巨大な魔物
「リナちゃんあの馬車襲われてるよ!!」
リナたちの視線の先には複数の魔物に襲われている馬車があった。
周りには数人の護衛が横倒れ馬車の主らしき人物がなんとか魔物に抵抗していた。
「とにかくあの馬車を助けましょう」
「了解!!」
二人は馬車に駆け寄ると魔物と応戦した。
馬車の周りには狼型の魔物のバブルフ、丸い体に複数の目無数の触手を操る魔物のジロースとラビーバードがいたが全て低ランクの冒険者でも対応できるレベルの魔物だった。
魔物の種類を確認したリナは低ランクの魔物にやられてしまっている護衛に疑問を抱きつつも、まずはこの状況の打開のためティアに指示を出す。
「ボクがバブルフとジロースを倒しますのでティアさんはラビーバードをお願いします」
「任せて!」
リナはその場で立ち止まり詠唱を始める。
ティアはリナの前に立つと弓を構えリナの魔法の発動を待った。
「『氷精よ、我に力を与え七つの鏃を、アイスアロー!!』」
リナの発動した魔法はすべて魔物に命中した。
いきなり襲われた魔物たちは標的をリナたちへと向け襲いかかってくるが空を飛ぶラビーバードは待ち構えていたティアにすべて撃ち落とされていく。
残っていたバブルフとジロースもリナが立て続けに放った魔法で全滅した。
馬車を襲っていた魔物を全て倒したリナたちは馬車に向かおうと足を進めたところで馬車の主が大声で叫んだ。
「気をつけろ地中にウィードワームがまだいるぞ!!」
馬車の主の言葉にリナたちは慌てて地面を警戒する。
「リナちゃんウィードワームってどんな魔物?」
ティアの質問にリナは首を振りながら答えた。
「いえ、ボクも知らない魔物です。どう来るかわかりませんので警戒を怠らないように」
リナの言葉にティアはコクンと頷くとリナと背中合わせになりながら地面を警戒する。
リナも聞いたことがない魔物に警戒をしながら魔法の詠唱を開始した。
「『氷精よ、我に力を与え楔の力を、アイスチェイン!!』」
リナが発動させた魔法は一定時間腕に待機状態で氷の鎖を出現させ鎖を解放させると相手に絡みつき動きを阻害する魔法だった。
「これで一瞬だけでも相手の動きを止めることが出来ます」
リナが右手を前に構えたその時だった。
リナたちと馬車との間、リナたちが倒した魔物たちが倒れている場所に巨大な魔物が姿を現した。
魔物の体長は地面から見えている範囲で10メートル程ある緑色の巨大ミミズのような魔物でその太さは3メートルほどあった。ウィードワームの顔の部分には目はなく無数の鋭い牙のある大きな口のみの見る物に恐怖を与えるような見た目をしていた。
「うわっ、気持ち悪っ!!」
「これがウィードワームですか!『鎖よ!!』」
リナはすかさず鎖をウィードワームに放った。鎖はウィードワームに巻きついていくとその動きを封じていく。
それを見たティアは弓矢をウィードワームに放つ。リナもこの隙に魔法の詠唱を開始しようとしたがそれは叶わなかった。
ウィードワームがその巨体を大きく振り回すと鎖は簡単に引きちぎられてしまった。
「なっ!?」
いくら下級の魔法とはいえこんなに簡単に壊れるはずがない鎖が簡単に砕かれてしまった。
「影射ち!!」
それを見たティアはウィードワームの影に向かって矢を放ちその動きを封じようとする。
しかしそれも無駄に終わりウィードワームは影射ちから逃れリナたちの方向へ向き直った。
「ど、どうするのリナちゃん」
「とりあえずウィードワームはボクたちを狙っているようですから・・・走りましょう!!」
リナの言葉と同時に二人は反転するとそのままウィードワームから離れていく。
それと同時にウィードワームもリナたちを追いかける。
リナたちは必死になって走るがウィードワームのスピードの方が少し上回っていた。
「リナちゃん追いつかれるよ!?」
「仕方ありません」
リナはそう言うとアイテム袋から小さな宝石のような物を5つ取り出した。
「リナちゃんそれは?」
「とにかく伏せてください!!」
