エルフの救出
仮面の男がリナを凝視しているかと思うと一瞬の間にリナとの距離を詰めていた。
「なっ!?」
あまりの早さにリナが驚くと仮面の男はスッと手を伸ばしリナの首を掴むと片腕でリナの体を持ち上げた。
「かはっ!!」
リナは何とか仮面の男の手から逃れようと必死にもがくがあまりの力に抜け出すことも出来なかった。
「桃色の髪・・氷の魔法・・」
仮面の男は何かを確認するかのようにリナの顔を覗き込む。
リナからは仮面の奥から鋭く光る瞳孔が見える。
その瞳は赤く光り恐怖を体の底から呼び起こすような光を放っていた。
「リナを離せ!!」
ソフィアが素早く動き仮面の男に斬りかかる。
しかし仮面の男はいとも簡単に斬りかかっているソフィアの腕を掴むとそのまま地面に叩きつけた。
そしてソフィアの体を踏みつけ完全に動きを止めた。
「邪魔だ・・・」
(ソフィアさん!!)
「『ひ、氷精よ、我に・・』ぐっ!?」
リナも何とか逃れようと魔法を唱えようとするが首を絞めつけられ詠唱すらままならない状態だった。
「リナ?・・・勘違いか・・?・・まあいい・・」
仮面の男がそうつぶやくとリナの首をつかむ力を強くする。
「うぐっ・・・『第三・・』っ!!」
「無駄・・・だ・・」
仮面の男は掴んでいる手に力を入れリナの詠唱を止めるとその腕から黒い影が飛び出しリナを包み込むように全身を覆っていく。
「『呪』」
仮面の男が魔法を唱えようとしたその時だった。突如一本の矢が仮面の男へと飛来していった。
不意の一撃にも仮面の男は反応し、咄嗟にリナを離して大きく後ろへと跳躍した。
「がはっ、ごほっごほっ」
仮面の男から逃れることが出来たリナはその場で膝をつき首を抑えながら咽ることしか出来なかった。
「リナちゃん、おばあ様大丈夫!?」
そこに現れたのは弓を構えたティアだった。
ティアはすぐにリナたちのもとに駆け寄ると二人の体を支え立ち上がらせた。
「ごほっごほっ、ティアさん」
「二人が全然出てこないから心配になって見に来たら、リナちゃんは首絞められてるしおばあ様も捕まってるしビックリしたよ」
「すみません助かりました」
「いいんだよ、で?あいつは何なの?」
「あれが今回の件の黒幕みたいです。危険な魔法を使ってきますので気を付けてください」
「あいつがそうなんだ・・」
ティアはリナの言葉を聞くと普段は見せない鋭い視線を仮面の男に向ける。
「ティアさん落ち着いてください」
ティアの様子がおかしいのを感じ取ったリナがティアに声をかけるとティアの雰囲気が柔らかくなりいつもの調子に戻っていった。
「焦るなティア、お前の気持ちはよくわかるが落ち着いてことにあらるのじゃ」
「はい。おばあ様」
捕まっていた二人の息も整い仮面の男にリナたち三人が構えると、突然ソフィアから悲鳴が上がった。
驚いたリナとティアが視線を送ると右腕から血を流すソフィアの姿があった。
「ソフィアさん!?」「おばあ様!?」
ソフィアは右腕を抑えその場に跪いてしまった。
二人はソフィアを庇うように仮面の男に構えるとそこには今までいなかった魔物が仮面の男の傍らにいた。
「リナちゃんアレは?」
「さっきまではいませんでした。リッパー系の魔物?でしょうか。何かはわからないですがアレから感じ取れる力はかなり高ランクの魔物に近いです」
魔物が持っている大鎌からはソフィアのと思われる血が滴り落ちていた。
仮面の男に従っている様子からこのまま二人を相手しなければとリナが思ったその瞬間に大鎌の魔物は仮面の男の影の中に消えていった。
その様子にリナは疑問を抱き仮面の男に問いかける。
「?・・魔物を返してしまってもよかったんですか?」
「・・・」
しかし仮面の男はリナの言葉には何の反応も見せなかった。
その様子に得体の知れない恐怖を感じていた二人だったが次の瞬間仮面の男の全身から今までに見せなかったどす黒い影がリナたちへと襲い掛かってきた。
「ティアさん躱してください」
