッと光が消えてしまった。
その光景を見ていた受付嬢は慌てて認証石を手に取った。
「申し訳ありません。少しお待ちください。・・・あれ?問題ない。とりあえずもう一度設定を変更して・・・」
「お待たせいたしました。もう一度手をかざしてください」
促されるままティアは認証石の上に手をかざすと今度は特に変な反応はなくすんなりと光が文字を作り始める。
『魔力反応:XXX、人種:人族、性別:女性』
そう表示された光はしばらく発光すると徐々に消えていき認証石の光は完全に消えてしまった。それを確認した受付嬢は手を離すようにティアに伝えると認証石と登録用紙を手に取りすぐに戻ると言い残し部屋を後にした。
(・・・よかったぁ~。さすがおばあ様のくれた魔道具ホントに正体を隠せるんだね)
ティアが安堵に胸をなでおろしていると受付嬢が戻ってきて部屋に入らずその場で発言した。
「お待たせしました。それでは試験を行いますので会場に案内いたします」
受付嬢の言葉でティアは先程ヴェストレームを紹介されたことを思い出した。
ティアは急いで部屋を出て受付嬢の後について歩いた。
しばらく歩いているとギルドの地下へと向かう階段が見えてきた。
「ここから下へと降ります」
受付嬢はそう言うと突然ティアに向かって頭を下げた。
「いきなりどうしたんですか?」
「いえ、知らなかった事とはいえシェスティア様の事をなれなれしくお呼びしてしまいました。申し訳ありません」
「そんなこと?全然大丈夫ですよ。これからもティアで大丈夫です」
ティアは大きく手を振って今までの呼び方でいいと伝えたのだが受付嬢は頑なに受け入れなかった。
それから歩きながらティアはいろいろと提案したのだがそれでも受付嬢は受け入れなかったのだがティアはあきらめずに提案を続けた。
「ん~、それじゃあ貴女の名前を教えてよ」
「私ですか?私はメイルと申します」
「じゃあメイルさん。私はこれから貴女をメイルって呼ぶから私の事はティアって呼んでよ、じゃないとさっきの謝罪は受け入れないから」
受付嬢メイルはティアの言葉にしばらく悩むような様子を見せると観念した様子でティアの言葉を受け入れた。
「それではこれからもティア様とお呼び致します」
「様もいらないよ?」
「いえ、これは譲れません」
メイルがそうきっぱりと断ったのでティアもそれ以上は何も言わなかった。
そんな話をしていると目的の場所にたどり着いていた。
「ティア様、こちらです」
メイルが大きな扉を開くとそこにはドーム状の広場があった。
「ここは?」
「ここはギルドの地下訓練場です。ここではギルドの職員や警備兵が訓練をしたり今回の様に試験の会場になります」
「試験?」
ティアがメイルにそう聞き返すと別の声で答えが返って来た。
「そうです、実践形式での試験がここでは行われています」
二人が声がした方向へ視線を送るとヴェストレームの姿があった。
メイルはヴェストレームに近づいてくと持っていた用紙を手渡した。それを確認したヴェストレームは突然ティアに頭を下げた。
「えっとまずは申し訳ありません。シェスティアさん先程は愛称でお呼びしてしまいまして」
「いえ別にティアでいいですよ」
「そう言うわけにはいけませんので」
ヴェストレームはにこやかにティアの申し出を躱すとそのまま説明を続けた。
「今回シェスティアさんにはここで僕と戦ってもらいます。もちろん僕が使う武器はこの模擬戦闘ようの剣です。シェスティアさんは弓を使うんでしたよね?」
「はい」
「ではシェスティアさんはそのままお持ちの武器を使ってください」
「わかりました」
一通りの説明を受けてティアは試験の準備を始めた。
弓の状態の確認をして残りの矢の本数の確認それに加え念の為にヴェストレームの魔力の確認も行った。
(ヴェストレームさんの魔力は高くはないけどそれでも私よりも多い。ここで何とか結果を残さないと冒険者になれないし頑張らないと・・)
ヴェストレームの魔力はティアよりも高かったがリナには及ばないほどの物だった。ティアはリナほど強くないのならランクはおそらくリナより低いFランクもしくは一緒のEランクと考えていた。
考え事をしながら準備をしていたティアの表情は緊張でこわばっていたのだがそこにヴェストレームが声をかけた。
「シェスティアさん、そこまで思いつめなくても大丈夫ですよ。これはあくまでも試験です。命のやり取りがあるわけではありません、余計なことは考えずに全力で僕にぶつかってきてください」
ヴェストレームはそう言って自身の試験開始位置へと向かって行った。
ティアもヴェストレームの後姿を確認して指定された場所へと移動した。
「では試験を開始します」
二人が開始位置に着いたのを確認したメイルがそう宣言し試験が開始された。
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