新たな一歩
「ど、どういうことですか?おばあ様」
「ぞ、族長?」
周りにいたエルフたちは突然の事に驚き慌てふためく。
その様子を黙って見ていたソフィアはにやり笑うと腰に手を当てて大きく笑い声をあげた。
「はははは、もちろん冗談じゃ。わしがこの里を離れることなんてないわい」
その言葉を聞いたエルフたちは騒ぎをやめソフィアの顔をじっと見つめた。
「な、なんじゃおぬしら?・・た、ただの冗談ではないか・・・・そ、そうじゃ、リナが明日ここを出ると言うことなら今夜は宴じゃ、皆準備に取り掛かるのじゃ」
ソフィアのその言葉に皆は納得いかない様子でそれに従った。それは完全に恩人に対しての恩義のためであって族長命令だからと言うことではなかった。
「リナも今夜は楽しんでくれ」
「はい、ありがとうございます」
「礼なんていらぬ。存分に楽しんでくれ」
そう言ったソフィアの後ろから目を光らせた数名の侍女が姿を現した。
「ではリナ様もこちらに」
「へ?なんですか?」
「リナ様にもエルトレームの里の衣装に着替えていただきます」
そう言って侍女たちはリナの腕をつかむと強引に連れ去っていった。
「おお、リナちゃん似合ってるよ」
ティアは鼻血を流しながら着替え終えたリナを褒めたたえた。
「ありがとうございます」
エルトレームのひらひらした衣装はリナとしてはかなり恥ずかしい物だったがティアをはじめとしたエルトレームの女性たちは皆同じ衣装に身を包んでいたので文句を言えるような状態ではなかった。
その日の夜は遅くまで続く長い宴になった。
リナも話慣れていないエルフたちからの言葉にも戸惑いながらもなんとか返事を返し大いに宴を盛り上げた。
そうしてエルトレームで過ごす最後の夜は賑わいの中更けていった。
そして翌日の朝リナはエルトレームの里の出口にいた。そこにはソフィアをはじめエルトレームの里の幹部たちもリナを送るために集まっていた。
リナは冒険者をやっていた時の服に着替えていてしっかりと眼鏡もかけていた。
「リナ今回はいろいろと助かった。礼を言う」
「・・・はい」
「何かあったらいつでもここに帰ってくるといい。おぬしももうわしの家族じゃ」
「はい。ありがとうございます」
ソフィアとあいさつを交わすリナだったがその顔は晴れやかな様子ではなかった。
「どうしたのじゃ?」
「・・いえ、やっぱり少し寂しくなってしまいまして」
「そうか、しかしリナにはやることがあるんじゃろう?」
「はい」
「なら悲しむな、わしらとならすぐに会える」
ソフィアはそう言ってリナの背中を押した。
「ありがとうございます。あとティアさんなんですが」
「ああ、あやつは昨夜もかなり盛り上がっていたからのまだ寝てるやもしれぬ。起こしてこようか?」
「いえ、大丈夫です。でもティアさんには本当にお世話になったのでお礼を言っておいてください」
「うむ」
ソフィアがそういって首を縦に振ったのを確認したリナは笑顔を作り皆に手を振った。
「では、さようなら」
「うむ、行ってらっしゃい」
「は、はい!いってきます!!」
その笑顔はとても晴れやかな笑顔だった。
エルトレームの里から離れまずは西へと向かって歩いていたリナは少し休憩を取るために切り株の上に腰かけていた。
「いた。やっと見つけた」
突然の声に驚いたリナだったが視線の先にはティアの姿があった。
「ティアさん?」
「リナちゃんやっと見つけたよ~」
「ええ?どうしたんですか?」
「えっとね。私もリナちゃんの旅についていきたいんだけどいいかな?」
「え?えっと、どうして?」
ティアからの言葉に驚くリナ。
しかしリナの気も知らずにティアはまくし立てる。
「だって私ってレーヴァテインさんからもリナちゃんの事頼まれたし。それに外の世界にも興味があったから・・・ダメかな?」
目を潤ませるティア。リナは少し考え込むように腕をくんでいた。
