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霊鳥の尾羽

「おはよ~」

「おはようございます」



 一夜明けた朝、リナが目を覚ますとティアが朝食を作っていた。



「これは?」

「さっき向こうの木で見つけた木の実だよ。皮をむいたら食べられるやつだからリナちゃんも食べようよ」

「ありがとうございます」



 リナが口を付けた木の実はほんのりとチョコレートの味がする物だった。



「これ甘くておいしいですね」

「うん。シダマの実って言うんだけど滅多に取れない物なんだ。見つけられてラッキーだったよ」



 リナは懐かしい味に喜びつつ朝食を食べると早速山に向かうことにした。

 エルトレームの南の森に先にある山はほとんど木は無く岩山の様になっていた。



「ここから先は私たちも登ったことがないからリナちゃんも気を付けてね」

「それにグレートウルフの変異体もですね」 

「私も警戒するけどリナちゃんもここからはゆっくり登ってね。ホント~に危ないんだから」



 ティアはわざと体を震わせながら「怖いんだよ~」とアピールしていた。

 リナもそれを了承し先頭にリナ後ろにティアの順番で山に登ることになった。



 最初の山道は特に危険出来事も発生せず順調に進みリナたちはすでに山の中腹付近までたどり着いていた。



「リナちゃんちょっと寒くなってきたね」



 山の中腹付近からは雪が積もっていて気温も急に下がり始めていた。



「そうですね。そろそろ上着を着ておきましょう」



 リナはアイテム袋から二人分の上着を取り出すとティアに手渡し自身もそれを羽織った。



「でも結構上まで登ってきたね」

「はい。でももう少し登らないと霊鳥と会えません」

「そう言えばリナちゃん。霊鳥の尾羽を取りに行くって言ってたけどどうやって霊鳥に会うの?この山で霊鳥を見たって人はいないよ?」

「それなら大丈夫です。高い山の上からでしたら霊鳥を呼べますから」

「そうなんだ・・・・え?・・霊鳥を呼ぶ?」

「はい」



 リナはそう返事をすると、寒さに耐えながら山道を登っていく。ティアも聞きたいことが山ほどあったがこんな危険な山道で興味本位で聞けるほど肝は据わっていなかった。



 道中警戒をしながら進み何とか日が暮れる前には頂上付近までたどり着いた。



「では霊鳥を呼ぶ準備を始めたいのでどこか広くて平らになっている場所がないか手分けをして探しましょう」

「了解!!」



 二手に分かれた二人だったがティアがすぐに霊鳥を呼び出すのに十分な場所を見つけるとリナがその上に魔法陣を書き始めた。



「今から霊鳥を呼び出しますので念のため気をつけておいてください。すぐに襲ってくることは無いと思いますが確証はありませんので警戒を怠らずにお願いします。あと霊鳥を呼び出している最中はボクは動くことが出来ませんので魔力につられてやってきた魔物の排除をお願いします」

「う、うん」



 リナはティアの返事を確認すると魔法陣の中心に立ちアイテム袋から魔法の杖『レーヴァテイン』を取り出すとそれを天に掲げた。

 すると魔法陣が輝きだはじめ上空から魔法陣へと光が差し込んできた。

 そんな時だった、突然ティアが叫んだ。



「リナちゃん!近くに大きな魔力が、これはたぶんグレートウルフの変異体だよ!!」



 その声と同時に巨大な灰色の狼が姿を現した。グレートウルフの変異体は通常のグレートウルフよりもはるかに大きく三メートルほどの大きさがあった。

 ティアは手を震わせながら弓を構える。



「リ、リナちゃん」

「もう少しで呼び出せますがボクは動けません。・・・ティアさんは逃げて下さい」

「そんなことできないよ!!」



 リナに逃げろと言われたティアだったがそんなことはできなかった。

 グレートウルフの変異体から感じられる魔力量はリナの倍ほどの物であった。ここにリナ一人で置いていったとしてもまず生きて帰ることはできないのは確実であったからだ。



「私だって、少しくらいは!!影射ち!」



 ティアの放った矢は変異体の影に向かって飛んでいく。



「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」



 しかし変異体は咆哮一つで矢を弾き飛ばした。



「くっ、まだまだあきらめないよ!影射ち!」



 ティアは何度弾かれようと矢を射ち続けた。

 しかしすべての攻撃は変異体へ届かない。

 グレートウルフの変異体も自身よりも格下なのを理解しているのか獲物で遊ぶかの様にティアの体を少しづつ傷つけていく。

 ティアは怯まずに次の矢を放とうと矢筒に手を伸ばしたがそこにはもう矢は残っていなかった。



「そ、そんな」



 絶望に打ちひしがれるティアだったがそこにリナの声がかかった。



「ティアさん、ありがとうございます。魔法陣の方はもう大丈夫です。もう少しで霊鳥は来ます。でもその前にあれを何とかしないといけませんね。霊鳥に機嫌を損ねられると大変ですし」



