街の冒険者ギルド
「・・・ん、ここは・・・?」
「リナちゃん、よかった目が覚めたんだ」
リナが目を覚ましたのはアンジェが立ち去ってから1時間ほど経ってからだった。
リナは自信を抱きかかえるティアの安堵した表情をみて自分が気絶するまでに起こったことを少しずつ思い出してきていた。
「そうだボクはあの女の人に捕まって・・・そうです!剣で太腿を!!」
リナは勢いよく上半身を起きあげて貫かれた太腿に視線を送った。
「あれ?傷がない・・・あれは夢・・?」
傷跡一つ残っていない太腿を擦りながらさっきまでの出来事が嘘の様に思えてきたリナにティアはゆっくりと何があったのかをリナに語った。
「そう・・ですか・・・さっきの人、アンジェでしたか。あの人がそんなことを」
「うん」
リナはティアから話を聞いていくうちに少しずつ暗くなっていった。
「と、とりあえずリナちゃんも起きたことだし早くこの場所から離れよう?さすがにちょっと気味が悪いし」
今二人がいる場所はさっきアンジェと出会った場所から全く移動していなかった。だがその場所にはアンジェに惨殺された男たちの死体がなかった。
死体はアンジェが立ち去った後、30分ほど経過したころに突然塵となって消えていってしまった。塵となった死体は風に吹かれたのかアンジェが姿を消した方向に飛んで行ってしまっていた。
その様子をリナを抱きかかえながら見ていたティアは自身も動けるようになりリナも目を覚ましたことからすぐにでもこの場から離れたかったのだった。
「それでね、アンジェが別れざまに言ってたのそれは私の物、たぶん所有物って事なのかな?まあそれの証だって」
「そうですか・・・」
移動しながらティアに話を聞いていたリナは自身の太腿に残っていた蝶々の刻印に手を当てていた。
今のところ蝶々の刻印に痛みなどはなくただただアンジェが残したものなのだろうということで一応の納得をすることにしたリナは続けてティアの言葉に耳を傾けた。
「うん、それでねアンジェが続けてこう言ってたよ。早く本気で戦えるようにって、じゃないとリナちゃんの周りの人を殺すみたいなことも言ってたかな」
「その、アンジェがそう言ってたのですか?」
「うん。どういう事なのかな?本気でって。確かに私が視たところリナちゃんは魔力を沢山持ってる。けど手加減しているようには見えないんだけどな~」
「そうですね。確かにああいった命に係わる場面で手加減はしていないですね」
リナはティアの言葉にうなずきながら答えた。
「だよね~」
(たしかにボクは命に係わる場面では手加減なんてしていないです。ですがアンジェがいっているように全力は出したことがありません。と言うよりも出すことが出来ないと言った方が正しいでしょうか。もしかしたらアンジェにはボクの事がバレているかもしれないですね)
リナは自身の今の状態を改めて考えていた。リナの太腿にある蝶々の刻印がある限り今後アンジェと出会う事は避けられない。
リナから見たアンジェの力は現状のリナを圧倒するほどの実力を持っていた。今のままの状態でもしアンジェと出会ってしまったら次は確実に殺されるだろう。
少しでも今以上に戦えるように戦闘経験を積む必要があるとリナは考えた。
「・・・とにかく戦闘経験を積んで強くならないとですね」
「そんな必要ないと思うんだけどな~」
「声出てましたか?」
「うん、聞こえてたよ」
リナがふと漏らした独り言が聞こえていたティアはその言葉を否定した。
「リナちゃんは十分強いんだからそんなに気負う必要はないんじゃないかな?」
「でもこのままだと今度アンジェに見つかったらどうなるか」
「そりゃあの人は怖いけどリナちゃんだって紅蓮龍を倒せるんでしょう?だったら人族くらい大丈夫でしょう」