「うん」
ティアはソフィアを抱きかかえるとその場から横へと跳躍する。
リナも逆方向へ跳躍したのだがその先は小屋の角で次の逃げ場所がなかった。
「しまっ」
リナの逃げ場所がなくなったことで止めを刺そうと仮面の男が右手を上げようとした瞬間ティアが矢を放った。
しかしティアが放った矢は仮面の男の顔面を捕らえたのだが何かに吸収されたかのように吸い込まれていってしまった。
「なっ・・・矢が消えた・・?」
消えていた矢を見て驚いていたティアだったのだが次の瞬間、仮面の顔面の空間からティアに向かって矢が飛び出してくる。
すでにティアのそばまで戻っていたリナはそれにすぐさま反応し、身を挺してティアを庇い左肩に矢が刺さってしまった。
「リナちゃん!!」
「大丈夫です。そんなことよりも敵から目を離さないで・・」
肩を抑えながらリナが魔法の詠唱に入ろうとすると仮面の男が突然自身の影の中に消えていった。
「ま、待ちなさい!!」
「必要なものは・・・手に入った。・・・ここにもう用は・・無い・・・」
そう言って仮面の男が影に消えていくと最後に発せられた一瞬の光に視界を奪われたリナたちの目の前にはすでに仮面の男の姿はなかった。
「どこかにいったの?」
しばらくの間、静寂が続いていたのだがティアが不安げにそうつぶやきその静寂がとかれた。
するとソフィアが腕を抑えながら立ち上がりティアの肩に手をやった。
「そのようじゃの、念の為に魔力の確認をしてみてくれるか?」
「は、はい・・・なにも、感じません。このあたりにはいないみたいです」
「そうか・・ティアよ、おそらく奥に皆が捕らえられているはずじゃ確認してきてくれんかの?」
「はい。わかりました」
ティアはうなずくと小屋の奥へと向かって行った。
ティアを見送ったソフィアは安堵のため息をつきその場に腰かけた。
「ソフィアさん大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫じゃ。派手に出血しておるが大事ない」
リナはソフィアの言葉を聞きながら怪我をした腕に包帯を巻いていく。
「リナも怪我をしておるが良いのか?」
「ボクの傷はこんなに深くありませんからポーションを飲んでおけば大丈夫です」
リナはそう言いながらアイテム袋から下級ポーションを取り出すとそれを一気に飲み干した。
そうこうしていると、ソフィアの指示に従って小屋の奥へ行ったティアから声がかかった。
「おばあ様、皆奥の部屋で眠らされていました。特に外傷もなく子供たちもみんな無事です」
「そうか・・・」
ティアの言葉を聞いてソフィアは微笑みうなずいた。
一応リナ達も奥の部屋へと行き問題がないか確認をする。念のためリナも捕まっていたエルフたちに何か魔法を掛けられていないか確認したが何か魔法が掛けられているような反応はなかった。
「とりあえず皆無事だったのならそれで良い・・」
「そうですね」
「よかった~」
「ティア気を抜くのはまだ早いぞ?早くこの者たちを起こしてエルトレームに戻るぞ」
「は~い」
ティアは軽く敬礼すると皆を起こし始めていた。
リナとソフィアは捕まっていたエルフたちはティアに任せて小屋の外に出てあたりの警戒にあたっていた。
「リナも今回の件は助かった」
「いえ、大したことはしていませんよ。それにまだ気を抜くのは早いですよ?」
「ははは、そうじゃの」
ひとまず問題が解決した事で二人も少し気が軽くなっていた。
するとティアが捕まっていたエルフたちを引き連れて小屋の外へとやってきた。
「どうしたんですか二人して?」
「なんでもない。皆も歩けそうじゃな?よし、エルトレームへと戻るとするか」
「「はい」」
そうしてリナたち三人は何とか捕まっていたエルフたちを救出してエルトレームへと戻っていった。
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