エルトレームの秘湯
帰還の道中、何事も無く無事にエルトレームに戻ってきたリナたちは捕まっていたエルフたちを兵に預けソフィアの家まで戻っていた。
「戻ったぞ」
「ご無事で何よりです」
出迎えてくれたエドアルドだったがその表情は険しいものだった。
「エドアルドか、表情が硬いが何か問題でもあったのかの?」
「実は、我々が捕らえていた者なのですが、尋問の為被っていた鎧をはぎ取ってみると中身が我々と同族だったのです」
「・・そうか、そやつは他の里の者が奴隷に落とされていたのかもしれぬのぉ。ちょっと気になるの、わしも会ってみたい今はどこに?」
そうソフィアが聞いたのだがさらにエドアルドの表情が暗くなっていった。
「それが、捕縛したエルフから事情を聴こうと牢に向かうと魔法か何かが仕込まれていたのか、体が吹き飛びすでに絶命しておりました」
「なに?誰かその瞬間を視た者はいるのかの?」
「いえ、すでに牢に捕らえた後でしたので扉の見張りの者以外はおらず、それに見張りの者も中で音が鳴るようなことは無かったと申しております」
「そうか・・・」
ソフィアとエドアルドの会話を聞いてリナは自分の頭を駆け抜けた疑問を確かめにその場を離れた。
リナはブリザードロックで捕えていたジャックとジョニーのもとへとやってきていた。
「やっぱり・・・」
リナの目の前にあったのは二つの大きな氷塊だった。氷漬けにしていた二人分の氷塊は鮮血に染まっており中に人の姿はなかった。
「リナちゃんこれって・・・」
リナの後を追ってきたティアが氷塊を見て表情を曇らせた。
「はい、先程の二人です。すでに二人は亡くなっています」
「一体なにが?」
「おそらくあの仮面の男の仕業でしょう。自身の事を完全に隠すために味方の者たちを全員殺したんだと思います」
「ひどい・・・」
リナは氷塊をそのままにしておくわけにはいかないとティアに相談すると兵たちに任せておけばいいと言葉を返された。
ティアの言葉に従い、リナは氷塊が溶る様に魔法をセットし兵に氷塊の位置と氷が溶ける時間を知らせてソフィアの家へと戻ってきていた。
リナ、ソフィア、ティア、エドアルドの四人は最初に通された談話室で情報の交換を行っていた。
「そうか、リナが捕らえた敵も死んでおったか・・」
「はい。ボクの魔法は外からの攻撃も防ぐようになっていますので元からセットされていた魔法で殺されたんだと思います」
「口封じか」
「おそらくはそうだと思います」
「一応こちらでもエルフの体の一部が残っておったので魔法の痕跡を確認しておるでの、今はそれの結果待ちと言ったところかの」
ソフィアはそう言って深いため息をつくと空気を換えるためか笑顔を作り言葉を発した。
「いや、しかしリナには随分と助けられたの」
「ボクは何もやっていませんよ・・」
ソフィアの言葉にリナの頬が赤くなる。
「いえいえ、リナさんがいなかったらもっと被害は出ていたはずです。我々も皆感謝しております」
エドアルドもソフィアに続きリナを褒めたたえる。
「そこでじゃ、もう日も暮れだした頃じゃしリナには我らの里の秘湯で汗を流してもらいたい」
ソフィアがそういうとティアが突然大きな声を上げた。
「ええええええ!?秘湯ってあのお風呂の事?」
「そうじゃが?」
「あれってエルトレームの宝のひとつじゃなかったの?」
「そうじゃの」
「えっと・・・」
「言いたいことはわかっておる。これはさっきエドアルドと決めた事なのじゃ」
「私だってあんまり入ったことないのに・・まあ、おばあ様が決めたことなんでしたら別にいいんですけど」
ティアはそう言って拗ねたような様子を見せるが次のソフィアの言葉ですぐに機嫌がよくなっていた。
「なにを言っておるのじゃ?おぬしも一緒にくるのじゃぞ?」
「え?いいんですか?」
「今回はおぬしも頑張っていたからのそのご褒美と言う事じゃな」