 そう言ってリナが杖を構えた時だった。



『誰の機嫌を損ねるのですか?』



 上空から聞こえてきたのは上品な女性の声だった。

 二人は上空を見上げると差し込んでくる光の中から美しい空色の巨大な鳥が姿を現した。



「ああ。あああ」



 ティアはその姿を見て更なる絶望に身を震えさせた。巨大な鳥から感じられる魔力は隣にいるリナの数倍ほどの魔力それはグレートウルフの変異体をも上回る魔力量だった。

 しかし身を震わせていたのはティアだけではなかった。それは先程まで捕食者として獲物で遊んでいたグレートウルフの変異体だった。

 グレートウルフの変異体はすぐに身の震えを止めると山のぬしのプライドからか巨大な鳥に向かって咆哮する。



『そこまで敵意を向けられるのはあまりいい気はしませんね』



 巨大な鳥がそう発すると変異体は巨大な鳥へと飛び掛かった。



『おとなしく身を引いていれば良いものを・・』



 巨大な鳥は翼を広げるとそこから無数の光を放ちグレートウルフの変異体を攻撃した。

 放たれた光はグレートウルフの変異体の体に無数の穴をあけ一瞬にしてグレートウルフの変異体を倒してしまった。



「そんな、グレートウルフの変異体が一瞬で・・こんなのどうすれば」



 その光景を見ていたティアは体がすくみ身動きすら取れない状態になっていたのだがリナは平然とティアの前へと足を進めた。



「リナちゃん危ないよ!!」

「たぶん大丈夫です」



 リナはそう言って笑顔を見せると巨大な鳥の前へと進んでいった。


 

「レーヴァテイン、ボクの事を覚えていますか?」

『覚えていますよリナ。貴女を忘れることなんてありませんよ。貴女くらいですよ。(わたくし)の試練を一人でこなした人間は』

「そうですか。よかったです」



 リナは霊鳥レーヴァテインの返事を聞き安堵し大きく息を吐いた。



『それでどうしました?貴女が私を呼び出すなんて珍しいじゃないですか』



 レーヴァテインに問われたリナは少し言いづらそうなそぶりを見せると思い切った様子で話を切り出した。



「実はですね。レーヴァテインの尾羽を少し頂きたいのですが・・・」

『私の尾羽を?』

「はい・・・」



 レーヴァテインは少し考え込むとその双眼から強い光を放った。



『少し心を読ませてもらいますよ』



 そう言ってリナを見つめたレーヴァテインはしばらくすると大きくため息をつきリナに言い放った。



『また貴女には他人のために・・良いでしょう貴女に私の尾羽を授けましょう』

「あ、ありがとうございます」



 レーヴァテインが尾を振るとリナの掌に三本の尾羽がふわりと舞ってきた。

 リナが嬉しそうに微笑んでいるとレーヴァテインが翼を広げた。



『それではリナ、私はもう行きます。体には気を付けるのですよ』

「あと、一つだけ聞きたいことがあるんですが」



 その場を去ろうとしたレーヴァテインを呼び止めるリナ、その表情に何かに縋るような物を感じたのかレーヴァテインは翼を閉じた。



『なんですか?』

「最近世界で何か変わったことはありませんでしたか?」

『いえ、私が見ている限りでは何も変わりはありませんでしたよ』

「そうですか。ありがとうございます」



(やはり魔法使いとしてのボクを知っている方でもAFとの変化には気が付いていないんですね)



『質問はそれだけですか?』

「はい。ありがとうございました」



 リナはお礼を言って頭を下げたその様子を見ていたレーヴァテインは視線をティアに移し話しかけた。



『そこの貴女』

「は、はい」



 レーヴァテインは緊張しているティアに気を使ったのか、それともリナの事を想ってなのか優しい声色で語りかけた。



『貴女はこの子のお友達ですか?』

「はい!」

『そうですか。それなら貴女にお願いがあります。この子はよく無茶をする子ですので無理をしないようによく見張ってやってください。私もこの子が傷つくところは見たくありませんので』

「はい!任せてください」

『ありがとう。頼みましたよ。これはそのお礼みたいなものです』



 レーヴァテインがそういうとティアは暖かな光に身を包まれていきグレートウルフの変異体に負わされていた傷がきれいさっぱり無くなっていた。



『・・・ではこれで失礼しますね』



 そう言って空へと飛んたレーヴァテインは現れた時と同じように光に身を包むと一瞬にしてその場から消えていった。

 


「リナちゃん」

「なんですか?」

「レーヴァテインさんってリナちゃんのお母さんみたいだったね」

「そうですか?」

「うん。あんなに強い方だったのにリナちゃんの事を話すときはすっごく優しい感じになってたもん」

「そうだったでしょうか?」



 リナは首を傾げていたがティアはレーヴァテインの優しさに触れてなんだかほんわかした気持ちになっていた。



「よ~し、霊鳥の尾羽も頂いたことだしエルトレームに戻ろっか」

「はい」



 リナとティアは変異体のいなくなった山道をゆっくりと下って行った。

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