(う~ん。どうしましょう)
「ソフィアさんはこのこと知っているんですか?」
「おばあ様には手紙を残してきたから大丈夫だよ。リナちゃんダメ?」
(まあ別に危険な旅というわけではないですし、ボクが止める理由はとくにないですね)
「わかりました。一緒に行きましょう」
「ホントに?・・・やったー!」
ティアは喜びのあまりリナに抱き着いた。
「いたい。いたいですよティアさん」
「え?ごめんね。でもこれでリナちゃんと一緒に旅ができる~」
ティアが落ち着いたのはそれから30分ほどたった頃だった。
「そういえばリナちゃんは何で逆方向に向かって歩いてたの?」
「え?」
「えっと木々の精霊にね、おばあ様に西に向かうって言ってたって聞いたから、そっちに行ってると思って西に行ったらリナちゃんがいなっくって。もしかしてと思ってこっちに来てみたらリナちゃんが歩いていたから」
「え?こっちが西じゃ」
「ううん逆だよ?」
「え?」
「え?」
ここで実はリナが方向音痴ということが分かった瞬間だった。
「ま、まあ来てしまったのは仕方がないです。このまま進むことにしましょう」
「了解~。私もここを出るのは初めてだからリナちゃんに任せるよ。あとこれ」
ティアは持っていた鞄の中から筒のようなものを取り出した。
「なんですかこれは?」
「これはこの森の地図だよ。私は覚えてるからリナちゃんにあげるね」
「ありがとうございます」
リナは地図をティアから受け取るとそれを広げてみた。
地図は中心にエルトレームの里が書いてありそこから森が広がっている物だった。たしかに地図には目印になるものなどが書き込まれていたがリナにはうまく読み取ることが出来なかった。
「あれ?」
リナは地図を取り出したティアの鞄から宝石のようなものがぶら下がっているのが見えた。
「ティアさんそれはなんですか?」
「え?なに?」
ティアは自身の鞄を見るとそこに引っかかっていた小さな赤い宝石の付いたネックレスを手に取った。それには小さな手紙のようなものが付いていた。
ティアが手紙を呼んでいると小さな微笑みがこぼれた。
「ティアさん?」
「あ、なんでもないよ。これおばあ様からだった」
「ソフィアさんから?」
「うん、見ててね」
ティアがネックレスを首に掛けるとエルフの特徴である耳が人間のような形に変わりティアの姿がまるで人間かのように変わった。
「ティアさんそれ」
「うん。そとの世界ではエルフだと何かと面倒があるかもしれないからって、これを身に着けておけば正体が見破られることはないってさ」
「ソフィアさんはティアさんがこうすることが分かってたんですね」
「そうみたい・・・」
ティアはネックレスを大事に両手で抑えながら小さな声でソフィアにお礼を言った。
「リナちゃんこれからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
二人は森の出口を目指しながらまっすぐ前に進んでいった。
リナを見送ったソフィアは自身の部屋に戻っていた。
これからの事を考えようとしていた時にテーブルの上に置いてある手紙を見つけた。
『すみませんおばあ様
私どうしてもリナちゃんと旅がしたいので里を出ます。
もちろんリナちゃんに断られたら諦めますけど、リナちゃんに認められるように頑張ります。
わがままを言って申し訳ございません
シェスティア』
「まったくあやつは・・」
ソフィアは手紙をテーブルに置き窓から外を覗いた。
「リナが断ることはないじゃろう。まあ世界を見て回るといい」
遠くを見つめるソフィアの眼差しは優しいものだった。
「・・あっそうじゃ。思い出した思い出した。あの男が来たのは確か200年前の事じゃったの」
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二話投稿です。