「やった。リナちゃんとお風呂、それもあのお風呂で、ブフッ」
ティアは大きくガッツポーズをとりながら鼻血を流していた。
「ということで早速向かうとするかの。エドアルドあとの事は任せたぞ」
「はい。あとの処理は私がやっておきますので皆さま方は今日の疲れを取ってきてください」
エドアルドはそう言って一礼すると談話室を出ていった。
「リナこっちじゃついてこい」
ソフィアはリナの手を掴むとその手を強引に引っ張っていった。
(えっと、これは決定事項なのでしょうか?決定事項なのでしょうね・・・でも・・・)
リナは視界の端に映るティアに若干の身の危険を感じながらソフィア引かれるがままそのあとについて行った。
「リナ!ここが我らがエルトレームの秘湯じゃ」
ソフィアに連れてこられて着いた先には大きな露天風呂があった。
エルトレームの露天風呂には木々の精霊たちが里の中よりも多く集まっていた。
「すごいですね」
「そうじゃろう、そうじゃろう。何せここには木々の精霊たちがよく集まって来る場所での、そのおかげかここで入浴すると木々の精霊の加護が得られると言われておるのじゃ。ただあまり多くの者たちが湯に入ると精霊たちが逃げてしまうために一部の者たちしか入浴を許されていない場所なのじゃがの」
「そんなお風呂にボクが入ってもいいんでしょうか?」
「大丈夫じゃ。たまに数人程度じゃったら精霊たちもそう騒がん気にせず堪能したらよいぞ」
ソフィアはそう言いながら衣服を脱ぎ取っていた。
「ほらリナちゃんも」
いつの間にかに全裸になっていたティアがリナの衣服を脱がしていく。
そうして丸裸になったリナはティアに連れられて露天風呂に行くとそのままティアに背中を洗われているという状況が出来上がっていた。
「グフフフ。やっぱりリナちゃん、可愛いなぁ。ブフッ。おっと」
鼻血を流しながらティアはリナを堪能していた。
(やっぱり女の人とお風呂に入っても特に何とも思わないですね。以前でしたら絶対に無理だったでしょうし、これもこの世界に来た影響ですよね)
リナはリナで自身の状況を確認しながら自分は女性になったんだなぁと、しみじみ感じていた。
「おっ、ようやくきたか」
体の汚れをすべて取ったリナたちが湯船に向かうとすでにソフィアが酒をあおりながら風呂を堪能していた。
「ソフィアさんお風呂でお酒は体に良くないですよ」
「大丈夫じゃ。せっかくじゃしリナも飲まんか?」
「いえボクはお酒は飲まないので」
「そうか・・ティアも飲めぬしつまらんのう」
そういいながらもソフィアの酒を飲む速度は全然かわらなかった。
そんなこともありながらゆっくりしていると急にソフィアの表情が真剣なものになっていた。
「ところでリナ」
「何でしょうか?」
「今朝言っていた特殊結界宝玉の事じゃが高い山について聞かれたのを思い出しての」
「霊鳥の尾羽の事ですね」
「それじゃ、一応この森を南に一日ほど行った先に山があるんじゃが少々危険な場所での」
「と言うと?」
「先の話にも出てたギガントスライムやその他にも危険な魔物がうようよしておるんじゃよ」
「そうですか。でも修理するためには霊鳥の尾羽がどうしても必要ですしその山に行ってきますよ」
「しかしのう、今回の件で世話になったことじゃしリナの事もわしは気に入っておる。正直な話、頼みごとをしたのはわしじゃがこれ以上危険なことをしてほしくないのじゃ」
「でもこのままだとまた今回のようなことにもなりかねないですしやっぱり修理をした方がいいと思います。それにボクこれでも強いつもりですよ」
そういって笑顔をみせたリナにティアが勢いよく抱き着いた。
「や~ん、リナちゃん良い子~。山に行くときは読んでね私も一緒に行くから」
「えっと・・」
「そうじゃのう、リナ一人よりは人数がいた方がいいじゃろう。それでいついくつもりじゃ?」