ティアは今度アンジェに出会ったとしてもリナが負けるとは思っていなかった。あの時は突然の事で後れを取ってしまったが次に会うときは相手の事がわかっているので油断することはない。
それにティアの見立てではアンジェの魔力は少なくリナに遠く及んでいなかった。しかもリナは一匹で国が簡単に滅ぶというあの紅蓮龍を倒し素材を手にしている。ティアたちエルフの仲間でその脅威が伝わっている魔物を倒せる者がそんな二度も同じ相手に負けるとは全く考えていなかった。
「えっとそれはですね・・・」
「あっ、大通りだ!!」
リナが紅蓮龍の事について語ろうとしたとき、ちょうど路地から抜けるとそこには人の行き交いの多い道に出たのだった。
先程まで人気が少なく警戒を解けなかったティアはやっとその空気から脱せてうれしさのあまり小走りで大通りへと駆けていった。
「・・・まあそのうち話せばいいですか」
リナは、嬉しそうにはしゃぐティアを見て少し肩を落としながらそうつぶやいた。
(とにかくまずはギルドの場所を早く確認しないと宿も取れませんね。そうなると聞き込みですか・・・さっき練習しましたけどやっぱり苦手なんですよね)
リナは初めてガラドに着いた時の事を思いだして顔を赤くしていた。
(あの時マチさんがいなかったらボクは・・・)
リナは真っ赤になった顔をブンブンと振ってそのことを必死に頭から消そうとしていた。
「そうだティアさんは?」
またいつものように考え込んでしまって周りに意識がいっていなかったリナはキョロキョロと周りを見渡してティアを探した。
しばらく辺りを見ていると道の端で若い女性に話しかけているティアを見つけた。
「ティアさん、待ってくださいよ」
「あ、リナちゃん」
リナが駆け寄るとティアは女性にお礼を言って別れるとリナの方へと歩み寄った。
「リナちゃん、さっきの人にギルドの場所聞いてきたよ」
「え?あ、ありがとうございます」
リナが苦い思い出に浸っている間にティアがギルドの場所を確認していたのだった。
リナはまた自分が練習という事でやることになると思い込んでいたのでティアの言葉に拍子抜けたのであった。
「あれ?どうかしたの?」
「い、いえ。なんでもないです。そ、それよりも早速ギルドに向かいましょう」
「あ、うん。えっとね。あっちに歩いていくと着くってさ。ちなみにここがアレント中央区の北側で冒険者ギルドは中央区の東側にあるんだってここが中央通りらしいからこの道を進めばいいんだってさ。あとここからそんなに距離はないらしいから先に路地に入って荷物出しておく?」
「そ、そうですね」
行動しだすと有能なティアに驚きながらリナはティアのあとに付いて路地に入っていく。
人がいないのを確認してからリナはアイテム袋から台車と魔物を取り出してティアに渡した。
ギルドに向かう準備ができた二人は路地を出て中央通りを東に向かって歩いて行った。
道を進んでいくと少しづつ武装した人たちの姿が増えていきその中にはリナたちを値踏みするように見る者も出てきた。
リナはそんな視線が苦手なので少しティアの後ろに隠れるような位置を取って歩いていた。
「リナちゃん、この視線って・・」
「はい。ボクたちを見ていますね。前の町にいた時もこんな視線を浴びたことがあるんで間違いないと思います」
「そうなんだ、あんまりいい気分じゃないね」
二人は視線に耐えながら道を進んでいきようやく冒険者ギルドの前までやって来た。
「ここが冒険者ギルドか~。おっきいね~」
「そうですね。モルガンさんのお店くらいはあるんじゃないですかね。ボクもここまで大きなギルドは初めてです」
(とは言ってもギルドなんて他にガラドしかしらないんですけどね)
「よし、それじゃ入ろっか」
「はい」
期待に胸を躍らせているティアに付いて行くようにリナたちは冒険者ギルドの中に入っていった。
コメント、ブックマークありがとうございます。