リナはそう言うと同時に宝石をウィードワームに向かって投擲した。
放物線を描いて飛んでいった宝石はウィードワームに命中すると同時に大爆発を起こした。
その爆発は連鎖爆発を起こしウィードワームを爆風で包み込んだ。
「うわぁ、すごい。リナちゃんこれってどうなってるの?」
「あれは昔友人に貰ったスフィアボムと言うアイテムです。あまりにも爆発がすごいので森の中では使えませんでしたけどここなら燃え移ることも無いので使いました」
「へ~、そんなものも持ってたんだ~」
ティアが感心したような声を出した時だった。
爆風の中からウィードワームが姿を現した。
「なっ!?」
リナもまさかスフィアボム5つで倒すことが出来ないとは思ってもみなかったのでその動きが完全に止まってしまっていた。
「リナちゃん!!」
「っ!!」
「さっきのもう一回できないの?」
「スフィアボムはさっきので使い切りました」
「そんな・・・」
眼前に迫るウィードワームに対応しようとリナが魔力を全身に一気に駆け巡らせたところで、ウィードワームに動きがあった。
ウィードワームは苦しむような声を上げるとその巨体を素早い動きで地面の中に引っ込めて行った。
「えっと?」
突然去っていった危機にティアがキョトンとした声をだす。
「どうやらスフィアボムで相当なダメージを与えることが出来たみたいですね」
「・・・・ほんとだ」
ティアは集中してウィードワームの魔力を追うとティアが感知できる範囲外まで逃げていくことを確認することが出来た。
「魔力も遠くに離れていったよ」
「そうですか。・・・魔物も何とか出来ましたしさっきの馬車の方の様子を見に行きましょう」
ティアもリナの言葉にうなずくと急ぎ馬車へと戻っていった。
「大丈夫ですか?」
なんとかウィードワームを退かせることに成功した事を馬車の主に伝えると少し安堵した様子で答えが返ってきた。
「ああ、私は大丈夫だ。・・・しかし護衛は全滅してしまった」
馬車の主は横たわる人たちを見てひどく落ち込んでいる様子だった。
「リナちゃんずっとここにいるとまたあいつが帰ってくるかも」
「そうですね。ひとまずこの場を離れましょう」
リナはこの場所は危険ということを馬車の主に伝えるとその場を後にした。殺されてしまった者たちは連れて帰るのは何かと危険を伴うのでその場で火葬した。
ある程度離れたところで馬車を止め改めて馬車の主と話をすることになった。
「いや、助けてもらったというのにすまない。私はモルガン商人をやっている。君たちは?」
モルガンは沈んでいた顔を起こすとリナたちに丁寧に挨拶をした。
「ボクはリナと言います。こっちはシェスティアさん。ボクは冒険者をしていて街を目指して旅をしているところで偶然大きな物音を聞いてやってきました」
「そうか冒険者か。なら依頼でここに?」
「いえ、実は次の街を目指して旅をしていたのは良かったんですけど道に迷ってしまって」
リナは道中で人に会ったときの為にあらかじめ決めていた理由をモルガンに説明した。
リナたちは村から街に向かうために旅をしていたのだが道に迷ってしまったと言うことにしていた。リナがエクラドから来たことやティアがエルトレームから出てきたということは秘密にしておくと決めていた。
そんなこともありリナの説明にティアもうなずき肯定した。
「道に迷ってか・・・そう言うことなら私と共に来るか?助けてもらったお礼と言うわけではないが街まで案内をするよ」
「本当ですか?」
「ああ、あとできれば街までの護衛も頼みたい。もちろんさっき助けてくれたことも含めて報酬は払う」
リナはティアをアイコンタクトを取るとその提案を受け入れた。
「わかりました道中の護衛を引き受けます」
「そうかありがとう」
リナの返答を聞いたモルガンはようやく笑顔を見せてうなずいた。
こうして壮年の男性モルガンと共にリナとティアは街へと向かって行った。
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