「早い方がいいと思いますし明日すぐにでも行こうと思っています」
「明日か・・まだ里の兵を動かすわけにもいかんし、さすがにわしも動けぬからのぉ」
「任せてよおばあ様。私がしっかりリナちゃんを守るから」
「そうですね。ボクももともと一人で行くつもりでしたし大丈夫ですよ」
「わ、私も行くよ!?」
「はい」
「そうか、リナよこの里の為に改めて頼む」
「はい。まかせてください」
リナは立ち上がり胸に手を当ててソフィアの頼みを聞き入れた。
そうして明日の予定も決まっていたところでまたもソフィアからリナに質問があった。
「なぁリナよお主はどうしてここまでこの里の為にしてくれるのじゃ?」
「そうですね。今朝の話を聞いて人族がこの里の皆に迷惑をかけていることも許せないですしボクは奴隷みたいなものが嫌いなんですだから少しでも皆さんの力になれればと思っただけですよ」
「そうか」
言葉は短かったがソフィアはまるで自身の子を愛でるような瞳でリナを見ていた。
そんな目を向けられたリナは慌てて言葉をつなげた。
「も、もちろんボクとしても気になることがあったのでそれを聞きたいなぁという思いもありましたので・・・」
「聞きたいこと?なんじゃ?わしに答えられることならなんでも答えてやるぞ?」
ソフィアはそう言って腕を組む。
「でしたら一つだけ」
「何じゃ?」
「今朝ソフィアさんの部屋に行ったときにティアさんが叱られていたと言うか反省させていた時の事なんですけど」
「え?私のこと?」
「いえ違、いや違わないですね。その時にティアさんが座られていた時の様子なんですけどあの座り方は昔から反省の時にする姿勢なんですか?」
「ん?せいざの事か?」
「はい。この里も基本的には椅子に座る習慣の所なのに珍しいなと」
「そうか。まあ確かに珍しい座り方かもしれんの、なにせこの里で初めてせいざをしたのはわしじゃからな」
「そうなんですか?」
「そうじゃ、いつだったかのぉ、前にこの森に迷い込んできた人族の男にちょっとした悪戯をしかけたんじゃが見つかってしまっての、その時にその男にせいざと言われて座らせられたのがあの姿勢だったんじゃよ」
「その人族の男の人ってどんな人だったんですか?」
「普通に冒険者の恰好じゃったぞ?まあせいざさせられた時に「これだからなんとかは」とか「にほんだったたら通報される」とかよくわからん事を言ってたのぉ。いやぁ今思い出してもせいざはきつかったのぉ」
その言葉を聞いた時にリナの中に大きな動揺が生まれた。
(日本。やっぱりAFに来ていたのはボクだけじゃなかったんだ)
「そ、それその男の人はどこに?」
「すぐに人族の村に向かうと言って行ってしまったの」
「それってどれくらい前の話ですか?」
「そうじゃのういつだったか、えっと。ん~思い出せん」
「なんとか思い出せませんか?」
「ちょっとまっておれすぐに思い出す」
そう言ってソフィアは頭を抱えるがすぐにティアが話に割って入ってきた。
「無理だよリナちゃん。おばあ様は忘れちゃったら二日前の夕飯だって忘れちゃうんだから。もう歳なんだようん」
「なんじゃと?」
「イエナンデモナイデス」
「ふんまあいい。リナよまあお主たちが山から帰って来るまでには何とか思い出しておくからそれまで待っててくれ」
「はい。わかりました」
リナとしてもAFに来てから初めて手に入れた元の世界の情報だったので思い出してくれるのであれば2,3日遅れても大丈夫だと思っていた。
そうして露天風呂を満喫したリナはソフィアの家に泊めてもらい一夜を明かすことになった。
その夜ティアの寝室への乱入で結局二人で寝ることにはなったのだがそれほど寝苦しくなかったのはリナにとっても満面の笑みで眠っているティアにとっても喜ばしいことだった。
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